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勧誘の秘訣は猫に学ぶべし


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記事:及川智恵(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
「こんにちは~! ステキなメガネですね~!」
 
ああ、またか。またいるのか。
 
自宅の最寄り駅の前を通りかかるたびに、笑顔で声をかけてくる女性がいる。アラフォーぐらいだろうか、私と同じくメガネをかけた女性だ。いつもバインダーを抱えていて、アニメでよく聞くような高めの声で話しかけてくる。
 
以前はたしか「手相を見せてください」と言っていたはずだ。最近は、いきなりお願いしてもダメだと感じたのか、「ステキなメガネですね~!」という褒め言葉に変わった。相手を褒めなさいって、心理テクニックとしてどこかで習ってきたのだろうか。
 
とはいえ、道端で見知らぬ人にいきなり褒められるのは、なかなか気持ちが悪いものだ。あまりに気持ちが悪いので、「お姉さんのメガネはわりと普通ですね」とか、「私、占いが必要なほど悩んでいそうに見えますかね」とか、つい余計なことを言いたくなってしまう。さすがに意地悪すぎる気がするので、ぐっとこらえて黙っているけれど。
 
私は彼女と目を合わせることなく、少しだけ歩幅を大きくして通り過ぎた。後ろのほうから「またお願いしまーす」という高い声が聞こえる。
 
街の中で無差別的に声をかけて勧誘する方法って、かなり非効率なのではないだろうか。私がこの女性だったら、駅前で知らない人に話しかけるよりも、お友達に練習台を頼んだり、WebサイトやSNSを立ち上げたりして集客すると思う。なぜ敢えてあのやり方をしているのだろうか。
 
でもそういえば最近、最寄駅の前では、車の荷台に野菜をたんまり積んできて、街行く人々に声をかけて売っている人たちをよく見かける。また、やはり通りすがりの人々に話しかけてチラシを配り、寄付のお願いをしているNPOの人たちもよく見かける。私は話しかけられても基本的に乗らないのだけど、わざわざこういう方法を取っているのは、ちゃんと効果があるからなのだろう。
 
興味がわいてきた。見知らぬ人に直接話しかけて、不審がられることなくモノを売ったり契約を取ったりするには、どうしたらいいのだろうか。どんな勧誘だったら、聞いてみようという気になれるのだろうか。
 
そう考えていたら、人生で一度だけ、勧誘についていったことがあるのを思い出した。大学生の頃、新宿のアルタ前。声をかけてきた男性に驚くほどしつこく付きまとわれて、折れたのだ。化粧品の勧誘だった。
 
基本的に私は警戒心が強いほうだ。それなのに、なぜついていってしまったのか。
 
最初は徹底的に無視したのだ。それでも、勧誘の男性は一歩も引かなかった。ずっと私の後ろをついてきて、しまいには「え~、無視するんですかぁ~」などと、ずいぶん弱気な言葉を吐き始めた。
 
そのまま無視して振り切ればよかった。なのに、弱々しい発言を聞いていたら、なぜか罪悪感がわいてしまったのだ。聞いてあげないと悪いのかな、という気持ちになってしまったのだ。こうなるともう、立ち止まらざるをえない。
 
歩く速度をゆるめた隙に、彼は私に向かってにっこり笑いかけ、「やっと止まってくれた」と言った。そして、なぜ私に声を掛けたのか、思った以上にまともな理由を話し始めた。お姉さん肌が薄そうだよね、そういう人ほどすごく効果が出る化粧品なんですよ、と。
 
その通り、私の肌は薄くて弱いのだ。いつの間に私の肌をチェックしていたのか。
 
そして、いつの間に私の感情をすっかりコントロールしていたのか。
 
冷たくあしらって申し訳ないという気持ちにして、相手に隙を作り、聞く耳を持たせる。「あなたのことをちゃんと見て選んだんですよ」という情報を出して、信頼させる。ものすごく下から目線で近づいてきたように見せかけて、すべてを操っているではないか、彼は。
 
この男性のやり方、何かに似ている。
そうだ、猫だ。猫に似ている気がする。
 
猫というのは、人間たちをいつの間にか猫ペースに巻き込んでしまう罪な生き物だ。適度に甘えん坊で、適度につれない。ごろごろと甘えてきて、かまってあげざるをえない状況を作ることもあれば、ひたすら自分のペースを保ち、飼い主を相手にしてくれないこともある。猫好きというのは、そんな猫の様子に振り回されるのが好きなのではないだろうか。
 
あの勧誘の男性に感情をコントロールされてしまった私は、猫のペースにあっさりと乗せられてしまう飼い主のごとく、抵抗する言葉を失ったのだった。
 
なお、その後私はオフィスに連れていかれて、女性の担当者とマンツーマンで話をすることになったのだが、幸いにも、私はとにかくすべてを断り倒すことに成功し、大学生にしては高額な化粧品を買わされることなく解放された。このとき以来、一切の勧誘には乗っていない。
 
さて、冒頭の女性の話に戻りたい。
あの手相見の女性は、どうしたら勧誘の成功率を上げられるのだろうか。
 
相手を褒めるというのは、たしかに有効な1つのテクニックなのかもしれない。しかし、安易な褒め言葉はかえって逆効果になってしまう。実際、突然メガネを褒められたとき、私は「なんて怪しいのだろう」と反射的に思ってしまった。あいさつと同時に間髪入れずに褒めてくるものだから、「この人、私のことをちゃんと見て言っているのか?」という不信感が生まれてしまったのかもしれない。
 
また、さっきの化粧品勧誘の男性は、肌質を一瞬で見抜いて私との距離を縮めたわけだが、それと比べると、メガネというのは少し上っ面すぎるようにも感じる。
 
うーん、「こんにちは、今困っていることがあるので、ちょっとだけ助けていただけませんか」みたいな感じで、弱みをさらけ出して同情を買う方向が良いのだろうか。正解はいまひとつよくわからない。
 
次彼女に会ったら、とりあえず猫を飼うことをおすすめしておこうかと思う。
 
 
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2017-07-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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