プロフェッショナル・ゼミ

誰かに決めてもらおうとするなんて、甘い考えだった。《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:松下広美(プロフェッショナル・ゼミ)

「好きかどうか、わからなくなった……」
「それって、別れたいってこと?」
別れたいんじゃなくて、好きかどうかわからないって言ってるんじゃない。
自分でもよくわかんないんだよ。
どんなメールをすればいいのか、わからなくて。
今は会いたくないって言ってるのに、押しかけてきたのはそっちじゃん。
でも、それって「別れたい」ってことになるのかな……。

「結婚」という言葉を聞くと思い出す。
10年を「ひと昔」とするのなら、「ふた昔」も前のこと。
「この人と結婚するかも」と、リアルに感じていた。

彼とお付き合いを始めたのは、高校3年生のとき。
私は受験生だったので、デートは日曜日に図書館で、ということが多かった。私に合わせてくれていた。
学生だった私に対し、彼は7歳年上の社会人だったから。

私は高校生から大学生になり、新しいこともたくさん増えたし、楽しいこともいろいろあった。彼とも、図書館デートだったのが、別の場所でのデートになっていった。新しいことが増えても、彼との時間が少なくなるわけではなく、逆に高校生のときよりは会う時間が増えていった。
それから2年くらい一緒にいて、その2年の間に何度か「結婚したいね」と彼から言われた。「結婚」という言葉を聞くたび、ふわふわした綿菓子のようなものを想像した。
そのままお付き合いを続けて、私も社会人になって、何年かしたら結婚するんだろうなって思っていた。
けれど、考えていたように、うまくはいかなかった。

2年近く付き合っていたけれど、親には彼のことを話したことはなかった。
恥ずかしいのと、彼が7歳も上だってことや、詮索されたくないって気持ちといろいろあったのと、話す機会がなかったのと。
しかし、突然、話す機会は訪れた。
彼に家の近くまで車で送ってもらい、その車の中にいる現場を見つかった。

「言えないような人なら、別れなさい」

バレてから数日後、母にそう言われた。
好きだから別れないよ! と言えればよかったのかもしれない。
けれど、そんなよくある話のようには言えなかった。
彼となんでお付き合いしているんだろう? 彼のことが好きなのかな?
自分自身の気持ちに、疑問を持った。ほんとうの気持ちはどこにあるんだろう。考えれば考えるほど、わからなくなった。わからない気持ちを言葉にできなくて、彼にメールも電話もできなくなった。
「おはよう」とか「おやすみ」とか、そんな簡単な挨拶のメールもできなくなった。

「何かあった?」
数日、彼女から音信不通になれば、さすがに何かおかしいと感じたんだと思う。
様子を探るメールが届いた。
けれど、そんなメールにも返事ができなかった。
何回もくるメールに、返した返事が
「好きかどうか、わからなくなった」
だった。

それから一週間もしないうちに、彼とは「お別れ」した。
綿菓子のようなふわふわした気持ちだったのに、お別れしたときには綿菓子がギュっとなってベタベタしてしまったような、それよりももっともっと重い鉄の玉のような想いが心に残った。

ハタチのときに「結婚するかも」と思った私が、「結婚したい!」と思ったのは、それから5年以上も経った頃。

「28歳までに結婚する!」
友達の前で、選手宣誓をするように高らかに宣言した。
「え? 誰か、相手いるの?」
「いないけど。これから探す」
当時、恋人もいなかったが、急に結婚したくなった。
理由は、いろいろあった。
周りに結婚する人が出てきたこと、仕事がおもしろくなかったこと、家にいることに窮屈さを感じていたこと……結婚をすることで全部解決できるんじゃないかと考えた。

それまでにコンパで全く恋人ができたことがなかった。会社内にそれらしき人もいない。友達の紹介も期待できない。
このまま同じことを繰り返していても結婚はできない。
どうしようかと思っていたら、会社の派遣さんが「結婚相談所」を紹介してくれた。怪しいところだったらやだな、と思った。けれど、身元調査で戸籍謄本を提出しなければならなかったし、有名な結婚式場と提携しているようだった。
入会金5万円、月会費5千円、それに加えて1件のお見合いごとにいくらか必要だった。成婚料で10万円という料金にも驚いたが、そこまでお金をかけるのであれば結婚もできるんじゃないかと思い、登録を決めた。

10人以上の人とお見合いをした。
年収がどれくらいの人がいい、とか、長男は嫌だ、とか、細かい希望はなかった。結婚相談所の担当者の人に勧められるがままに、お見合いの相手を決めた。
初回のお見合いで「ちょっと……」とお断りをすることが多かった。

「次は、飲みにいきませんか?」
「いいですね、そうしましょう」
そんなに嫌なところはないし、とお見合いをしてその後に3回くらい会った人がいた。
お酒を飲むことも好きだというので、一度飲みに行きましょうということになり、名古屋駅で待ち合わせをした。
「どこか、いいお店はありますか?」
初めての夜デートだし、相手を立たせようと思い、聞いた。
「あ、インターネットで調べてきたんですよ」
ん? インターネット?
間違ってはいないが……ネット、って言わない?
ま、いいや。どこか調べてきたんだよね。
彼は、カバンをゴソゴソし始めた。
今みたいにスマホの時代ではなかったので、携帯ではなく家のパソコンで調べて印刷してきたのかな、と待っていた。
行ったことのないお店だといいなーと呑気に構えていた。
と、次の瞬間、彼が手にしたものを見て、私は固まった。
季節も覚えていないが、さーっと冷たい風が目の前を吹いた気がした。

彼が手にしていたものは、B5サイズくらいの地図帳。

車にナビが普及していない時代、道を調べるのは地図帳だった。
車に地図帳を常備するのは、当たり前だった。
でも、街に来て、地図帳を開きますか?
名古屋駅で、地図帳を開いている人を見たことがありますか?

「えーっと、ここに行こうと思うんです」
地図帳に目を奪われていた私は、我に返る。
で、どこ行くって?
ここ、と見せてきたのは、地図帳に挟んであった小さなメモ。
お店の名前が書いてあった。

「あ、あっちの方に行けば、いろいろお店がありますよ!」
ありえないよ、マジありえない。
名古屋駅の真ん中で地図帳を開いて、どこへ連れて行かれるかと思ったら、どこにでもあるチェーン店だって?
ネットで、インターネットで調べたんじゃないのかい?
飲み屋を選ぶのに迷うほど店があって、デートなんだから、ちょっと小洒落たお店を選ばないかい?
あー、だからお見合いしてるんだ。
ないない、絶対ない。
街に出てきてまで、チェーン店なんて行きたくないよ。

私は地図帳を閉じさせた。
飲み屋の多くある通りの方へ歩き出した。
2人なら、どこか入れるお店があるはず。

適当なお店に入り、仕切り直す。
でも、仕切り直せなかった。

私の婚活は、この地図男を最後に、幕を閉じた。

婚活に終わりを告げ、8年ほどが経とうとしている。
もう、40も近くなってきたが、未だに結婚はできていない。

なんで結婚しないのか、と聞かれれば、結婚したいと思う相手がいないから。
結婚したくないのか、と聞かれれば、相手がいればいつでもしたい。

結婚をしている人に対し、一段も二段も下にいるような感覚になる。
歳を重ねれば重ねるほど、その段は高くなるし多くもなる。
結婚できないのは、私自身が何か欠陥があるからなのではないか、人として足りないものがあるんじゃないか、そう思ってしまう。

婚活をしていたとき、なんで結婚したいのか、と聞かれたら「子供が欲しいから」と答えた。子供を作るためには、まずは結婚しないと、と思っていた。

今、なんで結婚したいのか、と聞かれると、答えられない。
答えられないというより、答えがない。
誰か、隣にいれば違うのかもしれないが、誰でもいいから結婚したいとは思わない。

婚活をやめた原因の一つが「地図男」の存在だ。
でも、大きな理由としては「ここに私に合う人はいない」と思ったからだ。
お見合いをするような、誰かに相手を決めてもらおうとしているところに、私の求める人はいない。私も婚活しているときは、頭のどこかで、誰かに相手を決めてもらいたい、という気持ちがあったと思う。でも、そんな気持ちが少しでもある人とは一緒にいることができない、ということに気づいてしまった。

私が一緒にいる相手は、私が決める。

次に「結婚したい」と思うのは、明日かもしれないし、何十年後かもしれない。
いつになるかはわからないけれど、私が決めるのだから、それでいい。

***

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