プロフェッショナル・ゼミ

汝、痩せたくば「ダイエット」をやめよ


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:よめぞう

こんなはずじゃなかった……

鏡の前にいるはずの私は、そこにいなかった。

「ウソだ……」

そこに映っている人は、一応私の顔をしている。
けれども、その人が私であることだけはどうしても認めたくなかった。

ボサボサに傷んだ髪の毛
汗と化粧がドロドロになった顔
かろうじてくびれが残っているウエスト
そして、ポッコリとたるんだお腹

今の私に「劣化」という言葉がよく似合う。
出産と育児を言い訳に、私の体はだいぶ怠けていたようだ。

私は、どちらかと言えば小柄で痩せ型な方だった。
おかげで「ダイエット」という言葉には無縁の生活を送ってきた。
食べたいものをどれだけ食べても、飲みたいものをどれだけ飲んでも体型が変化することは29年間1度も無かった。私が太るなんてありえない、大丈夫とずっと思っていた。

それは大きな勘違いだった。
太らないとタカをくくっている間に、私のお腹の中では順調に皮下脂肪が育っていた。そのうち自然に痩せるだろうと思い込んでいる間に、脂肪は私の腹の中に居座ってしまっていたのだ。そして、気づいた時には「2人目できた?」と言われてもおかしくないサイズのポッコリお腹が完成されていた。

「これは酷い」

鏡に映る自分に向かって吐き捨てるように呟いた。

とりあえず、この腹はなんとかしないといけない。
それだけは確かに言えることだ。
けれども、このお腹をどう引っ込めて良いのかが全くわからない。

できるなら運動したくないし、食事制限もしたくない。
楽して「痩せる」なんて無理だというのは十分わかっている。
それでも「よし、痩せるぞー!」と思い腰をあげる気にはなれなかった。
「私がダイエット? ありえない」と変なプライドが邪魔をするのだ。

「ママ、ダイエットするけん」

「はあ!? もう何回言いようと? マジでママのダイエットは永遠のテーマやね」

長年、母とこのやり取りを何度も続けてきた。
そして、母に限らず「ダイエット」を頑張る! と宣言する人を多く見てきた。
けれども、その人たちが自分の目標とするところまで達成しているのを見たことがない。だから「ダイエット頑張る」宣言をするのを聞くたびに、心の中でまたかよ、またやるのかよ……と半ば呆れていたのだ。
しかし、私はその無限ループへ今まさに足を踏み入れようとしている。

いやだ……そっちの世界に行きたくない!
だけどキツいのはしたくない……

受け入れがたい現実を目の前に、私は酷く悩まされた。
けれども悶々とする中で、ある仮説が浮かんできた。

「ダイエット」を頑張る「ダイエッター」こそ実は死ぬ気で痩せたいと思っていないのではないか、と。

長年、身内やテレビなどで「ダイエッター」を多く見てきた中で、彼女たちは大きく2種類の「ダイエッター」に分類できることがわかった。

1つは「意識高い系」ダイエッターだ。
その名の通り、とにかくダイエットに関する知識量が多い。朝バナナダイエットや、お腹温めダイエットなど、話題になったダイエット法は大抵お試し済み。どうやったら痩せるのかを日々研究している人が多い。

もう一つは「なんちゃって」ダイエッターだ。
これが非常に厄介なのだ。一応、痩せたいとは思っているがさほど自発的ではない。「明日から頑張るから〜」とか「この方法だったらいくら食べても大丈夫だから」と言っては目の前のお菓子をボリボリ。私はどうもこちらに分類されそうだ。認めたくないけど。

この2種類のダイエッター、一見すると「意識高い系」の一人勝ちのように見える。けれども、この「意識高い系」でも失礼ではあるが効果が見られない人が結構いるのだ。

なぜ、痩せられないのか。
その答えはいたってシンプルだった。

「痩せたい」とは思いつつも、実は現状に満足しているからだ。

「意識高い系」で言えば、彼女たちの中で「ダイエット」がステータスになってしまっているのだ。
「今は、これが話題になっている!」と新しいダイエット法が出るたびに、まるでつまみ食いのように様々なダイエット法をハシゴする。結局、効果が期待される前には別のダイエット法を試し始めているのでなかなか結果に結びついていないのが現状だろう。けれども、そんなことはつゆ知らず「こうやって自分磨き頑張ってるワタシ、イイね!」と痩せるためにするはずだったダイエットが「女子力を上げるアイコン」としてのダイエットになってしまっているのだ。まさに「意識の高さ」が仇となってしまっている。

「なんちゃって」に関して言えば、自分の置かれている状況を理解していない。

「私、ちょっと太ってきたからそろそろダイエットしなきゃ」

「えー! 大丈夫でしょ! 全然太ってないじゃーん」

女子の皆さんなら、一度はこのやり取りをしたことがあるだろう。
「太ってないじゃーん」と言われて、心の中で「あ、まだ私意外と大丈夫なんだ」とホッとしてしまう人は要注意だ。女の「容姿に関する大丈夫」はさほどアテにはできない。「ダメダメ! アウトだよー!」なんて直接言っていたら横の幅が広い女子社会では村八分にあってしまう。だから、はっきり「ダメ」なんて言ってくれる人の方が少ないのだ。それは、おそらくみんな理解しているはずだ。それでも「大丈夫」と聞いてしまうとついつい油断してしまう。そして、その結果腹の上のポニョがお出ましになるのだ。

私の場合、元々「痩せていた」ので完全に油断しきっていたのに加え、普段そんなに体型が出ない服を着るので腹の肉は周りから気づかれることがほとんどない。その状態で「痩せたい」なんて言うもんだから、周りからは「それマジで敵つくるよ」と言われてしまう有様。確かに腹は出ているが、周りから見れば「敵つくる」レベルで大丈夫なのか……とうっかり安心してしまい、今日の私の腹は出来上がったのだと思うと自分自身に憤りを隠しきれない。

つまり「ダイエット」というもの自体そもそも存在しないのではないだろうか。
「ダイエット」という言葉の幻に惑わされて、本来の目的だった「痩せる」ということを私たちは見失っているのかもしれない。
そうなると、非常に良くない。せっかくの努力が報われないのだ。

では、本当に「痩せる」ためにはどうするのか。
答えは簡単だ。「ダイエット」をやめることだ。

痩せるなんて決して簡単ではない。
「楽して痩せる」なんて、この世には初めから存在しないのだ。みんな涼しい顔をしながら、見えないところで自分の「ナイスバディ」のために黙々と努力を続けているのだ。決定的に「ダイエッター」と違う点を挙げるとすれば、彼女たちは自分の体と真摯に向き合っているというところだ。今、自分の体はどこが欠点なのか? その欠点を埋めるためにはどうすれば良いのか? と常に自分に問いかけている。具体例を挙げるとすれば「ダイエット」のための食事制限ではなく「体づくり」のために不必要な食事を制限するというような感じだ。

じゃあ私の体は……というと、産後で腹筋が衰えている上にパソコンやゲームによって姿勢が少々猫背気味になってきている。そこで、まずは運動どうのこうのというよりは「姿勢を正す」ことから始めた。頭の上からピーンと糸で引っ張り上げられているようなイメージで、まっすぐ背筋を伸ばしてみた。すると、驚くことを発見した。

綺麗な姿勢をキープするためには「腹筋」を使っていたのだ。

そんなの、当たり前じゃないか。と思う人も改めて「背筋ピーン」をやってみてほしい。想像以上におヘソ周りの筋肉がキュッとなってきているはずだ。
私はさらに「背筋ピーン」の状態で、おヘソの中心にグッと力を入れてみた。

「お、おお……」

腹筋が、喜んでいるではないか!
ただ姿勢を正すだけで、料理などのたち仕事の合間にちょこちょことお腹に力を入れるだけで、辛い腹筋をせずとも体を鍛えることができるなんて裏技もいいところだ。しかも、コストゼロでお財布にも優しい。

思えば、ミスユニバースに出る人やモデルさん達はみんな何と言っても「立ち居振る舞い」がカッコ良い。どうしてカッコ良いのか……それは「姿勢が美しい」からだ。やはり、それだけ「姿勢」というのは大切ということがよくわかる。

メディアでは、モデルさんが「私は毎朝このスムージーを飲んでいるの」とか「このサプリメントがとても良いの」とかにスポットが当てられがちだ。けれども本当に大切なのは灯台下暗し。体の軸がブレていてはせっかくのスムージーも、サプリメントも効果を発揮してはくれないのだ。

だから、私はまず「綺麗な姿勢で居続ける」ことに取り組むことにした。
ただ、気が付いた時に「綺麗な姿勢」を意識するだけ。料理中などの立ちっぱなしの時は「ついで」に腹筋に力を入れたり抜いたりしてみるだけ。
これを意識し始めて、ちょうど今ひと月ほど経ったところだ。

なんと! 腹の肉が少し減ったのだ。

デニムの上からだらしなく垂れていた私の腹は、いつの間にか軽く乗っかる程度にまで減っていた。
先に言っておくと、一切の食事制限も運動もしていない。大好きなラーメンは替え玉とご飯までちゃんと食べるし、お酒だって満足するだけ飲む。運動は嫌いじゃないけど面倒だからしたいと思わない。
そんな「ズボラアラサー女子」が姿勢を正すだけで、本当に腹の上のポニョとサヨナラする日が来るとしたら……奇跡だ。

もし、そんなことが私だけでなくあちこちで実現したら大変だ。書店で「ダイエット」に関する本が売れなくなってしまう。それだけじゃない、ダイエットサプリも姿を消してついには「ビフォーアフターの凄い」コマーシャルが話題のあのジムだってテレビで見かけなくなるかもしれない。

その代わりに街中には、モデルさん顔負けの立ち居振る舞いをする「キレイ女子」が溢れかえるだろう。さらには浮いたサプリメント代をさらに「磨きをかけるため」の資金に回すことで、ますます美女が量産されていくだろう。
そして、私は今その「パイオニア」になるべく毎日「背筋ピーン」を合言葉に頑張っている。誰も思いもしなかったこの方法が、私の体によって証明されればこの脂肪がお金に変わる日も決して遠くはないのだ。

姿勢をただす。
時々お腹に力を入れる。

この2つだけで、私は腹の上のポニョと絶対におさらばしてやる。
成功させれば、アメリカンドリームが私を待っているんだから。

お腹が引っ込んだらもっと体のラインが出る服に挑戦してみようか?
30になる前にビキニを着ることができるのだろうか?
浮いたお金で何をしようか……?

妄想するだけでニヤニヤが止まらない。
そりゃあ自然にお腹へ力を入れる回数も増えるわけだ。

今年の夏が終わる頃、私はどんな姿になっているんだろう。
ドヤ顔のビキニ姿で立っている自分の姿を想像して吹き出しながら、今日も腹の上のポニョと楽しく遊んでいる。

***

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