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プロフェッショナル・ゼミ

“燃えたもん”勝ち? 恋も花火もCMも《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:あやっぺ(プロフェッショナル・ゼミ) ※ストーリーは実話ですが、登場人物の名前は、全て仮名にしています。

「これで何か適当に飲むもん買うてきてくれ」

寺井君はそう言って、彼の親友である常田君に1万円札を渡した。

「親友にパシリをさせるなんて、エラそうに!」

私は内心そう思っていた。
この日、私達は寺井君の誘いで、「くらわんか花火大会」に来ていた。
寺井君と私は大学の語学のクラスが同じで、寺井君にはノートを貸してと頼まれることがよくあった。日頃のお礼だという寺井君の、いわば接待のような形で招かれたのだった。
私は、家族以外と花火大会に出かけるのは初めてだった。
せっかくの機会なので、親友の美幸ちゃんも誘って一緒に出かけた。

花火大会の会場は、大阪府枚方市・京阪電車の樟葉駅前にある「くずはゴルフ場」。
「くらわんか花火大会」は、1998年頃までこのゴルフ場で開催されていた。
それまで、私が見聞きした花火大会と言えば、とにかく人が多くて、場所取り合戦が熾烈、トイレに長蛇の列ができるなど、何かと大変なイメージが多かった。
しかし、この樟葉の「くらわんか花火大会」は、ゴルフ場の広大な敷地内で開催されるため、前の人の頭が気になることもなく、知らない人の汗まみれの体が密着するようなこともなく、レジャーシートを敷いて快適に見物することができて、本当に最高だった。

常田君が飲み物を抱えて帰ってきた、ちょうどそのタイミングで、花火が上がり始めた。
私たちは乾杯して、互いの大学の話などで盛り上がった。
よく考えると、寺井君が買い出しに行ってしまったら、私と美幸ちゃんは初対面の常田君と何を話せば良いか戸惑い、微妙な空気になっていたかもしれない。
買い出しを常田君に頼んだのは、寺井君なりに気を遣ってのことだったのだろうと、後から気づいた。

私にとって、この日の花火大会は、寺井君のもてなし力のお蔭で、忘れられない思い出となった。
この日があまりにも楽しかったので、私はすっかり寺井君のことを意識するようになってしまった。
そして、その後しばらくして、寺井君と付き合うことになった。
寺井君は、私にとって人生初の彼氏だった。

若手社員がいわゆる「デキるタイプ」かどうかは、花見の幹事をさせたらわかるという話をよく聞くが、花火デートは、デキる男をアピールする絶好のチャンスだと思う。

待ち合わせ場所と時間の決め方、会場でのエスコート、飲み物や食べ物の手配、トイレの場所の確認など。
特に女子が浴衣で出かけた場合は、歩き慣れない下駄で鼻緒ずれができたり、いろいろとアクシデントも起こりやすい。
そういったことに気遣いを見せてくれるかどうかで、男子への印象や好感度が大きく変わってくる。

花火大会の当日は、駅も会場への道中も、近隣の飲食店も、とにかくどこも大混雑だ。
そんな中、行きつけのなじみの店を予約して、花火が始まる前にゆっくりと食事を済ませてから、たっぷりと花火見物をさせてくれる。
そんな男性は、それだけで“デキる男”度が高いことがよくわかる。
急に思いついて、にわか仕込みでどうにかなることではないので、誤魔化しがきかないのだ。

私は、人生初彼氏となった寺井君に始まり、これまでに花火大会を楽しませてくれた人とは、その後、お付き合いに至るケースが多かった。
もともと、ある程度の好意があるからこそ、一緒に花火見物に出かけているという前提はあるものの、花火大会での「デキる男っぷり」を見せられて、さらに惹かれるという典型的なパターンだ。
花火大会は、視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚の、五感全てで楽しめるシチュエーションだと思う。
良くも悪くも、全身に記憶が刻み込まれる。だから、恋に繋がりやすいのかもしれない。

ちなみに、私は、寺井君が親友の常田君に頼んで調達してきてくれたお酒を、今でもハッキリと覚えている。
当時、女子が好きそうな甘いお酒の中でも、特に見た目もお洒落だった、サントリーの「ザ・カクテルバー」シリーズ。
私は、あの夜、優しいオレンジ色のスクリュードライバーを選んだ。
「8月」「花火」「浴衣」から連想ゲーム的に言葉を続けるとしたら、私は今でも「オレンジ」「スクリュードライバー」と答えそうな気がする。
そのくらい、思い出深いお酒だ。

サントリーと言えば、最近、新商品のビールのPR動画で、「不快だ」「卑猥だ」「AVじゃないんだから」などと批判が相次ぎ、公開中止となるという騒動があった。
テレビCMとは全く別物として作られたPR動画は、発売の2日後の6日から、特設サイトとYouTube、Twitter上で公開されていた。
動画は男性からの視点で作られており、出張先の各都市で出会った女性と食事をするという内容だ。視聴者は、女性と一緒に食事シーンを疑似体験しているように感じる作りとなっていた。
その中で性的な連想をさせるセリフがあるとして、ネットユーザーから「不適切」「卑猥」といった批判の声が上がった。

インターネット上では炎上でも何でも、とにかく話題になることで、そのコンテンツは次々と拡散される。TwitterやFacebook、ネットメディアも取り上げる。
「結果的にたくさんの人が見る」ことを狙うのだ。
炎上はブランドイメージを損ねるリスクが大きいが、うまく当たればとてつもないPRになる可能性を秘めている。
話題になるために、目立つことを重視して、より過激な表現に走りがちになる。
テレビの影響力低下に歯止めがかからない今の時代、この傾向は当面続くのかもしれない。

私は日頃から、“セーフの中のぎりぎりアウト寄りなライン”を狙うのが好きな性分なので、あまり批判的な見方はしない方なのだが、今回の一連の騒動については、少々残念な気持ちになった。
サントリーのCMは、好感度が高くて印象に残ると、昔から定評があった。
私もサントリーのCMが好きな一人だった。
だからこそ、いくら特設サイト用に作られたPR動画だったとしても、CMには定評のあるサントリーが、まさかそんな批判を浴びるような動画を流しているとは信じられなかったのだ。

サントリーの名CMは本当にたくさんあると思うが、私が特に好きだったのは、故・大原麗子さんが出演されていた、サントリーレッドのCM。
大原麗子さんの色っぽい声でささやかれる「すこし愛して、なが〜く愛して」のキャッチコピーがとても印象的だった。

他にも、吉岡秀隆さんが出演した、日本各地の特産フルーツの果汁を使ったチューハイのCMも好きだった。
吉岡さん演じる彼氏が旅先から送った手紙を受け取った彼女が、「なーに言ってんだか」とつぶやくという、甘酸っぱいやり取りが微笑ましかった。

さらに、長塚京三さんが独特のスキップをされるシーンと、
【恋は、遠い日の花火ではない】
というキャッチコピーが印象的だった、『NEWオールド』のCM。

会社の飲み会の帰り道のOLと上司。

「課長の背中見るの好きなんです」
「やめろよ」

その後、上司である長塚さんがピョンと跳ねて、「恋は遠い日の花火じゃない」のコピーが流れる。

同じシリーズで、田中裕子さんがお弁当屋さんの店員を演じたバージョンもあった。
若い学生風のお客さんとのやり取りで、

「毎日うちのお弁当だけじゃ飽きるでしょう」
「……弁当だけじゃないから」

その後、田中裕子さんがピョンと跳ねて、例のコピーが流れる。

CMのわずかな時間で、決して奇をてらうわけでもなく、これほどまでに心ときめくストーリーが描き出せるとは、まさに秀逸なのだと思う。
このCMが放映された1994年は、バブルの終焉から右肩下がりの時代へと向かう、そんな時代だった。
それまで経済成長を支えてきた、団塊の世代前後の人達を癒し、勇気づけたいという思いから、このコピーが生まれたのだという。

昭和の懐かしい町並み、バブルの終わった日本経済。
そこに、年齢的な「衰え」を重ね合わせている。
しかし、この衰えは、決して悲観的なものとして描かれていない。

「恋は、遠い日の花火ではない」

つまり、あなた達はまだ終わっていない。
それは、若い頃のような恋ではないのかもしれないけれど。
ただ明るく元気なだけではなく、穏やかに心に染み入るような。
何気ない日常の中にも、ふとした瞬間に「恋心」や「ときめき」を感じたっていいじゃないか。
いくつになっても大切に持ち続けていこう。
そんなメッセージが込められているように思う。

このCMの反響の大きさは、映画やドラマにも及んだ。
1997年2月に公開された映画『恋と花火と観覧車』は、長塚京三さん演じる中年の男やもめと、松嶋菜々子さん演じる若いOLの恋を描いた恋愛コメディだ。
恋愛の現役ではないという気後れから、肝心な一歩が踏み出せない中年男と、年下の女性の恋愛模様が描かれた。

また、同年4月からは、「理想の上司」という、ストレートなタイトルのドラマが放送され、連続ドラマ初主演となる長塚京三さんが、部下のリストラを命じられ苦悩する中間管理職を好演された。

さらに、毎年産業能率大学が発表している、新入社員に訊いた「理想の上司」ランキングで、長塚さんは1998年に1位となり、その後も2005年まで上位にランクインし続けた。
それまで、長塚さんと言えば悪役や厳しい教師役などが多かったが、サントリー『NEWオールド』のCM出演以降、すっかり“理想の上司”のイメージが定着した印象だ。
そのくらい、CMの反響は大きかったことが窺い知れる。

恋は、遠い日の花火ではない。

あのCMと同じく、私も20代の頃、直属の上司である八木さんの背中を見るのが大好きだった。
彼は、まだ付き合う前の頃、歳の離れた私のことを「眩しい」とよく言っていた。
そう言えば、『恋と花火と観覧車』は、レンタルビデオ店で借りてきて、彼と一緒に観た。
いや、正確には、断片的にしか観ていない。
自分で借りてきたくせに、じっくり見ると言うよりは、部屋で彼の肩や背中をマッサージしながら、彼の肩越しにチラ見していた。そんな感じだった。
なので、タイトルと主演のキャスト2人は記憶にあるのだが、実は細かなストーリーまでは詳しくは覚えていなかった。

長年付き合っていたのに、実は八木さんとは、お付き合いをした人の中で、唯一、一緒に花火を観に行ったことがない。
一度、職場の同僚とグループで行こうとしたことがあったのだが、当日、彼だけが体調不良で行けなかったのだ。
それ以来、埋め合わせの機会に恵まれることがないまま、今日に至っている。

お互いに歳を重ね、私は出会った頃の八木さんの年齢を既に超えている。
彼に会えると考えただけでときめくし、ドキドキもするのだけれど。
胸が締め付けられるような、苦しいほどに切ない恋ではなく。
穏やかでじんわり温かい、激しさよりも深さを感じる、そんな恋だと思う。

今年も花火大会の季節がやってきた。
幸か不幸か、今年はいろいろな事情が重なって、私はまだ夏の予定をほとんど立てていない。
昨年は夏に3回、秋に1回、花火を観る機会に恵まれたが、今年の私はどこで誰と花火を観るのだろうか。

恋も花火もCMも、結局のところ、“燃えたもん勝ち”なのかもしれない。
そんなことをふと思う。

これまで、一度も実現していない、最愛の彼・八木さんとの花火デート。
昨年末の再会を祝して、今年は思い切って八木さんを誘ってみようかな。
今、絶賛思案中、いや妄想中だ。

***

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