メディアグランプリ

バトンを握りしめて、今日も走る


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:池田育弥(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
いまから15年前。2002年、就職氷河期まっただ中。
働き始めたら絶対着ない、ひざ丈スカートのリクルートスーツ。黒いパンプス、黒い肩掛け鞄。
日本に何十万人も同じ服装のクローンがいた。
わたしも、見事にクローンの一人だった。
就職活動のために、金髪だった髪を染めて、異様に黒い髪の毛。
その人工的な黒さが、無理やり「就職」というカタチに当てはめた、胡散臭いクローンだった。
 
わたしは、就職活動の面接が好きだった。
口からスラスラ出てくるテッパンのトーク。
もちろん、台本を読むようなトークにはならない。
相手の反応を見ながら、キャッチボールみたいな自然な会話を演出する。
1次面接、2次面接とクリアしていくのがゲームのようで、順調に内定を獲得し、鼻高々だった。
 
しかし、私というクローンの「胡散臭さ」を見破った人がいた。
 
ある企業の最終面接を、担当していた男性だった。
 
ようやくたどり着いた最終面接。
1時間ほど話をしただろうか。
私の思惑通り、話は盛り上って、入社した後の具体的な配属の話になった。
これは受かったなと思っていた矢先だった。
 
「きみ、すごく頑張り屋で、とっても優秀で、結果を出してきているのはわかるけどさ。そもそも、なんのために、頑張るの?」
40代くらいの、カジュアルな服装の管理職の方だったと思う。
 
「挑戦して、自分を常に成長させていきたいのです」
と答える私。
ここは勝負所だと思った私は、
「成長したい、価値を出したい、結果を出したい、その為には、仕事に埋没したい」というような話を続けた。
 
その面接官の男性は、私に矢継ぎ早に質問を繰り返す。
「なんのために成長したいの?」
「なんで、そんなに頑張りたいの?」
「なんのために、結果を出せるようになりたいの?」
 
とにかくその面接官は、「頑張る理由」をしつこく聞いてくる。
 
わたしは、面接官の問いに応えつつ、
「会社のために滅私奉公して働きます、頑張りますって言っているのだから、ラッキーと思って内定出してくれればいいのに」と思っていた。
 
会社に入って、頑張って、結果を出す。
認められて、昇進して、部下ができて、居場所ができる。
クライアントに認められて、自分の名前で仕事がとってこられるようになる。会社で一目置かれる。
収入も人より秀でていて、自分の将来のために投資する余裕があって。
大手企業のようにネームバリューだけで選んでない、ちょっと個性的な企業を選んでいる。
 
そんな自分のストーリーを思い描いていた。
いまから思うと、自分で作り上げたキラキラした自分を演じることに、呑み込まれていたのだと思う。
 
ひとしきり、私の演説を聞いた面接官は、こういった。
「君は頑張ることが目的になっている。頑張ることを自分に課している。そういう頑張りは、周りを不幸にする。うちの会社は、頑張ろうと思ったらどこまででも頑張れる。いくらでも仕事させちゃう。だからこそ、そういう頑張り方は、あなたも、あなたの周りも、会社も不幸にするから、僕は君に内定は出せない。」
 
落とされた。
 
わたしはその時は、その人の意図がわからなかった。
なんなら、「面接官に見る目がなかった。あんな企業入らなくて正解!」と思った。
頑張りたいという新入社員にチャンスを与えないなんて・・・・・・。
 
あれから、別の会社に就職し、ただただ頑張ることを繰り返した。
結果はついてきたけど、たくさん痛い目にあった。
そしてようやく、あの人が伝えてくれようとしたことが、本当にわかる。
 
「頑張るために頑張る人は周りを不幸にする」
 
本来、何か自分の中にやりたいことがあって、それを実現するために、手段として頑張るのだが、
頑張るために頑張るというのは、スタート地点が違う。
 
頑張ることが目的になってしまうという事は、結局、誰かに認めてほしいと外に軸を置くことなのだ。
自分の中身がないから、周りの評価や頑張っている事実で自分の存在価値を埋めようと躍起になる。
 
そういう人は、いくら頑張っても、満足できない。
自分をどんどん追いつめる。
そして、「わかってもらえない」と、周りを攻撃しはじめる。
周りにも頑張ることを強制する。
自己イメージに少しでも傷がつくと病みはじめる。
一度結果を出したら、それを壊したくなくて変化できなくなる。
 
部下にそっぽを向かれ
自分の健康を犠牲にし
家族に負担をかけて関係を悪化させ
いろんな痛い目にあって
長い長い暗いトンネルをようやく抜けて、ようやくわかった。
 
そうじゃないのだ。
本当にやりたいことがあったら、周りの目がどうか気にせず、ただ頑張っちゃうのだ。その結果がついてこようが、人に認められようが、ただただ、やっちゃうのだ。
自分の存在価値を他人においてないから、他人を攻撃することもない。
自分の存在価値は、頑張ってきた結果に置いてないから、結果が出たとしても、その結果を潔く手放して、常に変化することができる。
健全に、純粋に、頑張ることができる。
 
わたしは、あの人からバトンを渡してもらったと思っている。
名前もわからない、これから会うこともないだろう男性だけど、あの瞬間渡してもらったバドン。
 
思い浮かぶのは、箱根駅伝。
走者は、どんなに苦しくても、自分の区間を自分で走るしかない。
その時の息苦しさ、体が上げる悲鳴、見えている景色、感じられるのはその人だけだ。
でも、そのつらさや、自分と向き合って走り切った経験を、バトンに込めて、次の人に託す。
自分もそのバトンを誰からか受け継いでいる。その前の年、その前の年から受け継がれてきているのだ。
想いを、バトンに込めて、次の世代に渡している。
 
あの人も、たくさん痛い目にあって、だからこそ、私に時間をかけて伝えてくれたのだ。
あの人の苦労と人生経験を、託してバトンを渡してくれたのだ。
「なぜ、何のためにこの仕事をするのか?」という一番大事な部分を、他人に寄りかかってはいけないのだと。
 
あのバトンは、今では私の宝物の一つだ。
そして、新卒の面接官をやる際には、同じことを問いかける。
「あなたは、なぜそんなに頑張りたいのですか?」
今度は、私がバトンを次の世代に渡すのだ。
 
 
***

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2017-08-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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