メディアグランプリ

終わった恋とクロゼット


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記事:松原早美(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
わたしには捨てられない服がある。
それはクロゼットの奥の列。右の隅にいつもある。
 
ノースリーブのシンプルな形のワンピと半袖ボレロのアンサンブル。クリーム色を基調とした麻混の生地に白いスクエアカラー、パールの飾りボタンが上品な一着。
 
衣替えのたびに取り出してはちょっと鏡に映してみて、「ああやっぱりもう着ないな」と、またクロゼットの奥にしまい込んでしまう。
そんなことをもう何年も繰り返している。
雑誌の片付け特集では、「3年間着なかった服は、永遠に出番はないから、さっさと処分するべし」と教えられたというのに。
 
女はなぜ「もう着ない」とわかっている服を捨てられないのだろう?
高かったから?
もう一度やせたら着られるから?
想い出の服だから?
 
人それぞれ理由はあるだろうが、わたしの場合値段はあまり関係なく、お気に入りだった服は捨てられない。そこに特別な想い出がなくても。
 
好きだったのに着る機会がなかったりして、袖を通さなくなって何年もたった服。サイズも大丈夫だし汚れがあるわけではないから、着ようと思えばまだ着られるけど、鏡の中の自分にはなんだかもう似合わないのだ。
 
これがもうサイズ的に全然合わないとか、すごいシミがついちゃったとか、着用に支障があるレベルだったら諦めがつくのかもしれない。
でも機能的にどこも悪くないものは、どうやって諦めたらいいのだろう?
 
もう着ることはない。そうわかっていても、クロゼットに着ない服を戻す。クロゼットはそんな服でいっぱいだ。
着られることもなくクロゼットにしまい込まれた服は、冷蔵庫の中で忘れられた食べ物が傷むように、時間が経つとゆっくりと変容してしまうのだろうか。そうして似合わなくなってしまうのか。
いや、もちろん服だって多少の経年劣化はするだろうけれど、それよりも大きく変わっているのは自分の方なのだろう。
 
クロゼットは、「もう絶対に着ることはない」と自分に納得させるまで、つまりその服を捨てる決心がつくまで、時間を塩漬けにしておくための場所なのかもしれない。
 
あるとき「どうしても捨てられないものは、写真を撮って実物は処分するといい」と聞いた。でもこれが、いざ実行してみると、写真に残してもその画像を見返すことは全くないことに気づく。
そう、その服との関係はもう自分の中ではとっくに終わっていたのだ。
 
これって、まるで終わった恋のようではないか。
 
恋は、終わっていることに気づきにくいうえに、もう終わったことがわかっていても、簡単に手放すことができないこともある。
 
いっそ明らかに相手の落ち度、たとえば浮気とかDVとかなら、きっぱりと諦めがつきやすい。服でいえば、もう着ることが困難な服を処分するように。
 
はたまた遊びの恋ならば、流行り服のように気軽に試して気軽に手放すことができるかもしれない。
 
でもわたしの恋はいつだって平凡で、たいしてドラマチックなこともなく終わりを迎える。
 
終わったばかりの恋はまだ記憶も生々しくて、なかなかすぐにキッパリと忘れることなんかできない。そんなときは、とりあえず心の中にしまっておいて、ほかのことに打ち込んだりしてなるべく思い出さないようにしてやり過ごす。
 
心の傷が癒えてくると、少し冷静に自分を見ることができるようになる。
 
そして時々クロゼットの扉を開けるように、自分の心の中をのぞき込んでみる。
まだそこに恋心の面影があると、胸が痛んだり、苦しくなったりしてしまう。
懐かしい思い出の数々。
一緒に聞いた曲、一緒に行った場所、ケンカしたこと……。
思い出すたび胸がぎゅっとする。
その苦しさは恋のときめきとは全然違うのに、「ひょっとしてまだ好きなのかもしれない」と思ってみたり、「もしかしたらもう一度やり直せるかもしれない」と思ってみたりするけど、そんなのはすべて勘違いなのだ。
 
いくら楽しかった思い出をなぞっても、もう終わった恋は今の自分には似合わない。
大好きだった服でもいつの間にか似合わなくなるように、大好きだった人も、今の自分には気づかないうちに似合わなくなっていた、ということかもしれない。
 
人は変わる。
それは相手が一方的に合わなくなったんじゃなくて、何よりも自分が変化しているから。
あのときのわたしと今のわたしでは、もう違うわたしなのだ。
 
今の自分に聞いてみよう。
その恋はもう終わっていますか?
終わっているなら、きちんと終わらせてあげよう。
終わった恋を手放すことができたなら、きっと心が軽くなるのを感じるだろう。
 
終わった恋と着ない服。
どちらも思い切って処分した方が、次のステキな出会いがやってくるんじゃないかな。
 
それにはちょっと立ち止まって、鏡に映した自分をちゃんと見つめ直すことが必要かもしれない。
 
ついにわたしは、クロゼットの奥のワンピを捨てた。
あの服を手放してもわたしの日常は何も変わらなかった。
わたしは今まで何を後生大事にしていたのだろう?
 
ほかにも着ない服をまとめて処分したから、クロゼットの中はずいぶんすっきりとした。
だからといって、その空間を埋めるようにあわてて新しい服を買いに走ったりはしない。
今の自分には何が似合うのか、楽しみながらゆっくりと探してみよう。
急ぐことはないのだから。
 
 
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2017-08-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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