メディアグランプリ

クローゼットに眠る「女子」を起こすなら、今


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:及川智恵(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
朝起きて、着替えようとクローゼットを開ける。
 
ろくに着ていない夏物のワンピースが3枚、真っ先に目に飛び込んでくる。シンプルなベージュ、夏らしい朱色、そして白地に花柄。
まだ一度も袖を通していないものさえある。ものすごく気に入って買ったはずなのに。
 
ワンピースが好きだ。華やかな色や柄のものも多くて、着れば1枚で素敵に見える。コーディネートをあれこれ考えなくても済む。簡単にかわいく見える最高のアイテムだと思う。
 
そうやって惚れこんで買ったワンピースが、夏物のノースリーブだけで3枚あるわけなのだが、今年はそのうちの1枚を1回着たきりで、まったく出番がない。
しかも実はこれ、今年に限ったことではない。毎年、ワンピースの出番は1枚につき1回あるかどうか。完全に「タンスの肥やし」になっている。
 
なぜそうなってしまうのか。
そもそもワンピースを着るような場面が私の生活の中にほとんどない、というのが理由の1つだ。
 
私はフリーランスで、自宅で仕事をしている時間が長い。外出着自体があまり必要ない毎日を送っているのだ。仕事が忙しくなればなるほど、くたびれたTシャツとゆったりしたスウェットが私の制服になる。ワンピースの出る幕などない。
 
じゃあプライベートの用事で着ればいいだろう、と思うかもしれない。しかし、私の外出というのは、自分ひとりでも誰かと一緒でも、なぜかガンガン動いてガンガン歩き回る予定になりがちなのだ。
せっかくきれいな服を着ても、動き回る間にどこかで引っかけたり汚したりしないか心配になってしまう。まして、ワンピースに合わせてヒールの靴でも履こうものなら、途中で足が痛くなって、ご機嫌ななめ確定だ。
そんなわけで、圧倒的にジーパンとスニーカーが選ばれることになる。
 
落ち着いたレストランで食事をするとか、クラシックのコンサートを聴きにいくとか、もう少し優雅な予定でも入れたら、ワンピースを着る機会も増えるのだろう。意識的にそうすればいいこともよくわかっている。
そして、どうも気が進まなくてそんな予定を入れられない理由も、実はなんとなくわかっている。
 
ワンピースは私にとって「女子の象徴」のようなもの。それも、あまりに「女子」すぎて、けっこうな気合いを入れないと着られないアイテムなのだ。
 
小さい頃から、「女の子らしい」といわれるものが好きになれなかった。
人形遊びなんて一度も楽しいと思えなかった。母が勧めるレースの服よりも、スポーツブランドのTシャツのほうが好きだった。ウェディングドレスに憧れたことはない。料理も裁縫も得意ではない。世間の言う「女の子らしさ」というものが、どうも自分にはそぐわない。
 
外見だってそうだ。有り難いことに両親は「かわいい」と言って育ててくれたけれど、世間の基準では1ミリもかわいくないということぐらい、学校生活が始まってかわいい女の子たちに囲まれれば一発でわかる。
顔のつくりだけではない。幼稚園や小学校の頃、私は鼻が悪くて、いつも鼻をかんでいるような状態だった。「汚い」と言われた。
思春期はニキビがひどくて、下級生からもらった似顔絵にも、はっきりと肌の荒れっぷりが描かれていた。あまりにもショックだった。
 
性格的にも「きつい」と言われることが多かった。
女の子なんだから、もっとおとなしくしなさい、と注意された。言葉遣いが雑だ、と怒られた。思いやりが足りない、と嘆かれた。精一杯相手のことを考えてやさしくしているつもりだったのに。
 
女であることがどうも苦手だ。いや、生物学的には間違いなく女だし、それ自体に不都合はないのだが、社会的な意味で女を意識しなければならない瞬間が苦手だ。女子という言葉も、女子力という言葉も、一度も当てはまれたことがないような気がして、全部苦手だ。
 
だから、女子であることを意識させられてしまうワンピースにも、どうも気合いと覚悟が要る。自分のキャラや見た目と、ワンピースというアイテムの女子っぽさが、自分の中でいつまでたっても一致してくれない。
 
それなのに、ワンピースが欲しくなって買ってしまうという矛盾。
 
どうやっても女子にはなりきれないと早くに悟った私は、「女子」である前に「私」であろう、と必死で心がけて生きてきた。女子力なんて要らない。私には私の個性がある。「女はこうあるべき」なんてものに縛られる必要などないのだ、と。
私は今でもこの考えを信じているし、自分の生き方のポリシーとして、とても大切なものだと思っている。
 
でも。
 
「ワンピースの似合う女の子になりたかった」「もっと女子っぽくありたかった」「もっとかわいく生まれたかった」……そんな気持ちが、心の奥底に消えずに残っていたということだろうか。心がじんと痛むのが、きっとその証拠だろう。
 
30代半ばの私は、きっと「女子」という言葉を使ったら世間から叩かれる年齢だ。そんな自分がいまさらこんなことを言っているのは、あまりに痛すぎるだろうか。
それとも、身につけるものだけでも、今からもう少し「女子」であってもかまわないだろうか。
 
今年袖を通さないワンピースは、来年や再来年や5年後や10年後には、もっと着られなくなっていくだろう。今日より若い日はない。これから1日1日、どんどん「女子」から遠ざかっていくのだ。もともと遠いところにいたとはいえ、さらに。
 
社会の中で女であることは、私にはなんだか難しい。でも、手持ちの服に袖を通して出かけるぐらいなら、ちょっと気合いを入れさえすれば、何とか追いつけるかもしれない。
 
まだ間に合うだろうか。この夏は、少しでも「女子」になりたい。
 
 
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2017-08-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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