メディアグランプリ

コメダ・アミューズメント


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:秋田あおい(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
時々、コメダ珈琲店に行きたくなる。
コメダの、あのノスタルジックな雰囲気が好きだ。
店内に案内され、ちょっぴり澄ました感じの赤いソファに腰掛けると、
日常から少し離れた別世界への扉が開く。
たっぷりサイズのコーヒーを飲みながら、
ひとりの時間をゆったりと味わう至福のときである。
 
本を開くもよし、いつも携帯しているノートを開くもよし。
書き物をすれば、お気に入りのボールペンはごきげんにノートの上で滑り出す。
すると、仕事のアイデアがノートの上で踊り出す。
なめらかな滑りと軽快なダンスは、まるでフィギュアスケートみたい。
最高のエンターテイメントだ。じわじわとボルテージが上がっていく。
 
ゆっくり読書をしたいときや、
普段と違う場所で書き物や考える作業をしたいときに、
私はコメダに行きたいなと思う。
その場合、食べることが目的ではないため、
オーダーはたっぷりサイズのコーヒーだけで十分である。
 
たいてい、そんなふうに利用させてもらっているが、
決まった使い方ばかりをしていると、やはり、飽きもやってくる。
ある時、魔が差した、というか、私の中にふっと好奇心が湧いた。
 
コメダと言えば、シロノワール。
コメダの看板メニューである。もはや合言葉だ。
 
シロノワールというのは、平べったくて、まあるくて、
ふんわりとした温かいデニッシュというパンがお皿に乗っていて、
デニッシュの中央に冷たいソフトクリームがそそり立つ、
いわゆるデザートメニューである。
その雄々しい姿のソフトクリームの陰には、
真っ赤なチェリーがひと粒、恥ずかしそうに可愛らしくたたずんでいる。
それがコメダ珈琲店の顔とも言える「シロノワール」である。
 
そのとき私は、シロノワールの存在を知ってはいたが、
まだ食べたこともなければ、間近で見たこともなかった。
コメダにはたびたびお世話になっているし、お店を代表するメニューを
一度は経験しておくべきとも考え、
いよいよ私はシロノワールを注文してみることにしたのだ。
 
「お待たせいたしました、シロノワールでございます」
 
今、私の目の前にシロノワール、はじめまして。
温められたデニッシュから発せられるバターの豊かな香りが
私の嗅覚にまとわりつく。
ん~、甘いイイ香り、ウットリだ。
 
ただそれだけを口に運んでも十分に満足できそうなデニッシュを
フォークでひとくち大に切り分けたところに、
そそり立つソフトクリームのてっぺん、
溶けかけていて、ちょっとお辞儀している部分をスプーンですくいとって乗せる。
それをパクリと口の中に放り込み、一瞬ハッとする。
「つめたあったかい」という奇妙な感覚が舌の上で展開し、
すぐにデニッシュとソフトクリームは仲良く私の喉を通っていった。
 
ああ、もうひとくち……。
ちょっと慌て気味に次のひとくちを口に運ぶ。
ソフトクリームの冷たさに、口の中が一瞬、キンとして、
再び、デニッシュとソフトクリームは仲良く私の喉を通っていった。
 
はい、次、次……。
ちょっと待って。私を急かすのは誰?
私は時間に追われる忙しい人のように、
シロノワールをせっせと口に運んでいた。
ソフトクリームに寄り添っていた真っ赤なチェリーは
その一部始終を目撃していた。
 
「あー、美味しかった」
合間にコーヒーを飲むことを忘れるほど夢中になり、
雄々しきシロノワールはあっという間に目の前から消えてなくなった。
 
食後、この初体験をにんまりと回想していたのだが、
目の前のお皿に視線を落とすと、そこにはソフトクリームの残骸と虚無感があった。
なんだろう、この感覚……。
 
楽しい時間は早く過ぎてしまうっていう、あれと同じかもしれない。
お皿の中の虚無感は、娯楽のあとの現実に引き戻されるあの感覚、
寂しさに似た喪失感と同じかもしれない。
 
実際、シロノワールは楽しかった。
私のペースなんか無視して、ソフトクリームはどんどん姿をゆがめていくんだもの。
「待て、待て~!」って鬼ごっこみたいに、
ソフトクリームの溶けかけている部分をあちこち必死に追いかける私。
追いかけていたものは、あっという間に消えてしまったが、
初対面で存分に楽しませてくれたシロノワールを私は好きになった。
また食べたいと思った。
 
ただ、お皿に残る溶けたソフトクリームが心残りだった。
デニッシュの熱がどんどん溶かしてしまうので
これは仕方がないことだと思いながらも、
キレイに食べ終えられなかったことに少し罪悪感を抱いていた。
 
ところが後日、私はその「罪悪感問題」を解決する方法を知った。
シロノワールには「正しい食べ方」があるらしい。
それはまた「キレイな食べ方」でもあるということだった。
つまり食べ終えたとき、お皿の中に溶けたソフトクリームが残らない食べ方らしい。
 
具体的なお作法はこうだ。
シロノワールのデニッシュは、
はじめから放射状に6つにカットされているのだが、
まず、そのデニッシュの1カットを水平に2等分する。
つまり、高さの半分くらいのところにフォークを入れ、
上下2段に分けるということだ。
次に、上の部分を手ではぎ取り、
そこにスプーンですくったソフトクリームを乗せ、それを食べる。
そういうふうにして、上半分を先に食べていくのが
シロノワールの正しい食べ方なのだそうだ。
目からウロコの奇策である。
 
上半分を食べ終える頃、ソフトクリームはある程度溶けていると思われるが、
その時、残っている下半分のデニッシュが、そのすべて受け止めてくれるのだという。
なんとも頼もしい限りである。
 
あとは、下半分のデニッシュに溶けたソフトクリームをしみこませたり、
それを拭うようにして食べていく。
そうすると、お皿がきれいな状態で食べ終えることができるということのようだ。
ふむ、なるほど興味深い。
 
まだ試していないが、実際にこの方法が功を奏せば、
私はシロノワールを美しく食べることができ、
心置きなく楽しめるということになる。
これはぜひとも、今すぐにやってみたい。
 
これまで私は、コメダでは、頭を使う作業をするために
コーヒー1杯の「静的な」利用をさせてもらうだけだったが、
シロノワールを知ったことで、これからは、
それを楽しむための「動的な」利用をさせてもらう機会が増えるかもしれない。
だって、シロノワールはとても楽しいのだ。
しかも、季節のアレンジメニューが登場したり、
ソフトクリームのホイップクリームへの変更や
ソフトクリーム別添え、小倉あんトッピングなどといった裏ワザもあるらしく、
ますます興味をそそられる。
 
まずはシロノワールを「正しく」楽しむ。
私は今、それを試したくてウズウズしているところである。
 
 
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2017-08-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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