メディアグランプリ

僕たち営業マンの仕事は、1人舞台講演者の熱狂的なファンになることだ。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:近藤裕也(ライティング・ゼミ日曜日コース)

 
 
「売り上げ目標、50万円に対して、0円です!」
きっと、朝礼でこの言葉を1番多く口ずさんでいたのは、この僕だ。
 
大学卒業後、僕は出版社で営業兼ライターとして働くことになった。
その会社は非常に体育会系で、朝礼では自分の売り上げ目標と現時点での売り上げを大きな声で報告することになっている。
「報告しても恥ずかしくないように、売り上げを作ってこい」という意図があるらしい。
僕は入社したてで売り上げはなく、他の動機もそれは同じだから、「売り上げがないのは僕だけじゃないし、恥ずかしくないよな」と、勝手に安心していた。
 
しかし、そんな安心はすぐに焦りへと変わった。
いつまでも油断している最中、同期が1人、また1人と少額ながらも契約をあげていく。
朝礼で宣言する金額もどんどん上がり、契約を獲得する同期の数も1人ずつ着実に増えていく。
 
そのころの僕はというと、営業先でことごとく提案を断られていた。
1日3件以上アポイントを入れていたが、名刺が増える一方で、売り上げは1円もあがっていなかった。
しかしそれでも他に売り上げ0円の同期がいたので、大きく焦りを感じることはなかったのだ。
 
間も無くして、同じく売り上げ0円だった最後の同期が、3万円の契約を獲得した。
すごく低い単価の売り上げだが、その3万円は同期にとって、非常に価値のある大きなものだっただろう。
僕もなんとか契約がほしいと思い、それ以降は商談のたびに手の込んだ提案書を作成して持参した。
パワーポイントで資料をまとめ、打ち出すテーマやメニューなどを自分なりに考え、商談の場でお客様に対して必死にプレゼンをしてみる。
しかし、お客様の答えはいつもこうだった。
 
「ん〜、ちょっと考えさせてね」
 
これは、僕らの業界ではある種の断り文句として有名なフレーズだ。
このフレーズを聞いた場合、8割くらいの確率で断りの返事をいただくのだ。
僕はこの頃には完全に情熱も燃え尽きていたし、戦意喪失してやる気も起こらなかった。
他の同期が売り上げを上げている中、僕には「売り上げ目標50万円に対して、0円です!」の「0円」をいかに聞き取りにくく言えるかという、しょうもないスキルだけがついたのだ。
 
ある日、転機になった商談があった。
それは大阪・ミナミにある、ヴォイストレーニングスタジオでの商談だ。
僕は高校生時代から社会人になるまでバンド活動をしていたので、音楽は非常に好きだったので、少しワクワクしていた。
何か面白い話が聞ければ……程度に考えながら向かったスタジオからは、防音扉越しに歌声が聞こえる。
ドアを開けるとカランコロンとベルが鳴り、スタジオの中では聴き慣れた曲を思いっきり歌っている女性がいたが、どうやら彼女は僕に気がついていないらしい。
周りに他の人がいないので、僕はとりあえず立ちつくしながら、女性が出てくるのを待っていた。
 
「あっ、もしかして近藤さん?」
 
スタジオからひょこっと顔を出した女性はスタジオの先生で、僕に気づいて慌てて迎えてくれた。
先生は2人分のコーヒーを入れながら、思いっきりスタジオで好きな曲を歌っていたから気づかなかったと謝罪をして、名刺を交換してくれた。
 
「先生、さっき歌われていた曲、イーグルスですよね。僕も好きなんですよ」
 
「えー、そうなの!? 近藤さんも音楽好きなの!?」
 
商談前にふと問いかけた言葉に先生は目を輝かせながら、かなり喰らいついてきた。
先生は非常に洋楽ロックが好きな方で、受付にある棚からオアシス、ニルヴァーナ、ジミ・ヘンドリクスなどのアーティストのCDを次々と取り出した。
そこから先生の「洋楽ロック漫談」が始まったのだが、その話がすごく面白くって、僕は全く飽きもせずに計2時間ほどそれをずっと聞いていた。
 
カランコロン。
僕が扉を開けた時と同じベルの音が聞こえ、振り返るとそこには1人の生徒が立っていた。
どうやらスタジオレッスンの時間だったらしく、先生は慌てて生徒をスタジオに案内していた。
そういえば、先生の洋楽漫談を夢中で聞いているあまりに、フリーペーパーのお話を一切できなかったことに気がついたが、楽しいお話をたくさん聞けたのでそれでいいかと納得していた。
しかし、先生から思わぬ一言をいただいた。
 
「近藤さん、ごめんね! とりあえず広告は出すから、また明日打ち合わせに来てくれる?」
 
思わず、耳を疑ってしまった。
だって僕はまだこれがどんな雑誌で、どんな読者がいて、どんな店舗が掲載されているのか、そして広告がいくらかかるのかを話していない。
打ち合わせ時間を調整するためにスケジュール帳を見ている先生に、どうしてまだ何も知らないのに、出稿を依頼してくれたのかを聞いてみた。
 
「経営者は、お客さんがいない時間は孤独なのよ。近藤さんは、私の話を2時間もうんうん聞いてくれたじゃない。それが嬉しかったから、一緒に仕事がしたいと思ったのよ」
 
正直僕の中ではまだ、その言葉を疑っていたところがあった。
安くもないお金を出して広告を出すことを、そんなに簡単に決められるわけがない、と。
先生の言葉が本当なのかを検証するために、それ以降のアポイントを「聞く側」に徹していくと、たった1ヶ月で新規契約を11件、売り上げにして50万円を獲得した。
それ以降僕の営業は、5分の説明と2時間の聞き役という効率の悪い流れで構成されたものの、即決で契約を獲得することも多くなった。
 
先生が言っていたことは、まんざら嘘ではないらしい。
経営者のほとんどが1人舞台の講演者になりたくて、それを楽しみながらうんうんと聞いてくれる観客を求めている。
僕はその観客になることで、経営者の要望を満たし、満足させた状態でこちら側の要望をオファーすることに成功したのだ。
僕たち営業マンのお仕事というのは、経営者の1人舞台の最前列をキープし、熱狂的なファンになって1人舞台を楽しむことだと気がついたとき、僕の売り上げ0円ライフは幕を閉じた。
 
 
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2017-09-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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