メディアグランプリ

月に一度の、夏


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:chinami(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
月に一度、夏が訪れる。
夏は、私の唯一嫌いな虫、蚊との戦いが始まる。
 
オスの蚊は人を刺さないが、メスはお腹の子のために栄養たっぷりの人の血を吸う。でも、視界を横切る蚊は、オスなのかメスなのかわからない。噛まれたらかゆくなるし、私は体質で跡も残りやすいけれど、血がなくなって貧血になるとか、日本にいる大抵の蚊なら、菌を持っているとか、ましてや命に関わるとか、そこまでの害はない。全ての蚊が血を吸ってくる訳でも大した害があるわけでもないのに、その可能性を孕んでいる蚊が耳の周りをブンとかすめるだけで気になってしまい、絶対に噛まれたくなくて、躍起になってしまう。
 
私は月に一度、見ず知らずの男性が大嫌いになる。
これは女性ホルモンの急激な増加によって起こると言われている月経前症候群、通称PMSというものの症状の一つであると思われる。人によってPMSが起こらない人もいるし、起こっても体調に異変が生じる人や精神的にしんどくなる人など、症状はさまざまだ。私の場合、生理前の二日ほど抑鬱状態に陥り、周りにいる知らない男性が嫌で嫌で仕方がなくなる。
 
電車で隣に座り合った男性が、心なしか密着してくるような気がする。道ですれ違うちょっと身なりに気を使っていない感じのおじさんが、話しかけてきそうな気がする。大声でくだらない話をする大学生男子の集団がものすごく下品に見える。
頭では、この人たちの99%以上が私に興味すらないし、害をもたらすことなんてないとわかっているのに。
 
街中の見ず知らずの男性たちの陰に、うっすら重なる。普段はまったく気に留めていなかった、昔、夜の静まりかえった道で話しかけてきた男性、私の気持ちなんて気にせず急接近してきた男性、これっぽっちも思っていないのに仲良くなろうなんて言ってきた交差点の男性……。
 
私は蚊を追い払うように、その人たちを避ける。避けても避けても男性はそこら中にいるし、避けなくても何もされないことはわかっている。全部わかっているのに、本能が男性を嫌がっている。理性がそんな自分を嫌悪する。
 
そんなとき、ついでに何もかもが嫌になってしまう。仕事も人間関係も全てを投げ出したくなるけど、最後に残った理性が、「とりあえず生きろ」と言うので、とりあえず生きる。新しいことを始めたり、大切な決断を下したり、積極的に社交の場に参加するのはやめて、仕事も最低限に留め、とりあえず生きる。
 
体もだるいし、全てが鬱陶しいし、内側から見た自分は虐待されて人間を信じることのできなくなった犬のように、生気を失った目の奥で街中の男性に敵意を向けている。
こんな状態に陥っている自分はヤバいんじゃないかと思うこともあるが、よく考えれば毎月のことだ。もちろん症状が軽減されるように少し努力もしているが、とにかく数日間事件を起こさないように大人しくしていれば生きやすい季節が待っていることは今までの経験から明らかだから、じっと夏が過ぎ去るのを待つ。
 
なんとか夏を乗り越えると、あんなに嫌がっていた蚊のことなんてけろっと忘れてしまって、過ごしやすい秋がくる。何がそんなに嫌だったんだろうと、あの嫌悪感が嘘のように気持ちが晴れる。
そしてまた一ヶ月後、蚊が鬱陶しくなって初めて、ああもうそんな時期かということに気付く。本当に学習能力がないなあと、毎月つくづく思う。
 
どうしてこんな目に遭わなきゃいけないんだと思うことがほとんどだが、最近は、これは一種の浄化作用なのではないかとも考える。普段がむしゃらに身体的にも精神的にも無理してしまったものを、この月に一度の夏で、ゆっくり休む。蚊のいない室内に引きこもり、外で汗をかいた方が健康的なのかなとも思いながら、程よい温度のエアコンをつけて、買い込んだアイスをちびちびと食べる。
 
男性の方が、仕事で無理をして体調を崩す割合が多いように感じる。男性は年中あまり気候が変わらないが、女性は暑くなるはずの7月になってもまだ涼しかったり蚊が異常に発生したりすることで体の発するSOSを察知し、ぶっ倒れるレベルになる前に異変に気付く場合が多いのではないだろうか。
 
PMSの症状が酷い月は、先月はそういえばちょっと仕事で無理をしすぎたなとか、精神的に辛いことがあったなとか、不摂生をしがちだったなと、反省することができる。定期的にとてつもなく憂鬱な夏がくるおかげで、私の体は保たれているのかもしれない。
 
全てが嫌でどうしようもなくなりながらも、毎回、蚊に少しだけ感謝する。
 
 
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2017-09-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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