メディアグランプリ

高橋君について知るためには


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:永井聖司(ライティング・ゼミ日曜コース)
※この物語はフィクションです。

 

「どうしてそんな風に、色んなところから仏像を見るの?」
声は抑えたつもりだったけど、私と高橋くんの2人しかお客さんのいない美術館の中は、思った以上に声を反響させた。思わず、口元に手を当てる。
「大丈夫だよ。スタッフの人も、俺がいれば何もいってこないって」
ガラスケースの中の仏像に目をやったまま、高橋くんは言った。
「さすが館長の息子。機嫌を損ねるようなことを言えば、クビにされちゃうもんね」
「やめろよ、冗談でも」
「でも事実でしょ?」
「俺にそんな力、あるわけないじゃん」
へー。高橋くんって、意外とよく喋るんだ。
仏像を見つめる高橋くんの横顔を見ながら、私はそんなことを思っていた。高橋くんとは、中学1年生で同じクラスになってから、もう1年半も経つけれど、今日までほとんど喋ったことはなかった。

高橋くんは、教室の中で一人でいることが多かった。別に、イジメられているとかそういうのではないけど、他の男子と比べて大人びていて、ちょっと高貴な雰囲気もある高橋くんは、なんとなくクラスの中で浮いていた。休み時間も、男子の輪に入らずに本を読んでいたり、図書館で勉強していたり。それでいて、クラスの中で何かグループを作ったりする時は、スッと輪の中に入ってきて馴染んでしまう、不思議な存在だった。
そんな高橋くんと、こうして今2人でいることになったのは、単なる偶然だった。お母さんからもらった展覧会の招待券が財布の中に入っているのを忘れていて、今日見つけたのだ。展覧会の開催は3日後の日曜日まで。そこまで興味が強いわけではなかったけど、みすみすタダ券をムダにするのももったいないと思って、私は放課後に美術館に向かった。慣れない美術館の受付に少し緊張しながら中に入って、会場の中を見渡してみると、同じ制服を見つけた。気になって、あまり足音を立てないように、相手に気づかれないようにゆっくり近づいていくと、教室では見たことのないような顔をした、高橋くんだと気づいた。
いつも穏やかに、夢でも見ているんじゃないかと思いたくなるぐらいの柔らかい表情をしているのが高橋くんのイメージだった。でも、美術作品を見つめる高橋くんの目には力がこもっていて顔もキリッとしていて、いつもとは、別人のように思えた。
「あれ?」
高橋くんの顔がこっちを向いて、私は発見された。恥ずかしくなった私は、一気に状況を説明して、そして結局、一緒に美術館を回ることになった。
絵の前では何度も、近づいて見たり離れて見たり。仏像のケースの前に来ると、絵の時と同じように見るのに加えて、ケースの周りをゆっくりと回りながら、色んな方向から、高橋くんは作品を見ていた。さすが、美術館館長の息子の見方は私なんかとは違うんだなぁと、見よう見まねで後をついていきながら、高橋くんの横顔や背中を見つつ、私は思った。

「え?」
高橋くんの口が少し動いたのを見て、私は聞き返した。
「さっきの質問のことなんだけどさ」
「質問?」
「どうして、色んな方向から見るのかってやつ」
「ああ」
私から聞いたくせに、私はもう、質問の答えに対する興味がずいぶん薄れていた。
「えっと……」
ほんのり赤くなった気がする高橋くんの頬を見て、聞いてみる。質問の答えよりも、高橋くんの表情の方が、気になる。
「なんか、照れてる?」
「う!」
図星のようだ。動揺した高橋くんの表情が面白くて、私は笑った。
「なんで?」
「だってさ、友達に、こんな、美術の話なんてすることないから……」
口ごもりつつ、必死に言葉を続けようとする高橋くん。こんな顔もするんだ、と思った。
「だから、さ。美術作品はさ、見る距離とか角度によって、見え方が違うんだよ。遠くから見てキレイだなって思うときもあるし。近くで見て、すんごい細かい技術で描かれててスゴイな、て思う時もあって……だから、わかるかな……」
まさに今の状態かなと、直感的に思った。
あの高橋くんが、あんなに真剣な表情で美術作品を見るなんて思わなかったし、こんな照れた様子を見せるなんて、思わなかった。学校で見るのとは違う高橋くんの様子を見れて、しかもそれが、私だけが知っている秘密のようで、少し嬉しくなった。
「わかる、気がする」
「ホント!?」
答えてあげると、高橋くんはわかりやすく目を輝かせて、私を見つめた。可愛いな、犬みたい、と思った。
「でもまだ、よくわからない所もあるから、また、教えてほしいな」
「え? それはもちろん、良いけど……」
「明日とかさ、2人でどこかに行かない? 高橋くんのオススメの美術館でも良いし、別のところでも良いし」

私の言葉の意味を理解した高橋くんは、ずいぶん時間が経ってから、ゆっくりと、深く頷いた。
違う場面で高橋くんを見れば、別の表情を見られるのかな。高橋くんが、色んな角度から作品を見て、作品について知ろうとするみたいに。そんな風に思うと私は、自然と嬉しくなって笑った。つられて笑った高橋くんの表情を見て、私はもっと嬉しくなった。また一つ、高橋くんについて知らなかった部分を、知ることができた。

 

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2017-09-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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