メディアグランプリ

マイナスの才能


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:チオリ(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
地下鉄にのって、慣れない場所に行くのはドキドキする。
電車を降りてホームに降りたつ。
左右どちらに向かえば改札に行けるのか? キョロキョロと表示を探す。
ようやく行きたい方面を見つけて、改札を出る。
そして階段をぐるぐる上る。
出口に出ると大きな交差点。人が、建物が、たくさんあって混乱する。
 
「ここはどこ?」状態だ。
自分がどちらから来たか、全くわからない。
またキョロキョロする。目印を探す。
手元のスマホの地図と見比べながら、自分が行きたいところを探してようやく歩き始める。
 
この一連の流れで、5分から10分かかる。
 
なぜか。
 
私は地方出身ではあるが東京在住20年以上である。
しかも外回りの仕事を4年ほどしていたため、都内の電車は乗りなれている。
 
なのに、なぜか。
 
方向音痴ではある。
しかし理由はそれだけではない。
 
わたしは「目が遅い」のだ。
それも致命的に。
 
そのことに気が付いたのは、30歳を超えてからだった。
 
世の中にはぱっと看板とか標識を見つけられる人がいる。
仕事で幕張やお台場の大きな展示会場を見て回らなければならないことがあった。
同僚と会場をまわっていて、目的のブースを探すスピードに歴然とした差があった。
 
なんでだろう? と同僚と話していると、どうやら同僚は「目が早い」という結論に至った。
ということはつまり、私は、
「目が遅い」
 
その前提で思い返してみると、私の日常で起こっている不都合にいろいろと合点がいった。
 
私は本を読むのがとても遅い。
目を全開にして「ぐぁーーー!」とダッシュで読んでも、とにかく遅いし疲れるのだ。
学生時代の試験は大変だった。試験というものには時間制限がある。
特に英語の試験はひどく、英語力の問題もあるのだが、読解問題を最後まで読み終ったことは殆どない。
 
そんな自分の目に対する認識を変える出来事があった。
 
最近知り合った方のFacebookの投稿に、
「マイナスの才能、というものがあるのではないか。レースドライバーは恐怖心が、政治家は羞恥心が欠けているからこそ、できるのではないか」
とあった。
 
それをみて、マイナス、わたし、いっぱいあります! と心の中で挙手をした。
そして真っ先に浮かんだのが、
「目が遅い」ことだった。
 
私は本を読むとき、
「読む」というより、「見て」しまうのだ。
 
この感覚をどう言ったらいいだろうか。
書体や余白が気になってしまう。そこに違和感があると、すっと進めなくて内容が全然入ってこない。
雑音のまじったダミ声の歌を聞いているような感覚なのだ。
 
とはいえ本は好きで、すごく読みたいのだ。というか、たぶん何かを知ることが大好きなのだ。
しかもせっかちで飽き性だから早く知りたい。
 
ではどうするか。
 
本の解説を読んだり、著者の話を聞きに行ったりする。
また、図とか表とかがあればそれがすごく助けになるので、そこで理解する。
物語だったりすれば、相関関係を描きだしてみたりする。
そうして中身を把握する。
 
私は仕事としてカメラの操作画面のグラフィックデザインをしていたことがある。
メニュー画面のデザインをするのだが、
ユーザーがどんな風に撮りたいのか、どんな設定をしたいのか、
その目的を間違いなく達成してもらうために、
画面のどこを見ればいいのか、何のボタンを押せばいいのか、ぱっと見てすぐわかるように
アイコンや文字の大きさ、色、位置関係などをデザインする。
 
また、事務的な仕事でもマニュアルを作ったことが何度かある。
写真やイラストといったビジュアル素材と文字を組み合わせつつ、シンプルにつくるのが好きだ。
ぱっと見でわかるように。
そうでないと自分がわからないからなのだが、これが結構喜ばれた。
 
今、転職活動中で職務経歴書を作成しているだが、ほとんど表のような形にしている。
ワードだからたいして凝ったことはしていないのだが、
キャリアコンサルタントの方に、大抵「読みやすい」と言ってもらえる。
 
私が読むのが苦手だから、読まなくていいような表現方法を自然と工夫してきたのだと思う。
そのことを、40歳をこえて気が付いた。
 
もし私の目が早かったら、読むのに苦労しなかったら、
読まない方法を身に着けられなかったと思う。
 
これまでは「目が遅い」ということのマイナス面しか気がつかなかった。
マイナスはプラスの裏返し、とはいうけれど、目が遅いことが直接いい性質とはとらえられなかった。
 
でも遅いからこそ、できること。
マイナス方向の才能に着目してみたら、だからこそできていることがあることに気が付いた。
 
外ですぐに標識や看板を見つけられなかったり、本を読むのが遅いけれど
それを知ってこの目も愛おしくなる。
 
知ることは楽しい。
 
 
***

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2017-09-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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