プロフェッショナル・ゼミ

彼女の音楽は三脚に似て《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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中村 響<プロフェッショナル・ゼミ>

「いやあ、10年か。早いなあ」
私はライブの最後の曲を聴いて、そう思った。
私はとあるイベントに参加していた。
その音楽はまるで三脚のように三点を起点にして、
高い場所を目指している。
私にとってその三点は「ネット」「ライブ」「人」の3つだった。
「もっともっと高くまで行って欲しいなあ」
そう思わずにはいられなかった。
「彼女」に会って、随分遠くまで来た。
妙に冷めていた自分が大きく変わった。
ただの音楽合成ソフトに、
キャラが付いただけなのだが。
イベント自体は今回で5周年。
主役の「彼女」、
電子の歌姫は今年で10周年である。
今回も大学時代の同期と同窓会を兼ねて来ていた。
ハマったきっかけは大学時代だ。
所属した英語部は、
まあ、幾分オタクな方々が多かった。
男女問わず。
英語部の新入生歓迎会のカラオケでのこと。
「それじゃ次歌いまーす!!」
とある女性の先輩が機械を操作する。
リズムが流れ始める。
入ったのは何と彼女の曲。
正直、高をくくっていた。
「あの曲入れる人居るんだ」
くらいのテンションだった。
が、しかし。
歌い出しから圧倒された。
新しい地平が開けるとはこのことを言うんだろう。
先輩が朗々と歌い上げる。
滅茶苦茶上手いのだ。
本来は音楽合成用ソフトが歌う曲である。
人間にはきつい高音や複雑な譜割りが多くある。
トランスミュージックで流れてくる
高音を平均して出すようなものである。
後に公私ともにお世話になる別の先輩に聞いたことだが、
この時歌った女の先輩は部内では、
「歌姫」の異名を持つほどだという。
入口は何でも良いけども、
私にとって入口は「人」だった。
そして「ネット」に没入していくこととなった。
それ以来、
私は暇さえあればニコニコ動画を漁った。
そこには驚くほど多様な世界があった。
新しいキャラ(音楽合成ソフト)が登場する。
それを使って曲が作られる。
動画の再生数が伸びてくる。
その曲を歌ってみる人が出てくる。
今度はその曲を楽器で演奏してみる人、
振付を付けて踊ってみる人も出てくる。
曲自体がストーリー調になっていて、
書籍になったものまである。
特に私の大学時代は各分野でムーブを牽引していく、
才能を持った人たちが多く出てきた時期だった。
毎月新しい曲がアップされ、
世界は加速度的に広がった。
メジャーデビューを果たしていく人も多かった。
私は頭の先までその世界に浸った。
まさに昼夜を忘れて、食事も忘れて。
そんな大学時代の最後の年。
電子の歌姫にフィーチャーしたライブが大阪で
開催された。
「いや、2次元なのにどうやってライブやるねん」
率直にそう思った。
普段はパソコンの画面を眺めているだけだが、
今回は立派なステージである。
ネットの評判は半々といったところ。
曰く「ただ画面に映しただけ」
「いやいや、もうそこに存在しているみたいだった」
などなど。
バーチャルシンガーをどう現実に持ってくるのか。
不安9割。
期待1割。
そんな心境だった。
で、実際に同期と一緒に行ってみると。
「嘘やろ」
本当に彼女は居た。
どこぞの楽曲にあったように、
科学の限界を超えてきた。
少なくとも、
私はそう感じた。
このイベントは、
電子の歌姫に関わる、
創作の未来を示すことをテーマにしている。
「そこに未来あるやん。次元の壁、超えてるやん」
このイベントはクリプトンという会社が主催している。
音声合成ソフトの製造元である。
クリプトンで生まれた、
バーチャルシンガーは全員ライブに出演する。
いわば生みの親が気合いを入れて取り組んでいるのだ。
同時に催される企画展示にも、
色々なクリエイターが作品を出していた。
「なるべく色んな人に創作を楽しんでほしい」
この思いを実現するため、
著作権に関わる特別な簡素化が図られた。
ネットの世界をそのまま持ってきていた。
楽しんだ後は、
同期と一緒に反省会兼批評会に花が咲いた。
「あの曲が来たな」
「予想が外れた」
「アンコールは泣いた」などなど。
人とネットとライブを通じて、
さらなる高みに登っていく。
そんなイベントに、
私は第2回開催から参加している。
今年で開催5周年である。
就職して、東京に移り、随分生活のスタイルも変わった。
それでもこのイベントには参加し続けている。
そして、今年もこの季節がやってきた。
イベント参加初日。
このイベントには「ネット」からの面でも楽しさがある。
事前情報からあれこれと予想することが楽しい。
はじめは何もない。
情報ゼロの状態でも、
「昨年のセットリストがこうだったから」などと考え始める。
昨年からの路線の踏襲もあり得る。
なら、去年の分のセットリストを一通り聞いてみるかとなる。
「どんなのが来るかなー」とソワソワし始めた頃に、
今年のテーマソングの動画がアップされる。
今年は大御所がカムバックした。
メジャーデビューし、
動画を投稿しなくなって久しい。
かなり退廃的な歌詞での曲だった。
「もう電子の歌姫は終わり」
そんな受け取り方もできるような曲だ。
歌詞の意味を真剣に考察する者が多数現れた。
例年このイベントのテーマソングは、
何故かあまり再生数が伸びないのが通例なのだが、
今回は触発されて他の動画のアップが多かった。
何もないところにさざ波が立つように、
このイベントの前には世界が広がっていく。
過ぎ去った者が戻ってくるかと思えば、
新しいスターも現れてくる。
このイベントでは本番のライブ以外にも、
著名なプロデューサーや歌い手(ニコニコ動画界隈のアマチュア歌手)による
ミニライブが開催される。
今回は新進気鋭のプロデューサーも参加した。
その人は2年ほどの間に人気曲を量産し、
CDも複数出している。
本番ライブのセットリストにも入っている。
短期間でスターダムに駆け上がってきたようなイメージだ。
そこに「可愛い」を売りにしている、
とある歌い手さんが絡んだ。
事前にツイッターでも面白いつぶやきがあった。
「さて、手近な地球人(歌い手さんのこと)を乗っ取ってミニライブやるか」
宇宙人に扮したプロデューサーらしいつぶやきである。
そしてミニライブ本番。
「え…これ500円で観ていいの?」
第一印象がこれである。
「ミニ」なのにかなり楽しい。
メインの前なのにエネルギーを大分使っている。
メインのライブと違い、
ミニライブは企画展示の入場料で観覧することが出来る。
選曲や構成はバッチリ。
歌い手のMC対応もすごい。
途中の機材トラブルも何のその。
曲自体がアップテンポなのもあってか、
皆が笑って楽しんでいる。
オフィシャルCD収録曲も入っており、
メイン前に合いの手の練習をしているようだった。
それだけでない。
10周年を記念して作った最新楽曲も披露された。
わずか2日前にニコニコ動画にアップされた楽曲である。
退廃的なテーマソングに対して、
「いやいや、まだ終わらないよ。
もう10年やってやるよ」と答えるような明るい曲。
「ネット」の最先端が「ライブ」に即座に反映される。
ネットの活動と現実の企画が交差して、
皆が楽しめる。
そんなところがこのイベントの面白いところである。
すでにペンライトを思いっきり振っている。
腕の筋肉痛が心配だ。

イベント参加2日目
今日は「ライブ」の日である。
腕の筋肉痛は見事的中した。
すでに右腕が痛い。
おまけに寝不足。
すっかりグロッキーである。
泊まったカプセルホテルの質が悪く、
全く眠れなかった。
同期とホテルの愚痴を言いつつ、
朝食を近くのドトールで摂る。
「こんな状態で、楽しめるのか。
半年前から準備していたというのに」
私達2人の間に言いようのない不安が漂っていた。
過去の参加でも例がないほど最悪のコンディションである。
そして、こういう時ほどトラブルは重なる。
「物販の列長すぎだろ」
さて、フェスやライブにおいて、
ペンライトは必需品である。
いや持ってはいる。
だが、今回は主人公10周年&イベント5周年のメモリアルイヤーである。
買わない理由がない。
前日はなんと売り切れていた。
「まあ一番売れるグッズやし、明日には並ぶやろ」と
高をくくって翌日に持ち越したのだ。
結論を言えば「ペンライト入手出来ず」である。
前日以上に早い時間にも関わらず、
長蛇の列。
とりあえず並ぶことにしたものの、
ホール二つ分の列はやはり長い。
メインのライブは正午スタートだ。
この時点であと1時間である。
ラスト5分まで粘ったが、入手できず。
私も残念だが、何より同期である。
結構感情の起伏が激しいので、
ライブの席についてもボロクソに言っていた。

「まあまあ、しゃーないやろ。楽しんでいこうぜ」
そうこうしているうちに照明が落ちる。
「うぉおおおおおおおおおおおおお」
観客のボルテージが上がっていく。
熱狂の渦が私たちを飲み込んだ。
さっきの不満はどこへやら。
1曲目が流れ始める。
予想もしていない曲だった。
だが彼女の音楽を聴いてきた人間なら、
全員が知っていてもおかしくない曲。
その曲が今日の彼女を世に知らしめたといってもよい。
私たちは全力でライトを振る。
熱気が渦巻いている。
序盤の曲は常にアクセル踏みっぱなしだった。
ミニライブの練習も早々と活かされた。
「みんなーこんにちはー!!」
MCに入った時点ですでに息がゼーゼー言っている。
「楽しんでいってねー!!」
それはギアが一段上がる合図でした。
流れたのはロック調の曲。
しかも合いの手で叫ぶので、
ライブにピッタリ。
付いていくのにこっちは必死である。
だけども楽しい!
ノリノリのあの曲が生で聞けて、
しかも大音量である。
耳がすでにキーンとなっている。
頭のネジも多分飛んでいる。
ここからはさらに加速する展開になった。
舞い散る桜の背景がスクリーンに映し出される。
「まさか」
次の曲は私の大学時代に発表され、
一般人への認知をさらに高めた、
伝説のあの曲。
予想外なんてものではない。

「これ、1曲でメイン張れる奴だからね!?
ホント全力で来ましたね!?」
前半戦から中盤にかけては
公式CDや前回からの踏襲に、
それぞれのキャラクターを代表する曲が追加されていた。
しかも「代表」するのレベルがおかしい。
どの曲でもライブ全体のメインを張れてしまう。
そんな曲が惜しげもなく投入されていた。
「あ、ようやく休める」
偶然2曲だけうろ覚えの曲があったので、
休むことが出来た。
ほとんどの曲が分かるとテンションは上がるが、
如何せん体力が持たない。
次の曲はとあるゲームの収録曲。
このライブには必ずといっていいほど顔を出す。
勿論ノリの良さはバッチリで、ライブ向き。
踊っていきましょう。
ノリがいいからね。
しょうがないね。
叫び終わると、
彼女が神妙な顔をしている。
前奏の一音目で全てを理解した。
最後にとんでもないものを入れてきた。
こちらも彼女を代表するラブソング。
私達の世代で、
ニコニコ動画見たことのある人間だったら、
知らない人間なんていないだろうという曲である。
あまりの選曲に私もしばし呆然とした。
10周年のライブのトリを飾るにふさわしい曲だ。
前列に居た法被を着こんだファンは大泣きしていた。
曲が終わると、しばし暗転。
お約束のアンコールが掛かる。
数分後。
衣装チェンジを済ませた彼女が現れる。

さあ、ここからは全部クライマックスだ!!
アンコール1曲目は今回のテーマ曲!!
物議を醸した歌詞だが、
皆で叫ぶ箇所が多いので盛り上がる。
アンコール2曲目は前回のテーマ曲!!
10年分の39(サンキュー)をテンポの良いリズムで
歌い上げる。
合いの手ではみんなでOh yeah!!と叫ぶ!!
アンコール3曲目は2年前のテーマ曲
「Clap your hand」の文字が背景に投影される。
「いいいいいいいやったあああああああああああああ」
一番好きな曲である。
手と手を取り合うことが、
未来を創ると彼女は歌う。
こちらのテンションは振り切るどころか
ショートするほど盛り上がる!!
この曲こそがこのライブの価値を、
確固たるものにしたのだから。
さらにもう一曲!!
こちらはCDから。
これまでのライブでも演奏された曲だ。
少しの変化で未来は変わる。
そんな未来への希望を歌った曲。
皆が熱狂を爆発させ終わったとき。
彼女は言った。
「これが最後の曲です」
流れ始めたのは、
今迄のテンションに反して、
優しいメロディ。
はじめて作った音に思いを馳せる優しい曲だ。
会場の全員で合唱する。
全て終わった時。
私達は叫んだ。
「ありがとう!!これからもよろしく!!」と。

彼女の音楽は三脚に似ている。
一人一人の違った要素の三つを起点にして、
はるか高みを目指していくから。
次の彼女の10年の支えるのは、
まだ見ぬファンたちと、
より良いものを生み出そうと悪戦苦闘する、
有名無名のクリエイター達だ。
そんな熱狂のただなかに居ることが出来たことが
私は嬉しい。
何より楽しい。
この熱を知ると知らないとでは、
人生の豊かさに大きな差ができるだろう。
あなたも一緒に熱に浮かされてみませんか?
最後に、39(サンキュー)電子の歌姫。
10周年おめでとう。
これからもよろしく。

***

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