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「グラップラー刃牙」は最強のグルメ漫画かもしれない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:遠山 涼

 
 
「空腹は最大の調味料」というのは、きっとウソだ。
世の中には、どこにもでもある平凡な料理を、さらに何十倍も美味しくする調味料が存在する。
そんな調味料が、偶然か意図的か分からないが、ある漫画の中に描かれている。
 
筋肉隆々の男たちが戦うだけ。そんな単純な漫画が、もう20年以上も続いている。
作者自身の綿密な取材によって裏打ちされた格闘理論が圧倒的なリアリティを生み出す一方で、思わず「ありえねぇだろッ!」と叫びたくなるような奇想天外な展開、エピソードが飛び出すエキサイティングな漫画。それが「グラップラー刃牙」。
 
何より最大の魅力は、他に類を見ないほど、とにかく濃すぎる登場キャラクターの個性だ。
どのキャラクターもそれぞれの格闘スタイルを追求するために、己の肉体を極限まで研ぎ澄ましている。
たとえば主人公の範馬刃牙が、少年時代に父親から命じられたのは「崖の上から飛び降りる」という非常にシンプルで危険過ぎる修行。ただ崖から飛び降りるだけ。死の恐怖に直面する中で、刃牙少年はどんな攻撃にも負けない防御技術を手に入れる。他にも、異常なまでに精密なイメージトレーニングによって、目の前に実在しない想像上の敵を出現させて戦う修行がある。そのイメージの精密さはすさまじく、想像上で敵に殴られれば実際に体が吹き飛び、血を流し、瀕死の状態にまで追い込まれてしまうこともある。
主人公に限らず、他のキャラクターも同じだ。無理な骨延長手術を繰り返して巨体を手に入れたり、常軌を逸する量のステロイドを摂取したり、1日30時間(!)のトレーニングを行ったり、とにかく己の身体を鍛えに鍛え、鍛えまくるのである。
 
そんな男たちが本気で殴り合うので、そのバトルシーンもやはり人間離れしている。
研ぎ澄まされた技の数々。殴られるだけでは済まない壮絶な戦いによって、様々な類のダメージを負うことになる。骨を折られたり、噛みつかれたり、さらには視神経を切断されたり、筋肉を握りつぶされたり、最悪の場合は命を落とすこともある。
 
正直いって、読んでいるだけでこっちまで疲れてくる漫画だ。
予想の裏の裏の裏あたりを突いてくる展開や、度肝を抜かれるハデな演出によって、どんどん作品の中に引きずり込まれてしまう。そのせいで、読者はキャラクターたちと一緒に、疲れ、傷付き、痛みを感じるような錯覚を起こすほどに、その世界観に没入させられてしまう。
ヘソに指を突っ込まれるシーンでは吐きそうになるし、口の中で銃弾を炸裂させられたら涙が飛び出そうになるし、眼球を抉り取られたら読者は目を背けずにいられない。
 
しかし、そんな緊張感とスリルに溢れたシーンとは対照的に、とてもおだやかで、しずかな食事のシーンも意外と多く出てくるのが、作品の特徴のひとつだ。
 
戦いのあとで、傷ついた体を癒すように振舞われる中華の薬膳料理。ナイフで切らずにまるごと口いっぱいに頬張るサーロインステーキ。「食べることと強くなることは両立されるべきだ」とでも言わんばかりに、やけに丁寧に描写される食事シーン。中でも最も美味しそうに見えるのは、主人公の刃牙が自宅で食べる、ふつうの朝ごはんだ。
 
キャベツの千切り。ベーコンエッグ。ワカメの味噌汁。さんまの塩焼き。そして白いご飯。
人間離れしたトレーニングや凄惨な戦いに身を投じるシーンとは真逆に、どこまでも日常的で、生活感の溢れるシーン。その朝食を自分でつくり、居間のちゃぶ台に並べて、黙々と食べているだけのシーンが数ページにわたって続く。そこで刃牙が食べている朝ごはんが、とにかく美味しそうに見えるのは、その時たまたま読者のお腹が空いていたからではない。
 
肉体の酷使。そして生死を賭ける緊張感。それが平凡なご飯をより美味しく感じさせるのだ。
もちろん、現実の世界でそんな感覚を味わうことはなかなか難しい。
でもこの作品の中なら、過剰なまでに激しい戦いを味わい、魅力的なキャラクターたちと一緒に、疲れ、傷つき、痛みを感じることができる。
激戦によって傷ついた身体を癒すために食べる味噌汁と、家でゴロゴロしてお腹が空いたから食べる味噌汁とでは、どちらが美味しく感じるだろうか?
もしかしたら「グラップラー刃牙」こそが、読者にとって、最大の調味料なのかもしれない。
 
しかし、個性が強い作品であるが故に、その世界観に馴染めない人も多い。
「グロくて読めない」「絵が気持ち悪い」「単純につまんなそう」
大丈夫だ。突き詰めれば「グラップラー刃牙」を読まなくてもいい。
トレーニングや殴り合いではなくても、日常生活の中で、今より少しだけ自分に負荷を掛けてみるだけでもいいかもしれない。
惰性が染み込んでしまった日常生活の中で、自分に厳しい時間を作ってみる。わずかな間だけでも、日常にはない緊張感の中に身を投じ、誰かと競い合い、自分自身を磨き上げてみる。それをせずに、特にマズくも美味しくもない食事を済ませたりしてはいないだろうか?
 
ありふれたいつもの日常生活に、緊張感とスリル、ストイックさを加えてみる。
そうすれば、何の変哲もないいつものご飯がとてつもなく美味しく見えるかもしれない。
休日に漫画を読みながら家でゴロゴロしているだけでは、飯はうまくならないのだ。
 
 
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2017-09-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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