プロフェッショナル・ゼミ

読みづらいメールにとびきりの想いが込められていた《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:田中望美(プロフェッショナル・ゼミ)

「、」「。」もない。
漢字変換もされていない。
誤字、脱字がある。
改行もない。

そんなメールをみれば、誰だって読む気が薄れるだろう。
ビジネスや目上の人に送るメールであれば、
あり得ないマナー違反であり、激怒されるかもしれないし、取引は当然のように無くなるだろう。
友人同士だったとしても、これはないだろと不快に思ってしまうと思う。

でも、私はそんなメールが送られてきたにも関わらず、笑いながら泣いてしまった。なぜなら、その人の、とびきりの想いがそこに込められていたからだ。

きっと、離れている私に、一刻も早く知らせたかったんだろう。
きっと、とても嬉しかったんだろう。
きっと、電話は迷惑になるからと、慣れないメールを送ってくれたんだろうな。

私は、幼い頃からおばあちゃんっ子だった。
実家が近いということもあり、お盆や正月などの行事ごとの時だけではなく、何でもない日にもよくばあちゃん家には、連れていかれていた。幼稚園の頃は、お母さんよりもばあちゃんの方が好き! と無邪気に言っていた。今、母の気持ちを考えるとかわいそうなことをしたかな、と思うが、あれしちゃダメ、これしちゃダメというお母さんよりも、いくらでも甘やかし、可愛がってくれるばあちゃんが大好きだったのだ。

おやつも好きなだけ買ってくれるし、ばあちゃんのご飯はとびきりおいしいし、畑仕事を教えてくれたり、昔話をしてくれたり、私が少し大きくなると、相談にも乗ってくれるようになった。ばあちゃん家の匂いも落ち着くし、ばあちゃんの好きなところを言えばきりがないが、やっぱり、どんなに歳をとっても、はつらつと働いて輝いている元気なばあちゃんが大好きだったのだ。
だから、あの知らせを聞いた時、私は驚いた。いやいや、嘘でしょ、と信じることができなかった。

「ばあちゃん、もしかしたら、ガンかもしれん……」

母からそれを聞いたのは、久しぶりに実家に帰ってきたときのことだった。今回も、長い滞在はできなかいことが分かっていたから、家で少しゆっくりして帰ろうと思っていた。

だが、暗い面持ちでそういうもんだから、のんびりして帰ろうなんて言う考えはすぐに吹っ飛んでしまった。

「えっ?! まじ?!」

母によると、ずっと我慢していた足のケガが、足の骨を溶かすくらいひどくなり、腫瘍化している可能性があるという。母はずっと病院に行くように言っていたそうだが、ばあちゃんは、そういうところに頑固で、なかなか病院に行かなかったらしい。そして最近、どうにもこうにもいかなくなって、病院に行ったところ、すぐに大きな病院へ行って検査することをすすめられたというのだ。

「お母さんも、心配はしとったけど、まさか、ばあちゃんがそんなことになるとは思いもしてなかったけんね、これからどうなるとやか……」

私は、詳しいばあちゃんの容態を聞けば聞くほど、実感が湧かなかった。え? あのばあちゃんが? 病気? 足腰が強くて、働き者で、いつも笑っている、あのばあちゃんが? もしそうだとしたら、今、ばあちゃんはどうしているのだろう? 悲しんで、弱っているのか、それとも、前向きに暮らしているのか。あまりの突然の出来事に、私は途方に暮れていた。というか、私にできることが思いつかなかったからだ。

それから、実家に帰るたび、ばあちゃんのことについて母から聞いた。やはり悪性で、手術をしなければならないこと。手術は、足を切らなければならないということ。病院の都合で、一刻も早くしたいのに、すぐには手術ができないこと。

そんなことを聞いていたから、私は少しばあちゃんに会うのが怖かった。私の中のばあちゃんが、崩れてしまうと思ったからだ。でも、ばあちゃんの顔を見て、安心したいという気持ちもあった。母も会いに行ってあげてというので、次の休みの日、私はばあちゃんに会いに行った。

「のんちゃ~ん。よく来たね~!」

着いた瞬間、いつものように笑顔で出迎えてくれたことで、私はひとまず胸をなでおろした。だけど、右足には、ぐるぐると包帯がまかれている。よく見ると、包帯で巻かれているにもかかわらず、普通ではありえないくらいの凹凸があることが分かった。私はそれ以降、足の腫瘍を見ることができず、いつものように、いろんな話をすることしかできなかった。

ばあちゃんに、無理しないでねと、何もできないくせに、そう一言だけ添えて、家に帰った後、私は何かの衝動に駆られ、

手紙を書いた。

なんでいつも助けられている人に、見守ってくれる人に、大切に想ってくれる人に何もしてあげられないんだろう。

そう思うことが、よくある。大きな夢を持ち、何かを成し遂げたいと思えば思うほど、そのGAPに悩まされ、自分の無力さに途方に暮れる。
でも、そう思ってしまったらその瞬間、何もしようとしてないことと同じなのかもしれない。そう思った。

できることは何か? 何か? 何かないのか?

そう問いかければ、できることは必ずあるはずなのに。

その葛藤の末、
私は手紙を書いた。

本当に普通の手紙だ。
ありきたりの言葉かもしれない。
ばあちゃんは、一生懸命働きすぎて、足の怪我を負い、大好きな仕事も辞め、ガンが見つかり、足を切らなければならないかもしれない。そんな不安と闘いながら日々を過ごしている。足が痛くてどこにも行けない。じいちゃんと2人きり、静かな生活の中で、どんな想いでいるのだろう。
なのに、私や孫たちが来れば、痛い足を引きずりながらも、笑顔で出迎え、嫌な顔一つせずご飯を振舞ってくれる。面白い話をしてくれる。これ持っていかんねと、おやつをくれる。
ばあちゃんの苦しみなんて、これっぽっちもわかってないかもしれない。でも、今、私ができることは、こうやってばあちゃんのことを思い、いつもありがとう、頑張ってね、大丈夫だよと励ますことしかないのだ。

妹たちにも手紙を書こうと呼びかけ、郵便で手紙を送った。

あとは、ガンがいろんなところに転移していないように、そして、手術がうまくいくように祈るのみ。

元気になった時、元気な姿を見せられるように、そして、少しでも頼ってもらえるように自分の人生をしっかりと生きるのみ。

大好きなばあちゃんにしてあげられたのは、これだけだった。

そして数ヶ月後、手術は無事成功し、リハビリを終え、毎日通院をしなければならないものの、ばあちゃんは無事退院したと、母から報告があった。

するとその日のうちに、普段は見ないようなアドレスからメールが届いていた。

「ばあちゃん退院しましたのんちゃんの優しいお祈りがきいたよありがとう元気になったよ何時でもご飯食べに来て待っているよ大好きだよ」

句読点も全くない。
改行もない。

なのに、目から涙が滲み出て仕方なかった。
ばあちゃんからのこのメールは、ただの文字なはずなのに、優しさと温かさが溢れていた。

私が返信をすると、相変わらずの文体で、「夢みたいに嬉しい」と言ってくれた。

後に聞いた話では、
私たちが書いた手紙を、手術の時もお守りのように持っていてくれたという。

たったそれだけなのに、こんなにも喜んでくれる人がいる。
いつもお世話になっているのに、感謝してくれる存在がいる。

それだけで、私の方が救われる。存在してもいいんだと思えるからだ。
だから、ばあちゃんのことが大好きなのだと思う。

今回のことで、私は「何もできない自分」というのはただの空想なのかもしれないと感じた。

本当に大切なモノやヒトやコトが目の前にあれば、何とかしてでもできることを探すはずなのだ。

どんなにうまくいかなくとも、どんなに落ちこもうと、
もしそれが、かけがえのない大切なものならば、諦めるわけにはいかないではないか。

できないできないと私が嘆いていたものたちは、多分そこまで大切に思っていないものだったのだろう。

今日、ばあちゃんと約束をした。
一緒にご飯を作ろうという約束だ。ばあちゃんはとても喜んでくれた。それがとても嬉しかった。

小さなことでも、こんなに喜んでくれる人がいる。
だから、どんな人にもできることは必ずあるのだと、私は思う。

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