メディアグランプリ

物語は熟成ワインのように


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記事:菊池優美(ライティング・ゼミ 日曜コース)

 

あの時先生は、私に熟成ワインをプレゼントしてくれたのだと思う。

 

「私がこの世の中で一番好きな物語です」
と先生は言った。

大学のドイツ文学の先生だった。
ゼミの担当教員でもない彼がなぜこの本をくれたのか、今となっては思い出せない。
翻訳をテーマにしていた私の卒業論文の参考に、ということだったろうか。

とにかく、いつもは鉄仮面のような先生が
「素晴らしい物語で、最高傑作ですよ」
と珍しく笑顔で語っていたのは思い出せる。

その本は残念ながら、20歳そこそこの私の心の琴線に触れる物語ではなかった。
先生が本をくれたことが嬉しくて、一通り読んだ後も何度か読み返してみたのに、やっぱりよくわからなかった。
どうしてもヒロインが好きになれなかったし、主人公がかわいそうで、なんだか読後がすっきりしない、悲しい物語だと思った。

そして29歳になった今、部屋の掃除をしていた際、ふいにこの本が出てきたのだった。

『グレート・ギャッツビー』
近年、レオナルド・ディカプリオ主演で映画化もされたこの物語。
謎だらけの若き富豪、ギャッツビーの狂乱の日々とその裏に隠された秘密を、彼の友人の目線で描いている。

「青年期の青春」を描いたこの物語は、29歳になった私の心にガツンと響いた。
先生はひょっとして、私の未来の預言者だったのだろうか?
そう思うくらい、29歳の私にぴったりとハマった。

その頃、私は行き詰まっていた。
仕事はしていた。新卒で入社した会社だった。
でも、上司から正当な評価を受けているとは思えなくなっていた。
いまなら、口ばかり達者で、経営者でなく従業員の代弁者! とばかり張り切って各所にかみついていた私が評価されることがないことくらい、わかる。
中間管理職として、経営者側ではなく、従業員側について騒ぎ立てることほど、楽なことなんてないのに。

ただその頃は
「こんなに頑張っているのにどうして?」
「数値目標だってきっちり達成しているのになんで?」
「上司が、会社が悪いんだ」
と誰かのせいにばかりしていた。

そして、異性関係もうまくいっていなかった。
彼氏がほしくてがむしゃらに動いていたが、結果が伴うことはなかった。
とにかくはやく彼氏を作って、結婚して、仕事をやめたかった。
いまなら、相手に求めるばかりで、自分が相手に何が出来るかなんて考えもしない私に、彼氏ができるわけないことくらい、わかる。

でもその頃は
「こんなに合コンに参加しているのにどうして?」
「ひょっとして私、ものすごい不細工なのかも? 整形すべき?」
「ずっとこのまま一人なんじゃ……」
と焦燥感に駆られていた。

そんな私の手元に、不意に『グレート・ギャッツビー』が戻ってきたのだった。
正確には、ずっとそばにいてくれたのだけど。

20歳の小娘の私が「かわいそう」と判断したギャッツビーは、29歳の私にとって、かわいそうな人物なんかじゃなかった。10代、20代のころの「無垢な気持ち」を保ちながら、大切なものすべてを手中に収めようとする貪欲な人物だった。
20歳の私が「いけ好かない」と断じたヒロインのデイジーは、自分の生活を確立した、冷静な判断のできる大人だった。

社会人になって、6年間色んなことに揉まれて、やっとこの『グレート・ギャッツビー』が語りかけてくれたように思った。
入社したてのフレッシュな気持ちといった無垢さを保つのが、どんなに難しいことか。
大切なものすべてを手中に収めようとすることが、どんなに難しいことか。
生活を確立することが、どんなに難しいことか。
ときに冷静な判断を下すことが、どんなに難しいことか。

全部、学生時代の私には無縁なことだった。
そして、29歳の私には、痛いほど理解できることだった。

よし、会社やめよう。ギャッツビーのようにお金儲けだけを目的にしていては、いずれ身を持ち崩す。だからこれからは、自分が自分を好きになれる仕事をしよう。
そしてただ恋のチャンスを求めるのではなく、ギャッツビーの登場人物であるジョーダンのように、自分らしく人生を生きる中で、出会える男性を探そう。

ギャッツビーを読み返した私は、上京して仕事を探すという、ずっと迷っていたことにチャレンジすることを決意した。

物語はワインに似ていると思う。
ワインの個性や種類は多種さまざまで、あまり寝かさずに飲んでもおいしいものもあれば、じっくり寝かせて初めて真価を発揮するものもある。

わたしにとっての『グレート・ギャッツビー』はまさに熟成したワインだった。
物語といったん距離を取り、寝かせることではじめて私の人生に大きなインパクトを与えてくれた。
人によっては、若いうちに『グレート・ギャッツビー』を読んですぐに何かしらの理解を得ることもあるだろう。ワインの飲みごろがいつだと感じるかは人それぞれであるように、物語が影響を与えてくれる時期もきっと、人それぞれなのだと思う。

そういったわけで、2009年モノの『グレート・ギャッツビー』は、私の人生に大きな指針を与えてくれた。
私はギャッツビーのように、傷ついてもどんな手をつかっても、大切なものすべてを手中に収めるために、今日も東京の街を奔走するのだ。

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2017-09-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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