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産後クライシスを救った、キリギリスからの手紙


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:野田祥代(ライティング・ゼミ 日曜コース)

 
 
そこには、私が忘れかけていた気持ちがあふれていた。
この手紙を書いた時には、未来の私を、癒す事になるとは、思いもよらなかったけれど、気持ちを文章に残しておいたこと、そして、その手紙を持っていてくれたパートナーにも、心から感謝をしている。

子供の頃に聞いた、アリとキリギリスの童話。
冬に備えて、夏の暑いさなかも、せっせと食料をあつめ働くアリと、気ままに歌って
過ごしていたキリギリス。
冬を迎え、沢山の貯えに囲まれるアリと、食料がなく、力尽きてしまうキリギリス。
先々を考えず、遊んでばかりいると、キリギリスのようになってしまうよと、子供にも
とても分かりやすいストレートなお話だったように記憶している。

ところが、そんな童話のメッセージもどこへやら。
大人になった私は、キリギリス型の人生を送っていた。
そして、私のパートナーもキリギリス型の人だった。

さずがに、童話のキリギリスのように、遊んで暮らしてまではなかったものの、
自分たちが思うように生きる事を大切にしていた。

私は自分の好きな事を選び生計を立てていたし、パートナーも会社勤めは50歳で終わり
そこからは、気ままに過ごす人生設計をしていた。

二人の未来についても、お互い当然のごとく、結婚に対しては興味がなかった。
それよりも、ベストなパートナーとして、今を楽しく過ごしていられる事を
大切にしていた。

そんな二人に起きた青天の霹靂。
子どもを授かったのだった。
しかも、二人とも、42歳の春の事だった。

私は、すでに子供を産むという事はもうないだろうと思っていた年齢だっただけに、
思いもよらない人生の展開に、最初はただただ驚くばかりだった。

でも、次に、「私の人生、これからも面白そう! 」と、不安も迷いもなく
あっさりと出産する事を受け入れていた。

パートナーに、授かったことを伝えると、やはり驚いた様子だったけれど
「ありがとう。 高齢出産やしがんばってな」と、気が利いているとは思えない
笑えるコメントをくれた。
そんな彼は、私よりも数倍喜んでいるようにも見えた。

こうして、キリギリス型の二人らしく、子供が授かったという事も、あっさり受け止め、私たちは家族になり、親になった。

妊娠発覚から2年半、誕生してから1年半。
息子ちゃんとの時間は、私が思った以上に、楽しいものだった。
もちろん、不安になったり、イライラしたりはあるけれど、私もそれなりの年齢だからか
気持に余裕をもって向き合う事が出来たし、なにより、まっすぐストレートに、愛情をぶつけてきてくれる存在に、とても心が満たされていた。

と言うと、順風満帆なようだが、実はもう一つ、私の想定外だった事があった。
それは、パートナーに対して抱いた嫌悪感だった。

俗にいう、「産後クライシス」に陥ったのだった。
産後クライシスとは、出産後、パートナーの態度に、不満を感じ、それが嫌悪感になり
夫婦仲が悪化してしまう状態の事だ。

女性は、母親になると、子供を守り育てるためのホルモンが体内で生成され、分泌される。
母乳がでたり、睡眠中、子供の泣き声に目覚める事が出来るのも、このホルモンの効果。
こうして四六時中子供に注意を払う事ができるのだ。

ただ、常に神経が敏感になっているので、自然と攻撃的にもなる。

これは、人間だけでなく、子供を産むほとんどの生き物に宿った、本能的機能で
カマキリのメスなどは、卵を産んだあと、その卵がだれかに見つかると、
自分で卵を割って壊してしまうほど、神経過敏に攻撃的になるそうだ。

細かなことまで、気づいてしまう女性、精神的にも不安定になる女性に対して
男性はなにも変わらないまま、だから歪みが起きやすい。

という事を、解剖学を学んでいた私は、知っていたので、少なからず自分も
メスカマキリ化するだろうと予測はしていた。

そして、男性には、言葉で伝える事が必要だという事も理解していた。

だから、伝えさえすればパートナーも協力してくれるだろうし、自分がイライラしても
ホルモンの影響と知っていれば、関係にひびが入るほど、ココロを乱す事はないだろうと思っていた。

ところが、このメスカマキリ化ホルモンは、想像以上に強力だった。

頭では自分が過敏になっている事を、理解していても、
些細な事に、イライラが止まらなくなるのだ

パートナーは息子ちゃんをとても可愛がっていたし、私にもとても優しかった。

でも、
休日には、お昼も近い時間に起きて来たり。
息子ちゃんがそばにいてもスマホばかり見ていたり。
夜中に泣いても、ピクリともせず寝ていたり。

私は、息子ちゃんに時間のほとんどを費やしているのに!
気ままなキリギリスから、敏感なメスカマキリに変ったのに
あなたは、キリギリスのまま!

そうして、どんどんストレスが膨らんでいった。

とはいえ、声を荒げたり怒ったりはしなかった。
私だって、本当は、以前のように笑って仲良くしたいのだ。

気持ちを変えようとすればするほど、苦しくなり、どんどん笑えなくなっていった。

パートナーも、私のストレスに気づいてはいても、触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに、スルーをしていた。

私は、この先どうしたら、パートナーへの嫌悪感が消えるのだろう? 
そんな事ばかりを考えていた。

そんなある日、パートナーのパソコンを借りる機会があった。
そこで、ふと、デスクトップにある、一つのデータに目が止まった。

それは、私が、里帰り出産の為に帰省をする前日、パートナーへ送った
当時の気持ちを綴った手紙のデータだった。

読み返してみたら、何か気づきがあるかもしれないと、データを開けてみると、
そこには、記憶している以上に、パートナーへの感謝の気持ちが記されていた。

私の人生をより面白くしてくれたこと、愛おしい命を与えてくれたこと、
そして、迷わず家族になる事を受け入れてくれて、喜んでくれたこと。

なんとなく、当時の気持ちがよみがえってきた気がした。

この先起きるかもしれない、産後クライシスについても、伝えていた。
これからの、私の身体や心の変化について。
感情が不安定になる事があり、もしかすると、とても攻撃的になってしまうかも
しれないという内容のあとに、

「もしも、私がとても攻撃的になったとしても、それは子育てで起きる一時の事。
嫌な思いをさせるかもしれないけれど、出来れば、そういう時期なのだと理解して、
どうか、見守って待っていてほしい」と書いてあった。

私のストレスをスルーしている! と思っていたけれど、 
もしかしたら、パートナーはこのお願いを聴いてくれていたのかもしれない。

そういえば、突然、私の機嫌がわるくなったり、口を閉ざしてしまっても
パートナーが私に怒る事はなく、機嫌が収まるのを待っていてくれた。

さらに、読み進めていったときに、有る事に気づいたのだった。

「自分の人生プランを変えて、子供をもつ覚悟を持ってくれてありがとう」

そうだ、彼はあと数年で、自分のやりたいように過ごす人生設計だったんだ。
すっかり忘れていた。

私は、自分だけが、子育てをするメスカマキリに変わったとイライラしていたけれど、

パートナーもまた、気ままなキリギリスから、家族を養うために働く決意をもった、
働きアリに変身していたのだった。

なのに、自分だけがカマキリになったと思っていた、私の攻撃を、文句も言わず
受け止めてくれていたのだろうか。

「自分だけって思って、イライラしてごめん」
思わず、そう一人つぶやいていた。

今を謳歌していた、キリギリスカップルは、人生の折り返しを過ぎてから授かった
愛おしい命の為に、自然とお互いが,必要に変化をしていたようだ。

そう思えたら、少しずつ、パートナーに抱いた嫌悪感も緩んでいった。

そして今。
時折イラっとする事はあっても、それが嫌悪感に繋がる事は無くなり
私の気持ちも楽になり、パートナーとの関係も以前のように戻っていった。

この先も、私たちは、必要に応じて変身していくのかもしれない。
もし、そうなら、移り変わりを、ちゃんと気づける人でありたい。
それぞれの役割を気持ちよくやりきる事が出来るように。

あなたのおかげで、救われたよ。
出産前の私に、ありがとう。

そして、手紙を手元に残しておいてくれたパートナーにも、ありがとう。

こうしてまた、今の気持ちを残しておこう。
いつか、何かの時に役に立つかもしれない。

息子ちゃんが大きくなった時に、笑いながら読み返す事が出来たら、幸せだろうな。

その頃は、また、気ままなキリギリスに戻って、パートナーと二人、残りの人生を
楽しんでいたいと思うのだった。

 
 
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2017-09-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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