フラリーマンできないストレスママは……。
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記事:相澤綾子(ライティング・ゼミ日曜コース)
今、仕事が終わってもまっすぐ家に帰らない「フラリーマン」と呼ばれる人々が街中に増えていると言う。「ちょっと自分の時間をつくりたい」という理由で、家電量販店やカフェに立ち寄る。子どもと同居している方がフラリーマン率が高いというデータもあるそうだ。子どもがいると家の中で自分の時間を過ごすことが難しくなるからだろう。でも自分の時間を過ごしたいのは父親だけじゃない。フラリーマンの裏側に、その間一人で子どもの世話をしている母親がいることを想像すると心穏やかではなくなる。
子どもを待ち望んでいた夫婦なら、子どもがいるとどんなに楽しいかと夢描いていただろう。玄関を開けると「パパおかえりー」と子どもが駆け寄る。その楽しみのために夫も早く帰る。一緒に遊び、たくさん笑い合い、丁寧に育てたいと思ったのではないか。手を挙げたり、子どもがおびえるほど怒ったりするなどあり得ない。子育ては幸せの源のはずだった。私自身もそうだった。まさかこんなにも自分の時間が欲しいと思うなんて想像していなかった。
でも現実は違う。もちろん楽しいこともある。子どもの成長に嬉しい驚きを感じることもある。けれど、思い通りにいかないストレスに苦しむことの方が多い。子どもはもう既に一人の人間で、親が勝手に描いた夢の中の子どものように都合よくは動いてくれないのだ。
今、末っ子の娘はイヤイヤ期と呼ばれる時期の真っ最中。少しでも気に入らないことがあると、イヤっ、嫌いっ、違うっのどれかしか言わなくなる。無理に何かしようものなら、ひっくり返ったり、泣きわめいたり手がつけられない。こうして自我が目覚めつつあるのだなあとも理解しているけれど、成長を喜ぶ余裕などない。そのパワーに圧倒され、疲れ切っている。今では「子どもがおびえるほど怒らない」という最低限のルールしか守れていない。
今日もお風呂の後、用意したパジャマを「着ない!」と放り投げた。おむつも履かずにぱたぱたと走り回っている。
「どれ着たい?」
もうパジャマだけでなく、洋服も含めていくつか候補を挙げ、着たいものを選ばせる。
「自分で着るかな、それともママが着せるかな、一緒に着る?」
どう着るかも重要だ。次は少し声を高くして、ぬいぐるみを動かしながら、
「はやく着ようよ」
と言ってみる。手持ちのネタのどれかに子どもの顔が反応し、「するっ!」と叫んで動き出したときはほっとする。が、こうした駆け引きがいつもうまくいくとは限らない。どんどん時間は過ぎていく。
そしてやっと着てくれても、歯磨きの準備をしている間に上の子たちとおもちゃの取り合いになり、今度はひっくり返って大声で泣き始める。もう眠いというのもあるのだろう。近寄ろうとすると足で抵抗し、抱き上げようとするとぐにゃりと逃げ出そうとする。
どうにか落ち着いたところで私はスマホを手に取る。子どもが寝入った後まで待てない。一瞬でSNSの世界に足を踏み入れると、そこはもう落ち着いた大人の世界。筋の通った会話が繰り広げられている。「ああ、私も普通の世界と通じているんだ」という安堵感。カフェでなくてもいい、ちょっとコンビニまで歩き飲み物を買いつつ、外の空気を吸って頭を冷やしたいところだが、それさえも叶わない。子どもたちを残してでかけるわけにはいかないのだ。だからSNSの世界をふらつく。友人の投稿にクスッと笑い、シングル女子のおしゃれなディナーに憧れ、仕事絡みの情報を得てワクワクし、今日のきれいな夕陽の写真に共感して自分を取り戻す。子どもたちの様子をちらちら見ながら、二、三分画面をスクロールすると、気持ちのリセットができる。いや、もしかしてこの方が、コンビニで新商品を探すよりも密度の濃い自分時間になっているかもしれない。
そしてSNSの世界には、自分と同じように子育てにストレスを感じている母親たちがたくさんいる。子どもの呆れるイタズラに笑い、日々の成長を喜び合うことで、仲間がいる安心感を得られるのだ。
さあ、気持ちが落ち着いたら、子育ての1日の締めくくり、寝かしつけの時間だ。
たぶん、軽いSNS中毒。罪悪感もある。でも、この息抜きがあるから、子どもがおびえるほど怒らないという最低限のルールを守ることができている。そして、子どもたちが寝静まった後にフラリーマン疑惑の夫が帰ってきても「おつかれさま」と笑顔で言えるのだ。この短いスマホ時間の合計なんて、フラリーマンに比べたら可愛いものじゃないかな。できればその分もっと子どもたちと関わったりした方がよいのだろうけれど、そんなことは言わないで欲しい。そんなことは分かっていても、これが今の私の精一杯なのだ。
子どもたちは着実に成長するだろうし、言葉によるやりとりもよりスムーズになるだろう。もちろん新たな課題が発生することもある。でも霧が少しずつ晴れるように良くなるはず。ストレスを適度に開放しつつ、子どもたちの成長を喜びたい。そして、家族全員が「やっぱり家が一番くつろげる」と感じるような、温かい家庭を目指したい。
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