プロフェッショナル・ゼミ

大勢のクラスメイトから殺された私が学んだこと《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:高浜 裕太郎(プロフェッショナル・ゼミ)
※このお話はフィクションです。

「あぁ……すみません!」

新入社員が、またミスをした。私が確認しただけでも、同じミスを2回も3回もしている。その度に彼は、「すみません、すみません」と謝るのだった。本当に申し訳なさそうに。

そんな彼が、裏で先輩や同期から、どんな言葉で罵られているか、私は知っている。「あの役立たず!」や「無能」と呼ばれているのだ。もちろん、彼に直接、酷い言葉を投げかける人もいる。

「お前さぁ、この仕事向いてないんじゃないの?」

言った本人は、彼を鼓舞するつもりで言ったのかもしれない。けれども、その言葉は、まるで毒針のように、彼に刺さって、そして彼のエネルギーを奪っていった。彼が、受けた毒が原因で、どんどん弱っていっているのを、私は見ていた。

彼の直属の上司にあたる私は、そんな彼を指導する時に、1つだけ心がけていることがあった。それは、「存在の否定をしない」ということだった。

毒によって、どんどん弱っていく彼を見ていられなくなったという理由もある。しかし、この「心がけ」は、私が中学校の時に経験したことが、大きく影響している。

では、私に、その「心がけ」を与えるきっかけとなった事とは、何なのだろうか。

中学3年生の文化祭で、私はクラスメイトに殺されかけた。

私達の中学校は、11月に文化祭があった。各学年、各クラス、毎年何かしらの出し物をすることになっていた。
そして、中学校の「暗黙の了解」も存在していた。「3年生しか、劇をやっちゃだめ」という掟が存在していた。
毎年、3年生の各クラスがやる劇は面白く、下級生は、それを食い入るように見ていた。まるで、スターを夢見る子供のように、「3年生になったら、あの舞台で、劇をやるんだ」という夢を、下級生は見ていた。
そして、ついに私達が劇をする番がやってきたのだ。
私達は、かなり気合が入っていた。脚本も生徒が担当するし、演出も生徒が担当する。先生は一切介入しない。出来上がった劇を、事前にチェックするだけだ。
だから私達は、「私達だけで劇をつくる」ということに、喜びを感じていた。小さい頃に、拾ってきたものを集めて、自分達だけの秘密基地を作った時みたいに、「自分達だけの世界」がそこには広がろうとしていた。私達は、その世界が、どんな形になっていくのか、楽しみでしょうがなかった。

そんな空気の中、私にも役割が回ってきた。「演じる人」の役ではない。元々大人しい性格の私に、役は回ってこないと、自分でも分かっていた。
私は、自分を「風景」みたいな人物だと思っていた。当時の私は、やんちゃをしていたグループと、よくつるんでいた。ただし、私が何か悪事を働くわけではない。校舎のガラスだって、1枚も割ったことは無かったし、ケンカなんて絶対にしなかった。
けれども、やんちゃグループとはつるんでいた。よくお互いの家に遊びに行ったりもしていた。
やんちゃグループの人間は、おそらく私のことを、「風景」に近いものだと認識していたのだろう。一緒にいても害は無い。だからつるんでいる。別に、絶対に私のことが必要だったわけではない。けれども、なぜか私は、いつもグループの中にいる。ケンカ1つしないのに。そう、私の存在は、「風景」のように違和感が無かったのだ。

そんな「風景」だった私に、役割が回ってきた。重要な役割だった。
それは、「運営委員」と呼ばれるものだった。
「運営委員」とは、劇の裏方を管轄する組織だ。練習時間の確保や、必要な道具の調達、さらには、練習場所の確保など、かなり忙しい組織だ。
その組織に、なぜか私が組み込まれることになったのだ。もっとも、これは、やんちゃグループの1人であった、タクローの鶴の一声で決まったことだった。

「お前さぁ、運営委員できそうじゃね?」

タクローは、やんちゃしていたせいもあって、クラスの中で発言権があった。そして、彼の言葉には、説得力があった。彼が黒と言えば、白いものでも黒になりそうな、説得力があった。だから、クラスのみんなは、タクローによって、催眠術をかけられたのだ。「私に運営委員が出来る」と思い込む催眠術を。

その結果、私は運営委員の1人になった。学級委員長と、クラスで1番の秀才の男子と、私という3人組で活動をしていくことになったのだ。

「ねぇ、これはどうする?」
「あぁ、それね。もう終わったよ」

私を除く運営委員の2人は、本当に仕事が早かった。会話のテンポが、まるでオリンピックの卓球をみているかのように、早い。どんどん言葉が交わされ、私の脳の処理が追いついた頃には、会話が終わっているのだ。

「これ、俺必要かなぁ……」

私は、そんなことを思い始めていた。私を除く2人でも、この組織は十分に回転するような気がした。私は、2人から言われたことだけを、やっているだけだった。難しい事は、2人が全てやった。

そんなある日、私にもついに大きな仕事が巡ってきた。
「本番前に1回、体育館で練習をするから、抽選会に行ってきてくれない?」

学級委員長が私にそう言った。その頃、劇で使う道具の手配や、各担当者との打ち合わせで、2人はかなり忙しそうだった。ただでさえ回転の速い頭を、さらにフル回転させて、取り組んでいた。だから、2人共、手の回らないことが出てきたのだろう。そこで、私の出番というわけだった。

本番前の体育館での練習は、かなり重要だった。本番前に、唯一1回だけ、本番と同じステージで、通し練習をすることが出来る。けれども、時間が限られている為、抽選が行われるのだ。すなわち、事前練習が出来ないクラスが出てくる。

その運命のクジを引く人物として、私が選ばれたのだ。

私は正直、「なんで俺が?」と思った。特に何の仕事も出来なかった私に、なぜ今更白羽の矢が立ったのだろうか、2人の考えていることが理解できなかった。しかも、タクローをはじめ、やんちゃグループまでもが、私の肩を叩いて、「お前なら出来るぞ! 頑張れ!」なんて言っている。昔やってたサッカーで、ベンチから試合に出る時、監督が私の肩を叩いて、「お前なら出来るぞ! 頑張れ!」なんて言っていたことを、ふと思い出した。あの時の感覚に似ている。試合と同じで、選ばれた以上、全力を尽くすしかない。私は腹をくくった。

そして、運命のクジ引きが行われた。
私はひどく緊張していた。まるで、引いたクジの中に、この先の私の運命が書かれているような気がした。天国行きか、地獄行きか、出来れば、天国行きの切符を引きたいと思った。

「各クラスの代表者は、クジを引いて下さい」

私は、祈るような思いでクジを引いた。そのクジには、数字の「8」が書かれていた。おそらく、受験と同じように、番号が発表されていくのだろう。

「えー、当選番号を発表します」

社会科を担当していた、50代くらいの禿げた先生が、ガチョウのような声で、当選番号を発表した。私は、手から火でも出るのではないかってくらい、持っていたクジを、クシャクシャにして、しっかりと握っていた。

「2番、5番、6番、9番、11番の番号を持っているクラスは、前に出てきてください」

私は崩れ落ちた。落選した。その事実を告げられると、私の頭の中には、これから起こるであろうことが、次々と押し寄せてきた。
「みんな失望するだろうな」
「いや、笑って許してくれるかな」
「いやいや、本気で怒られるかもしれない」

様々な可能性が、頭をよぎった。みんなが、どんな反応をするのか分からなかった。みんなが、事前練習に、どれ程の思いを寄せていたのか、私には推し量れなかった。ただ、私は、クラスの代表としての役割を果たせなかった。歴史の教科書で見た勝海舟は、幕府の使者として、江戸城を無血開城へ導いたという。彼は、成功したから良かったものの、もし失敗していたら、私と同じような感情を抱いたのだろうか。そんなくだらないことも考えていた。

そして私は、クラスのみんなに、落選の旨を伝えた。

すると、クラスはシーンとなった。あんなに騒がしかったクラスが、物音1つしないクラスへと一瞬にして変わった。飛び交うハエの音さえ、鮮明に聞こえる程の静けさだ。

「ゴォン!」
タクローが机を勢いよく蹴った。そして、その机は、激しい音を立てて倒れた。その音が、タクローの感情を表しているようだった。

「お前さぁ……ふざけんなよ……」

ゆらりゆらりと、まるで幽霊かのように、タクローは私に近づいてきた。そして、私の胸ぐらを掴むと、大声でこう言った。

「お前さぁ! なんもしてねぇくせに! みんながどんだけ迷惑してっか分かってんのか?」

お前が勢いで、運営委員に任命しておいて、それはないだろうと内心思ったが、仕事らしい仕事を、特に何もしてこなかったのも事実だった。
他のクラスメイトも、黙ったまま俯いている。その姿勢が、「私達はタクローと同意見です」と言っているようだった。

「この役立たず!」
最後にこう言って、タクローは私を解放した。私は、胸の鼓動が早くなっているのを感じた。ドクドクと、まるで太鼓でも叩いているかのような激しい音が、心臓からしていた。

その日以来、クラスメイトは、私のことを「役立たず」と認識するようになった。クラスメイトから直接、この言葉を聞いたわけではないが、私は彼らの考えが読めた。できれば被害妄想であって欲しいが、おそらく、いや確実に、私は「役立たず」と思われていた。

「役立たず」として迎える文化祭は、空しいものだった。かつては私も、その輪の中に存在していたはずなのに、なぜか今は、その輪を見ている。その輪は、本当に楽しそうで、みんなの楽しそうな顔が、私をさらに苦しめた。

「あぁ、俺なんかいなくてもいいんだなぁ」と思った。

私は、やんちゃグループと交わる自身を、「風景」のようだと思っていた。しかし、それは「良い風景」だった。私がそこに存在していても、何の違和感も無いという意味の「風景」だった。
しかし、今は「悪い風景」になってしまっている。私なんかいなくても、その輪が崩れることなんか無いし、いきなり私が消え去ったとしても、違和感を感じる人はいないだろう。完全に空気と同化してしまったという意味での「風景」だ。私は、幽霊でもなった気分だった。

タクローに「役立たず!」と言われたあの日から、私は自身にどんな価値があるのか、分からなくなっていた。おそらく、他のクラスメイトも、私のことなんかどうでもいいと思っている。私は「風景」になって、いないものとされてしまった。私は、殺されたも同然だった。

そして、「俺は役立たずだ」と思い込むことが、私自身をさらに追い詰めた。
「役立たずな俺に、この場にいる資格なんてあるのだろうか」と、そんなことを思っていた。自分が存在してもいい理由をずっと探していた。けれども、そんなものは見当たらなかった。だから私は、「俺は存在してはいけないんだ……」と、自分を追い詰めた。

今、私は大人になった。人の上に立つ立場にもなった。そんな私は、部下に対して、絶対に言わないように気を付けている言葉がある。
それは「役立たず」だ。「役立たず」という言葉は恐ろしいものだ。その人の存在価値を、一瞬にして奪ってしまう。まるで、ひったくりのように、一瞬のうちに奪ってしまう。
そして、レッテルを貼られた人間は、自分のことを、ひたすらに追い詰める。「自分は存在していいのか」と思う。

私には、そんなことは出来ない。人に「役立たず」というレッテルを貼ってしまうことは、人を殺すことだ。その人の存在価値を消してしまって、場合によっては、本当に命が失われてしまうかもしれない。

だから私は、人を殺すこの言葉、「役立たず」を言わないようにしている。そして願わくば、「役立たず」なんて言葉が、この世から無くなればいいと思っている。

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