メディアグランプリ

祭を歩きながらボレロを聞いた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:バタバタ子(ライティング・ゼミ 特講)

 

ある曲が、突然、頭のなかでリピート再生されて、止まらないことがある。
大抵それは、なんの前触れもなく、突然訪れる。
残暑厳しい9月なかば、ごった返す祭の人込みの中で、私の頭の中に流れていたのは、クラシックの名曲だった。

幅10メートルはありそうな、大きな参道。
それでも、その日はギュウギュウに人が詰め込まれ、はち切れそうになっていた。
「さすが、放生会」
祭は、これくらい賑わっていたほうが、面白い。

九州に祭は数あれど、ずらっと並ぶ露店でいえば、この放生会が一番だと私は思っている。
数も多いし、種類も豊富だし、珍しいものもある。
「せっかく放生会に来たのに、見逃してしまった」なんてことがないように、すべてのお店を漏らさずチェックしなければ、気が済まない。

しかし、九州最大規模の人出の中、勝手気ままに見て回るのは難しい。
自由に動ける余白など、残されていないのだ。
人々はまるでベルトコンベアーに乗せられたように、一定の方向に、一定の速度で進んでいた。

周りにならって、前の人の歩幅に合わせ、隙間ができないように前進する。
ぶつからないように、転ばないように気を配りながらも、両隣の人たちの頭越しに見える露店の看板のチェックも欠かせない。
やきとり、いかやき、とうもろこし。りんご飴に、かき氷。
のびーるトルコアイス。あんこの入った焼き餅。
へぇ、最近話題のハンドスピナーや電球ソーダなんてのも売ってるんだ。

心おどらせながら、周りの人と歩幅を合わせて歩いていると、いつの間にか頭の中で、タッタカ、タッタカとドラムが鳴っていた。

なんだっけ、この曲は。
いろいろなところで聞く気がする。
そうだ、妹が小学生のときに遊んでいたハム太郎のゲームの中で、出てきた。
それに、夏休みのアニメ映画でも、テーマ曲のように繰り返し使われていた。
たしか、「ボレロ」といったっけ。
わくわくして、軽い足取りで、大勢で行進するのには、ぴったりだ。

同じ旋律が、繰り返し流れる。
もともとそういう曲だけれど、私がうろ覚えなので、よけいに終わり方がわからなくなっているのだろう。
メインテーマだけが、とめどなく繰り返される。

前の人に合わせて、ゆっくり歩くに従って、両脇の露店もゆっくり変わっていく。
やきとり、いかやき、とうもろこし。りんご飴に、かき氷。
あっ、珍しいと思った電球ソーダ、ここでも売ってる。
また、やきとり、いかやき、とうもろこし。
ん? この店の前、さっきも通らなかったっけ?

周りの人と一体になって、まっすぐの参道を歩いているので、逆走はしていないはずである。
でも、この積み上げられた豚バラ串も、あのトルコアイスを伸ばしているエキゾチックな店員さんも、さっき見たような気がする。
頭の中のボレロは止まらない。

冷やしパイン、美味しそうだけど、さっき食べたからな。
いや違う、あれは3年前だ。
またお餅屋さんだ。アツアツのお餅を食べたのは、いつだっけ?
あれは今日のはずだ。バッグに包み紙が残っているもの。
イカ焼きをおまけしてもらったのは?
雨が降っていたから、今年ではないはず……

頭がフワフワしてくる。9月の九州の日差しのせいか。それとも、繰り返される光景のせいか。
機械的に一歩ずつ足を出し続けるが、進んでいるのか戻っているのか、分からなくなる。
歩いても歩いても、目の前は同じ白いTシャツ。
左右を流れていくのは、既視感のある露店の看板たち。
同じ光景が、ずっと繰り返される。
いま歩いているのは、どこ? 本当に進んでいる? 私はいま、何歳?
聞こえるのは、ボレロの同じフレーズ。どんどん大きくなる。鼓膜がやぶれそうだ。

突然、だれもいない空間に放り出された。
目の前には、広い道路。片道3車線くらい。まっすぐ歩いてきた道は、ここでプッツリと途切れていた。
参道の、放生会の端に到達したのだと理解するのに、少し時間がかかった。
気づけば、ボレロは聞こえなくなっていた。

ちょっと落ち着こうと、横に折れて3メートルくらい行ったところに、一口カステラの店があった。
中ぐらいのサイズを注文して、袋に詰めてもらうのを待つ間、外から放生会を眺めた。
人々の賑わいが見えるし、ざわめきも聞こえるのに、そこからむこうは、まるで透明なカーテンで区切られているかのようだった。

外から祭を眺めるのは、少し寂しく感じた。だが同時に、ほっとした。
人込みから抜けて、見晴らしがよくなったのもある。
自分のペースで、止まっていられるようになったのもある。
今が2017年で、現在地が国道3号線のところだとハッキリしたというのもある。
あの、終わりの見えない、繰り返される、グルグルした空間から、いつもの世界に戻ってきた気がした。

カステラをひとつ頬張って、飲み込んだころには、頭の熱っぽさは粗方とれていた。
そうなると、また放生会に戻りたくてウズウズする。
すこし深呼吸してから、また参道に足を踏み入れた。
遠くから、ボレロの旋律が聞こえてきた。

***

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2017-10-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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