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102歳の祖母の死から、見えてきた背景色


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記事:水月むつみ(ライティングゼミ・日曜コース)

 
 
人の人生は、「芋掘り」に似ている。
 
私が生まれ育った田舎では、幼稚園の時にも、小学校の時にも、中学校の時にも、秋に芋掘りの行事があった。
 
昔の写真には、幼稚園生の私が自分の顔よりも大きな薩摩芋を持って、仁王立ちしている姿が残されている。
 
そんな「芋掘り」と人の人生が重なって見えるようになったのは、最近のことだ。
 
今年の5月、祖母が102歳で亡くなった。
祖父は、私が大学生の時にすでに亡くなっていて、祖父の死から、ずいぶんと長い年月が経った5月、祖母が旅立った。
老衰で、102歳だった。
 
私は、祖母を、最近まで、ただの「お嬢さん」だと思っていた。
彼女は、若い頃、丸の内でタイピストをしていて、ケーキが好きで、ピザが好きで、牛乳が好きで、という、ものすごく「モダンな」香りのする人だった。
 
「職業婦人」とか言われた、いわば「丸の内OL」のはしりだったわけで、しかも、彼女は『丸の内、美人特集』みたいな雑誌に写真が載るほどの美人だった。
 
栃木に嫁いだ彼女は、東京に住んでいる私によく言っていた。
 
「東京は何でもいろいろあるから、楽しいわよね」
 
それを聞いた私は、丸の内の街頭を楽しそうに闊歩する彼女の姿をいつも想像していたのだった。
 
でも、実は、そんなにきらびやかではなかったかもしれない祖母の人生を、私がおぼろげながら知り始めたのは、彼女の葬儀の時からだ。
 
弔辞では、それまで知ることのなかった祖母の人生が、父の口から語られた。
 
祖母が結婚したのは、33歳だった。
当時の時代背景から考えれば、信じられないくらいの晩婚である。
 
お嬢様育ちで美人の彼女が、どうして、33歳まで独身だったのか。
 
誰だって、疑問に思わずにはいられない。
 
その疑問は、葬儀からだいぶ時間が経った最近になって、やっと解かれた。
祖父が、3回結婚していたことも、叔母が戸籍を調べたことで、最近、明らかになった。
2回の別れは、離縁によるものではなく、死別によるものだったけれど、親族にとっては衝撃的な事実である。
 
それを聞いて、「もしかして、祖母も再婚だったの?」と最初思ったけれど、そうではなかった。
 
祖母には、33歳まで結婚できなかった理由があったのだ。
 
祖母の父は新聞社の論説委員をしていたから、祖母の家庭はそれなりに裕福だったはずだ。
祖母が華道や書道の師範免許をもっており、英語の知識や「モダンな」嗜好があったのもうなずける。
 
でも、その新聞社に勤めていた祖母の父が早くして亡くなってしまった。祖母は7人兄弟の長女だったから、彼女が家を支えなければならなくなった。
そういうわけで、大黒柱を失った家族を支えるために、祖母は丸の内でタイピストをしていたのである。当然、結婚して、お嫁に行くわけにはいかない。
 
戦後、静岡に身を寄せていた祖母は、通っていた教会の牧師さんの紹介で、祖父と知り合う。インドネシアから帰還した祖父が、前妻の子を連れて、静岡の養護施設に勤めており、祖母と同じ教会に通っていたからだ。
 
そうして2人が結婚した後、祖母は養護施設で働く夫の仕事を助けるため、息子(私の父)を背負いながら勉強して、保育士の資格を取ったのだそうだ。
 
後に、栃木で施設を開いた祖父と祖母は、70歳を過ぎても、園長室で、机を隣に並べて、働き続けた。
 
祖父が亡くなった後も、祖母は80歳過ぎまで、施設に通い続けた。
 
そんな人生の苦労を、祖母は孫には微塵も見せない人だった。
 
唐揚げや焼き豚を作るのが上手で、「むつみ」の「むつ」だよと言って、むつの煮付けもよく作っていた。
 
お花をやり、お茶をやり、着物がよく似合い、字が綺麗で、祖母は私にとっては「優雅な」人でしかなかった。
 
でも、その優雅さの背景に、どれだけの苦労があったのだろうか?
 
1つの芋を見つけて、掘り出すと、つながっている芋が次から次へと出てくるように、人の人生の新たな事実も次から次へと出てくる。
たとえ、その人が亡くなった後だとしても。
 
私は、これからも、祖父母について、新たな事実を知り続けることになるのかもしれない。
 
死んだ後になって知ることだってあるのだから。
人のことを100%知ることなどできないのだ。
 
でも、だからこそ、人のことをもっと知りたいと思うし、より深く関わり合いたいと思う。
 
人の人生の芋掘りは、人が生きている間も、死んでからも続くのだ。
 
 
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2017-10-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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