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「まだ、やってたんだ」


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記事:桑波田卓(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「まだ、やってたんだ」
久しぶり会った知人はそう言った。
ああ、まただ。この台詞を聞くのはもう何度目か。
 
僕がフェンシングに出会ったのは中学一年生、入学直後のクラブ活動紹介のときだった。
運命の出会いとはこのことだったのだろう。
見たこともない動き。
キラキラと銀色に輝く剣。
それは12歳の僕の心をわしづかみにした。
僕が入部届を握りしめて顧問の先生のところへ行くまでさほど時間はかからなかった。
 
そこからいつでもフェンシングは僕のそばにいた。
中学から高校、大学、大学院と進学しても、
就職、結婚という大きなイベントを迎えても、
フェンシングだけは変わらずに僕のそばに居続けていた。
 
フェンシングはある意味僕の一部にもなっていた。自己紹介をしなければならないとき、フェンシングはそれといって何も特徴のない、凡庸な僕という人間を彩ってくれた。
「フェンシングの人」
いつの間にか僕はそのように多くの人に認識されるようになっていた。
 
「まだ、やってたんだ」
初めてそう言われたのは30代半ばくらいからだ。
大学のフェンシング部で同期だった友人の結婚式のとき、その友人からの一言だった。
彼は大学を卒業すると同時にフェンシングを辞めていた。
彼からすると大学を卒業してからフェンシングを続ける理由もないし、不思議に思うのも当然だった。だから僕もそのときは特別疑問も持たなかった。
 
しかし、それ以降
「まだ続けてたんだ」
「あ、今もやってるんですね」
という言葉をたびたび耳にするようになり、自分の中に疑問が浮かんで来た。
「まだ」ってどういうこと?
「今も」って何?
 
確かに野球選手やサッカー選手で30代後半で現役を続けている人は少ない。だいたいどこかで引退するものだ。そのようなイメージがあるのか、30代半ばまでにはスポーツというものは卒業しなければならないと思われているのかもしれない。
「いい歳して」
「何の役にも立たないのに」
「家族とか大丈夫なの?」
誰も口には出さないけれども「まだ、やってたんだ」の後にはそんな言葉が続いているのではないか。いつの間にか僕はフェンシングを続けていること自体が恥ずかしいことと思うようになっていた。
 
そんなある日のことだった。
「まだ、やってたんだ」
あれほど気にしていた台詞を吐いたのは他でもない僕であった。
東京ドームの近くにあるラクーアガーデンという場所でイベントをやっていた。その日来ていたのは「モーニング娘。’17」というアイドルだった。
 
モーニング娘。懐かしいなあ。昔すごく流行ったよね。でももう流行ってないよね。そんな思いがあったのだろう。いつも自分に向けられていた言葉がつい口をついて出てしまった。
そんな自分がちょっと恥ずかしかったのと、妙なシンパシーがあったのかもしれない。なにか彼女たちのことが気になってステージを見てみることにしてみた。
 
凄かった。
何もかもが凄かった。
全くブレない歌声、指先からつま先まで神経の行き届いたような流麗なダンス。
メンバーは昔と違っていたけれども、ずっと歌い踊り続けて歴史を重ねてきた、そんな自信に満ちあふれたステージだった。
あたかも彼女たちは僕に語りかけているかのようだった。
「『まだ、やってたんだ』って思ったでしょ? でも、私たち、どうでしたか?」と。
もちろん僕は心の中でこう返すしかなかった。
「かっこいいじゃん」
 
僕ははっとした。本当は「まだ、やっていたの」の後に「かっこいいじゃん」って思ってくれた人もいたのかもしれない。
「いい歳して」
「何の役にも立たないのに」
「家族とか大丈夫なの?」
それは誰でもない、僕が自分自身に向けて言っていただけではないだろうか。何かフェンシングを続けていることに対する自信のなさがあったから、そう思っていたのかもしれない。
 
彼女たちのように自身を持ってフェンシングを続けていく。
それは難しいことかもしれない。
でも、一つだけ決めていることがある。
この先また、「まだ、やってたんだ」と言われることがあるかもしれない。その時には自分自身にこう声をかけてあげるようにしてあげたい。
「でも、かっこいいじゃん」
 
 
***

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2017-10-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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