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メディアグランプリ

ランチタイムは暗黙の戦


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:中西かなえ(ライティング・ゼミ日曜日コース)

 
 
「ランチ、外に行く人~?」
12時。ランチタイムのスタートともに聞こえてくるかけ声だ。
「お弁当を持ってきているので、今日はちょっと・・・・・・・」
「12時半から、ミーティングがあるので」
「先約があるので、今日はすみません」
色々な理由をつけて断る人。
「はい! 行きますー!」
と、元気よく返事をする人。
「おごってくださいねー」
と、気軽にノッてくる人。
「行きます! もちろん、行きます」
と、両手をすり合わせてついていく人。
その一声を、“誰が”発するかで回りの反応が変わる。
人間模様が浮き彫りになる瞬間である。
 
今日、声を発したのはマネージャーになったばかりの男性社員だ。
「お弁当なので・・・・・・」
「私もお弁当・・・・・・」
女子社員たちは、一斉にお弁当箱を机の上に出して、行けないことをアピールする。
一名、電話をかけていた男の子の側にマネージャーが迫る。
終話と共に、声をかける。
「ランチ、行けるよね?」
距離が近いからか、迫力負けなのか、一瞬顔がこわばるものの「はい」と言って二人で出て行った。
 
休憩時間なのだから、自由にさせてもらいたいものだが、どこの会社でもどこの部門でも、何かしらのルールが存在する。
そういうルールがあるのは、一体いつの時代からなのだろうか。
ランチタイムを自由に過ごす権利を手に入れるためには、策略を練らねばならない。
そう。暗黙の戦が存在しているのである。
 
違う部署ではこんな話を聞いた。
定年退職後、雇用延長で残った部長代理がいる部門でのこと。
お弁当を持ってきているため、机でお弁当を広げようものなら、近くに来るように言われた挙句、レトルトのお味噌汁を持ってきたからと、その束を渡され、無言でお湯を入れてこいとう昭和的な強制を強いられる場合があるらしい。
また別の部署では、お局様がいるため、女子社員は強制的に会議室へ集合。
毎日、息子の自慢話ワンマンショーが繰り広げられているらしい。
そして、この部署では外食を強いられるため、逃げるためにはお弁当が必需品なのである。
 
「ランチタイムぐらい、なぜくつろげないのでしょうか?」
先輩に質問を投げかける。
「一人で、机で雑誌を読みながらなんて、この会社じゃ無理でしょ」
サラッと返事が返ってきた。
我々がとっている作戦は、近くの公園でお弁当を食べることである。
といっても、気候が良い時期で雨が降っていない時にしか実行できない。
 
「本当は、机で食べた後、寝ていたいんですよねー」
「まー、机にいたら仕事を言いつけられるのがオチだけど」
またもや先輩が本当のことを言葉として返してくる。
「昼休みって、お金出ないですよね? なんかおかしいです」
「まー、お金が出ないけれど、昼休みってある意味、ただ働きしなきゃいけない時間だね」
「どういうことですか?」
「今日の男の子くんのように、お付き合いしなきゃ出世はない」
「出世願望があれば、仕方ないんじゃないですか? 私は全く無いので関係ないですが」
「それが、関係あるんだな」
先輩が意味ありげに私の顔を見る。
「私たちってさ、誰からの誘いもあの手この手で逃げているでしょ?」
「あー、はい」
「このレベルになったら、誰も文句は言わないけれどね。でも不利でもある。私たちとは逆に、いつもくっついていく子いるでしょ?」
「あー、いますね」
人付き合いが良いのか、この部署に、誰からの誘いでも必ずついていく人がいる。
毎日外食で、よくお金が続くなと感心している。
「あの子、今度のプロジェクトリーダーに抜擢されるんだって」
「え? なせ? だってそのプロジェクトは先輩が……」
「そう。そういうこと。ランチタイムって、政治なのよ」
「それはおかしくないですか? 仕事は仕事じゃないとおかしいですよ」
先輩は遠くを見ながら、声を強めて言った。
「こそこそ裏工作するような子には、負けないから」
 
一か月後。
いつも外食について行っていた子が、お弁当を持ってくるようになった。
理由を聞いたところ、健康のためだという。
果たしてそうなのだろうか?
そんな疑問が浮かぶ。
 
「先輩。あの子、何かあったんでしょうか?」
公園で先輩と二人、お弁当を広げながら話しかけてみる。
「さー? 何かあったからお弁当を持ってきているんじゃない?」
興味なさげな返答がかえってきた。
「前から聞こうと思っていたのですが、なぜお弁当を持ってきているのですか?」
当然、嫌な人と外食するのを避けるためという回答を予想しながら聞いてみた。
「食べ過ぎないため」
意外な答えだった。
「え? ダイエットのためですか?」
「違う違う。外食って、量が多いでしょ? 食べ過ぎるじゃん」
「まあそうですが」
「食べ過ぎるとね、眠くなるし、胃に血が取られて、午後から頭に血が足りなくなるでしょ?」
「はあ……。」
「午後からの時間を、ランチのために無駄にすると人生の1/3は無駄にするのと一緒だと思うわけ。だから、適量のお弁当にしているの」
 
先輩は、人間関係や出世よりも、自分の時間を攻略するために、暗黙の戦をしているのであった。
その姿は、同性としてカッコいいと思った。
 
 
***

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2017-10-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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