メディアグランプリ

その営業マンは日本武道館を目指して


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:遠山 涼(ライティング・ゼミ書塾)

 
 
開演まで、あと1分。
ステージ裏でペットボトルの水を一口飲んで、なるべく心を落ち着ける。
もう何度目のライブだろう。ステージの幕の向こうから、1万人を超える観客たちの気配が伝わってくる。
照明が落とされて、歓声が一斉に上がる。
さあ、いこう。今日も最高のライブにしよう。
 
そんな世界に憧れていたのに、いまの僕は、とこにでもいるスーツの営業マン。
なかなか売れない商品を買ってもらうために、営業トークを喋りまくり、見栄を張って自分を大きく見せて、何かの拍子に信頼が失われれば必死に頭を下げる。そんな繰り返しが毎日毎日毎日毎日続く。
決して商品が売れず、仕事が全くできない訳じゃないけれど、何のためにこの仕事をしているのか、時々わからなくなる。こんな仕事が、誰かの役に立ったりするのだろうか?
世間でよく言われる「ブラック」とか「社畜」とか、そんな言葉はあまり気にしないようにしている。
 
ある日僕は思い切って、そんな仕事漬けの日々に、小さなパンチを一発食らわせてやった。
有給を取ったのだ。
一日丸ごとの休みは取れなかったが、半日分の休みを勝ち取った。
 
当日。九段下駅で降りた僕は、興奮していた。
僕は僕の愛しているミュージシャンのライブコンサートに向かっている。
開演は18時30分。もしも有給を取れていなかったら、たとえ奇跡が起きて定時に会社を出られたとしても、きっと間に合わなかっだろう。それだけは避けたかった。もちろんチケットがあれば途中からでも入れるが、そのライブを初めから見られないのは、僕にはどうしても許せなかった。
 
ライブが始まる。
暗転したステージ上に、スポットライトに照らされた彼が登場する。
そこからは怒涛の時間だった。アリーナから3階席まで、武道館に集まった1万人の観客全員を魅了するパフォーマンス。
圧巻だった。
日頃のストレスや仕事の辛さに弱りきっていた僕は、その音楽を全身に浴びて、みるみるうちに元気を取り戻していった。
そんな中で、ふと疑問が頭に浮かんだ。
どうしたら、ステージに立つ彼のようになれるのだろうか?
 
1万人の視線を一身に受けて、不安げな様子を少しも見せず、堂々とステージに立つ。
そのパフォーマンスによって、観客たちの心を震わせ、大いに感動させる。
そんなことが、僕にもできるようになったらいい。
子どもじみてはいるけど、そんな思いが心の底から湧き上がってきた。
 
ライブが終わり、帰宅する電車で見る風景は、いつも通りの日常そのものだった。
夢のような時間は夢のように過ぎた。しかし、まだ未練が残っている。
僕はただの冴えない営業マンだけど、彼のように人を楽しませたり喜ばせたり、感動させることができやしないだろうか? 1万人とは言わないまでも、そんなようなことができないだろうか? その思いが、自宅に着いてもまだ頭から離れなかった。
 
明日、僕が武道館に立つことはないけど、営業マンにとっては毎日の商談がライブのステージだと言えるかもしれない。
ものは考えようで、高いパフォーマンスが求められるのは、ミュージシャンも営業マンも同じだ。
 
ミュージシャンはその音楽やパフォーマンスで人を感動させる。営業マンは人を感動させることは無いかと言えば、そうとも言い切れない。
優れた営業マンは、相手との距離を縮めるのが上手い。それによって信頼を得て、説得力のある提案ができる状況を作って、取引を成約させる。
もちろん商材の魅力や、相手の状況にもよるのだが、相手の心をつかんで動かす力を持っている営業マンは、自社にとっても相手にとっても大きな魅力になる。
 
そんな営業マンになるためには、まるでミュージシャンがステージに上がって観客の視線を受ける時のように、外見や言動に注意を払い、最高のものに仕上げる必要がある。事前にリハーサルを重ねて、万全の準備を整えて、やっと初めて最高のライブパフォーマンスが生み出される。
 
ミュージシャンがステージに立つように、営業マンは商談の場に立つ。そこで最高のパフォーマンスを見せる。きっと日ごろの苦労や辛い経験も、そこで役に立つはずだ。
さっきのライブで、彼も言っていた。
「最初のステージは小さなライブハウスだった」
「20年かけて、武道館をいっぱいにすることができた」
1万人を魅了するその圧倒的なパフォーマンスは、彼が20年という時間を費やしたことで、ようやく実現された。
その20年間は、決して輝かしい場面ばかりではなかっただろう。
きっと彼も、厳しい批判を受けて落ち込むこともある。僕が取引先から白い目で見られるよりも、きっと何倍も厳しい目で、厳しい評価を下されて辛い気持ちになったことも、過去にはあったはずだ。
彼がライブに向けて新曲を作ったり、レコーディングスタジオに籠ったりするように、営業マンはプレゼンの準備や様々な根回しや調整ごとに頭を悩ませる。
最高のパフォーマンスを目指すという意味では、営業もミュージシャンも一緒だ。
 
観客の心を揺さぶって感動させるように、多くの人の心を満たすような営業マンになれたらいい。いつの間にか僕はそんな風に考えていた。
 
しかし、そのためにはまず、商談相手1人を満足させることができなければいけない。
目の前のたった1人の相手も満足させられなければ、武道館を埋め尽くす1万人の気持ちを動かすことなんてできるはずがない。
「千里の道も一歩から」というように、僕はまず、目の前の仕事に一生懸命取り組むことから始めよう。
その大変さや辛さに流されるのではなく、時には流れに逆らって、あのステージを目指すんだ。
 
そのために働こう。
月曜日から金曜日まで毎日続く仕事漬けの日々は、とてもハードだ。
だって土日以外、毎日ライブをやるようなものだ。そんなことをやるミュージシャンは、おそらくいない。
 
だから僕は、最高のライブをするために、営業の仕事を頑張ろうと思った。
 
約束の商談の時間まで、あと1分。
オフィスの前でペットボトルの水を一口飲んで、なるべく心を落ち着ける。
もう何度目の商談だろう。エントランスの奥からは、商談の機会をくれた相手の気配が伝わってくる。
受付に向かい、僕は自分の会社名と名前を告げる。
さあ、いこう。最高のライブにしよう。
 
 
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2017-10-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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