プロフェッショナル・ゼミ

ソーシャルゲームは「見る、行く、買う」《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:中村 響(プロフェッショナル・ゼミ)※この物語はフィクションです。

「さあてと、今日もやりますかね」
私はパソコンの電源を付ける。
日本海軍をモチーフにしたこのソーシャルゲームにハマって、
早3年が経つ。
艦船が擬人化された美少女育成ゲームなのだが、
このゲームを通じて私の世界は広がった。
ハマる以前の3倍くらい。
人間としての幅が広がったような気さえした。
キーワードは「見る、行く、買う」だ。
面白いのはこのゲームは現実世界のように、難易度が設定されていることだ。
「響、まだ始めないのかよ」
このゲームを始めたきっかけは友人からの勧めだった。
彼は1年の時からずっと同じ部活で活動している。
結構なミリタリーオタクで、このゲームを始めるのも早かった。
「卒論書き切ったらやるよ」
大学の最終年次で忙しかったこともあり、始めるのを後回しにしていた。
当時は登録の順番待ちが発生するほどだったため手続きも煩雑だったのだ。
そのため丁度アニメ化のタイミングと重なった。
後に物議を醸すことになるアニメ化と、
私のソーシャルゲームデビューは同じ時期となった。
私のソーシャルゲームは「見る」から始まった。
ただソーシャルゲームの世界に入るよりも、
メディアミックスを介して入った方が楽しみは倍増する。
凡庸な始まりを大きく変えてくれるのだ。
「ようやく、スタート出来た」
私はげんなりしながら、パソコンから顔を上げる。
まー面倒くさい。
このゲームは今大人気だ。
そのためユーザー受け入れ態勢が整わず、
順番待ちになっている。
いつ来るとも分からない新規サーバー解放の連絡を待たなければならなかった。
身勝手なのは分かるが、早く始めたい。
こちらはようやく卒業論文を書き終わり、時間が出来たのだ。
イライラが募る。
そんなある日、久しぶりに同期と話している時のこと。
「なあ、そういえばあれ、アニメ化するんだよな」
さらりと同期は言う。
「え?マジ?」
「いや知らなかったのかよ」
卒論で徹夜続きの人間に良く言ったと思ったがまあ良い。
「それに合わせて新規サーバー解放らしいで。抽選頑張れよ」
そうだアニメ化はもちろん嬉しい。
しかし、問題はちゃんとゲームが始められるかだ。
ちょうど年明けだし、初詣でで当選祈願をしてこようと思った。
そして運命の日。
アニメの開始と同時に新規サーバー当選者が発表される。
「よっしゃあああああああああああああああああ」
結果は当選。
ゲーム開始の画面が映る。
部屋のTVにはアニメが映り、
オープニングテーマがオーバーラップする。
「抜錨!!!!!!!!!(船が錨を上げて出港すること)」と。
ゲーム開始から1ヶ月後。
多少は攻略も進んできた。
ちょうどそのころに「彼女」に出会った。
「めっちゃ優しい。レベリング(レベル上げのこと)頑張ろう」
ゲームでのお気に入りのキャラクターをネットスラングで「嫁」と表現する。
ゲームを始めたばかりの貧相な艦隊でも、良い艦隊と言ってくれる彼女は
天使のように見えた。
比喩ではない。
ユーザーの間では天使と大真面目に呼ばれている。
大学生の残り少ない期間で出来る限り、レベルを上げなければ。
そのことを同期に話すと彼はニンマリしてこう言った。
「これでお前も、立派な提督(ゲームユーザーのこと)やな」と。
何事もそうだが、自分のお気に入りを見つけることは、
技芸上達のコツの一つである。
ソーシャルゲームだってそのことは変わらない。
好きなキャラクターが出来ると加速度的に上達する。
愛する嫁を撃沈されてなるものかと努力するわけである。
そんなわけで私はこのゲームに頭の先まで漬かることになる。
このゲームは現実の歴史をかなり正確に反映しているゲームだ。
となれば実際に現場に行って見てみたくなるのが人情である。
そうして私は「聖地巡礼」にも手を出すことになる。
「聖地巡礼なんてよう行くわ」
このゲームを始める2年ほど前。
私は先輩の旅行の土産話を聞きながらそう思っていた。
聖地巡礼とはアニメやゲームの舞台になった土地を旅行することを言う。
先輩方はワゴンを借りて、
滋賀から和歌山まで聖地巡礼しながら関西を縦断したらしい。
正直私はどこかに出かけるのは好きではない。
根っからのインドア派である。
このゲームは「行く」という面からも私を変えた。
なにせ、真夏の炎天下でも進んで外出するほどになるのだから。
「お前、卒業旅行どうするんだ?」
私はふと同期に尋ねられた。
そういえば何も考えていなかった。
わけあって卒業旅行は1人で行くことになる。
別段考えもなかったが、ふと今ハマっているソーシャルゲームを思い出す。
日本海軍がモチーフになっていて、縁の地も多い。
なんせ第2次大戦前までこの国は世界2位の海軍大国だったのだ。
どうせならこの機会にしか行けない場所にしよう。
「とりあえず呉に行こうと思う」
そう同期には答えた。
「というわけで途中の宿はよろしく」
同期は大阪に住んでいるため途中に寄ることになった。
そして、旅行当日。
「よーす。お疲れ」
私は新大阪で彼と落合い、彼の家に向かう。
しばらく見ない間にやつれている。
「もう大学に戻りたくなったんだけど」
いくら何でも早すぎるだろう。
「しかし、呉か。出不精のお前が良く遠出するな」
付き合いが長いだけあってよくわかっている。
「まあ、見たいものがあるからな」
そう。
私にはどうしても見たいものがあって呉を選んだ。
単に遠いだけならなら佐世保や大湊もあるからだ。
「で、そちらの仕事は順調かね」と聞くと
「もはやこのゲームが元気の指標ですわ」と不吉な答えが返ってきた。
このゲームをやっていると艦隊を動かすための資源を得るため、
毎日のルーティンワークが発生する。
それをやる元気があるかどうかで自分の消耗具合が分かるという。
この時はまさかと思ったが、後に本当であることを私は知ることになる。
大阪では二人でゲーム談議に花が咲いた。
こうやって共通の趣味について語り合えるのも、
ソーシャルゲームの魅力の一つだ。
他の趣味に比べて、各々の目標を達成するために頑張る「同志」という面が
色濃く出るように思う。
そんな話を深夜までし、翌日の早朝に私は呉に向けて出発した。
「海が近い」
呉に着いての第一印象だった。
さすが海軍の要衝である、駅から降りたらすぐに海がある。
潮風に当たりながら、ホテルに行く。
部屋に着くと荷物を整理してすぐに目的地に向かった。
この日は自衛隊の基地開放日である。
数か月に一度のペースで自衛隊の基地を開放して見学してもらうことで、
市民の理解を得ているのだ。
「おお、ここか」
今回の目的の一つがこの基地である。
この基地は赤レンガで建物が出来ており、アニメ内の本拠地のモデルなのだ。
「ホントにそっくりだ」
本物はこちらだが。
アニメで観た建物が実際目の前にあるのは感慨深いものがあった。
ここで主人公たち話してたんだよな。
案内のついたツアーが始まる。
元になった海軍の歴史とゲームの知識をリンクさせつつ、
案内ガイドの話を聞く。
参加している人の中には私と同年代と思える人も多くいた。
皆真剣に話を聞いている。
「俺の嫁について深く知れてよかった」
そう話しながら連れ立って歩くグループもあった。
その日は他に地元の海軍博物館の見学や、
艦艇の体験乗船をして一日を終えた。
これらの施設は17:00に全て閉館してしまうため、
訪問の際はご注意を。
翌日は朝早くに港に向かう。
港から15分程フェリーを乗ったところに江田島という島がある。
この島には現役の海上自衛隊の学校があり、ここが今回の旅の一番の目的である。
ここでの案内ツアーもとても良いものだった。
「あの船の舵輪(船を操作するために回すハンドル)ここにあったの?」や
「これがあの船の主砲なの!?」と言ったような言葉が聞こえてくる。
昨日、顔を見かけたゲームユーザーと思しき人たちも同じように展示品を見ていた。
案内ツアーの参加者にはご年配の方もいらっしゃったが、
私たちが驚いていたり感心したりする様子を、
穏やかに見ていてくれた。
私はこの光景が嬉しかった。
聖地巡礼の際に問題になるのが、訪問者のマナーだ。
私自身も気を付けてはいるが、
このゲームはモチーフがモチーフなだけあり、
いつ人を傷つけるか分からない。
しかし、今回の旅ではトラブルは起こらなかった。
安全に旅を終えることが出来て何よりだった。
そして、帰り際に海軍学校の門から山を見上げる。
少し小高い山がこの江田島にある。
海軍学校のランニングにも使われるらしい。
この山の名前は古鷹山。
一番好きなキャラの名前の由来になった山だ。
海軍の船は河川や山地の名前が由来になっているものが多い。
彼女もまたその一人である。
卒業前にどうしても見たかったのだ。
此処まで来るのは大変で、次にいつ来ることが出来るか分からない。
頭の先までどっぷりハマれたことに感謝しつつ、
私はこの島を後にした。
呉から戻った直後に私は大学を卒業し、就職のため上京。
上京しても熱は冷めず、
同期だけでなく後輩まで巻き込んで各地を転戦した。
横須賀や舞鶴、ある意味戦場の有明海方面などである。
このゲームに浸っていると色々と「買う」ものが増える。
別に買わなくても死にはしない。
生命の維持には何ら必要ではないのだから。
だが偉い神様だって言っている。
「人はパンのみに生きるのではない」と。
仕事でつまらない日々の生活に潤いを与えてくれるものが、
このゲームなのだ。
それを「買う」ことは全てを解決してくれるのだから。
「お疲れでーす。もう秋イベ勝てる気がしないんですけど」
私は相も変わらず、同期とラインで愚痴っていた。
就職して1年半が経った。
割と就労環境がブラックなこともあり、
私にとってもゲームをすることが元気のバロメーターになっていた。
「過重労働しながら、イベントクリアはきついです」
そうぼやきつつ、パソコンを付ける。
季節は秋も深まる11月。
秋のイベントの真っ最中である。
大抵のソーシャルゲームは季節や何かの折には特殊なイベントが
ゲーム上で開催される。
何せユーザーに飽きられたら会社が傾く世界である。
私のやっているゲームは大体3カ月に1回のペースでイベントがある。
特別なステージが解放され、限定キャラや珍しい装備を手に入れるチャンスである。
気の置けない友人たちと議論しつつ、
攻略を進めるのは何よりも楽しかった。
しかし、この時ほど友人たちと私の間にある溝を感じる時はない。
「残りの資源がかなり少ない。どうすりゃいいんだ」
そう「持てる者」と「持たざる者」の違いである。
このゲーム、キャラを動かすために資源が必要なのだ。
元々艦船なのだから当たり前なのだが、逼迫具合が無駄にリアルなのだ。
日本は元々資源がない、そしてそれが戦争の元凶である。
艦隊を指揮すると分かる。
なんでこんなに精神状態が悪くなるんだろうか。

例えるならば給料日前の金欠状態が、
イベント中ずっと続いているようなものである。
同期たちは大学時代の暇な時期にこのゲームを始めた。
その時の備蓄が社会人になると大きく効いてくる。
勿論資源の回復を早める策はある。
しかし、運に頼るか、かなりの労力をつぎ込まなければならない。
そのため簡単には補給の効率を上げることはできない。
効率を考えると重要なところに制限が掛かるのだ。
この絶妙な難易度調整がこのゲームの上手いところだとも思う。
そして、この違いを私はさらに痛感することになる。
「よおし、次で最終ボスだ」
ようやくラスボスまでたどり着いた。
今回のイベントはとある科学実験がモチーフになっている作戦である。
ラスボスも今もなお海中に眠る船をモデルに描かれている。
このゲームのユーザーなら少なからず感じることがあるだろう。
しかも、ゲーム開始以来初のイベントクリアが掛かっていた。
残り少ない資源だが、全力をぶつける。
「くそ、最後まで倒しきれん」
かなりの回数試したが、最後の一撃が通らない。
今迄の消耗が激しすぎる。
ボスに痛打を与えられるキャラはこちらには1人だけ。
その条件が厳しすぎた。
もう1人キャラがいるか、
資源があれば、遠からずクリアできる状態である。
「また別の編成を考えるか、アレ?」
私は目を疑った。
資源0
このゲームを始めて早2年。
久しぶりに見た数字である。
この状況を打開するために、私はクレジットに手を伸ばした。
そして、資源を買った。
ただのデータに金をかけるのかと言っていた時期が私にもありました。
勝利が目前の今、そんなことを言っていられるか!!!!!
金で勝利を買ってやる!!!!
1万円程突っ込み再出撃。

「くっそおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
やはり最後の攻撃が通らない。
結論を言うと海域突破は出来なかった。
資源とお金の枯渇はあまりに厚い壁だった。
「よう、イベントどうだった?」
同期がラインを送ってくる。
「燃え尽きたわ、資源も資金もな」
「そうか、お疲れ」
そう言って同期は労ってくれた。
結局イベントの初クリアは翌年の春まで持ち越しになる。
さすがに反省して、
以後は無茶をして資金を突っ込むことは無くなった。
しかし、その間にも何かしら「買って」いる。
映画だって見に行ったし、雑誌だって買う。
コンビニとのコラボがあれば対象商品である栄養ドリンクを箱買いした。
だが、それでも楽しいのがこのゲームである。
「見る、行く、買う」
この3つで楽しめて、私は満足している。
そろそろ、次のイベントがやってくる。
皆さんもお財布と相談しながら、ぜひソーシャルゲームを楽しんでみて下さい。

***

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