メディアグランプリ

直島は心臓だ


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記事:みなくちれいこ(ライティング・ゼミ平日コース)

直島に一歩踏み入れた時、体がふわっと浮くような変な感覚に襲われた。
空から天使が舞い降りてきて、そっと私の体を持ち上げた。それに加えて、全身が透明になって、体内から虹色の水が噴水のように一斉に湧き出て、あっという間に私をカラフルな色に染めた。直島についた瞬間、私はもう私ではなくなっていた。

直島に到着する約3時間前、私は羽田空港でパソコンを広げた抜け殻になっていた。夏休みの課題が全然進まないのだ。提出期限はとっくのとうの二週間前、焦っているのに全然進まない。この旅行までに課題を終わらして、全力で楽しもうと思ってた。パソコンは重いし、家に置いて来たかった。旅行直前、何時間もパソコンと向き合ったのに終わらなかった。諦めてはいけないとパソコンを広げて向き合うも、視界はぼやけ、文字が追えなくなり、私は抜け殻になってしまっていた。

「JAL232便、岡山空港行き——」

空港のアナウンスが流れる。
少しも進まなかったパソコンを閉じ、いそいそと搭乗口に向かう。

快適な空の旅の間は死んだように寝てしまって、気がついたら岡山空港に到着。前日の徹夜が残っていたようだ。寝ぼけたまま、岡山空港から岡山港までバスで移動し(またもそこで爆睡)、岡山港から直島の玄関口である宮浦港までフェリーで揺られた。

そのまま海に沈んで魚に食べられてもおかしくない状態だった。
宮浦港に一歩踏み入れた瞬間、私の内側から生のエネルギーが溢れんばかりと湧いてきた。

待っていた風景は「青」だった。
高く澄み渡った青い空と、濃い塩の香りを漂わせる深い青い海、小さな建物や森は海の色が反射してなのか、すべて青みがかかって見えた。

青い景色に感動し動けないでいると、なにやら歯の白いおじいさんが手を振っていた。
「長旅お疲れ様ね。宿まで送っちゃるよ」
予約していたゲストハウスの方だった。助手席にお邪魔させていただこうと思ったが、そこには先約がいらっしゃった。奥さんだった。
「よおきたんね。東京からきたの?」
「そ、そうなんです…」
長らくパソコンとしか会話していなかった私は、しどろもどろ答える。
「ゆっくりしていってな」
ああ、美しい。なんて美しいんだろう。歯も何本か抜けてなくなっていて、髪も白髪混じりで、年齢を感じさせる皺もあったが、私はこのおばあさんを心から美しいと感じた。なんの変哲もないただの旅行客に、話掛け、気遣い、笑顔を見せてくれる。そして、わざわざ旅行客の迎えに、夫婦二人で家を出てくれる、そんな心遣いに心を締め付けられた。

宿に到着する頃、涙をこらえる事に必死だった。
おじさんが運転する軽自動車は、軽快に海沿いを走った。なにやら街のゴミ拾いをするおじいさん集団がいた。
運転手のおじさんは、ゆっくりとスピードを落とし、自動車の窓を開けた。

「よお、なにしとん?」
「ゴミ拾いだ」
「よお、やるのお。そっちこそなにしとん?」
「こいつを岡山の病院に連れてったあと、宮浦までいってきた」
「やさしいのお」
「お前にいわれたかねえよ」

このほんの少しの会話から、私は大きな愛を感じた。
東京にいたら、絶対に車をとめて脇に歩いている人に話しかけるなんてしない。しかも、旅行客を後ろに乗せている状態で、お互いを弄り合うなんてしない。直島ではこれが許される。
東京にいたら、病院なんてすぐ行ける。けど、ここは直島だ。病院に行くには、海をわたって岡山までいくしかないのだ。夫婦で、一緒に。
この愛感動して、涙が流れそうになったが、必死にこらえた。

愛に満ちた夫婦が経営するゲストハウスに一泊し次の日、自転車を借りて島を一周することにした。直島は、瀬戸内海に浮かぶ小さな島だ。人口は約三千人。1時間半もあれば自転車で一周できてしまう。

「直島は日本人の心臓だ」
と自電車をこぎながら思った。

昨日いただいた、宿の晩ご飯はすべて直島でとれた魚・野菜を使用して作られたものだった。すべて直島産の素材という点を除いてなんの変哲もない和食だった。けれど、宿のご夫婦と一緒にいただいた食事は、あったかくて美味しくて素朴だった。和の気遣いと愛が詰まったご飯だった。
直島には美術館がたくさんあった。現代的なもの、海外アーティストのもの、巨大なカラフルなかぼちゃ、新しいものがあった。その隣には、風情を感じさせる木造の住宅があった。
外国人観光客もいた。けれど、全然浮いていなかった。なぜなら直島の人が片言の英語を使って話しかけているからだった。直島の空気に一緒に染めていたのだ。

直島は、大事にすべき日本を教えてくれた。
グローバル化が進行し、外国との連絡も当たり前に行える。
これからは、日本は日本人だけで構成してはいられない。もちろん自然と、海外と連携して日本を構築していく。
それを直島は実際に実現していたと思う。

死にそうになったら、人の愛が感じられなくなったら、ぜひ直島に行ってみてほしい。
生きる力がわいてくるはずだ。

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2017-10-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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