メディアグランプリ

文章を育てるということ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:田中健太(ライティング・ゼミ 平日コース)
 
 
研究を行っていく中で、先生から「この文章のここを修正してください」と指摘されることは日常茶飯事だ。
「はい、修正いたしました」と慣れた手つきで返信する。
「前後で論理関係がおかしくなっていませんか?」と指摘が入る。
あれ、先生の意見、前言っていたことと何か違う。なんで違うことを言うのかな。
そんな違和感を感じつつも指摘通りきちんと修正して再提出する。
「この部分を修正してください」
また違う意見だよ、ちょっと理不尽じゃないかな……。うーん、だんだんイライラしてきた。
 
少し前まで先生とのメールのやり取りは私をイライラさせるものでしかなかった。
ある文章の修正が終わったと思ったら同じ箇所の修正。以前言われたことを忠実に守って修正をしているにも関わらず、修正の回数のみがどんどん重なっていく。はじめの頃は「自分の読解力や表現力が足りないからだ」とか「論理的におかしい点があったからだ」と自分を納得させていた。しかし回数が重なりに重なり、修正の連絡も数百回を超えたくらいから「文章の中の気に入らない点を見つけては責めてきているのではないか?」と先生の人格的な面を疑い出すようになってしまった。
 
そこから徐々に先生との関係は悪化していった。実際に会って話すときも、メールでのやりとりでも、何か意見があるたびに「ああ、またこの先生は指摘してきたよ。嫌な人だなぁ」という負の感情を抱いてしまっていた。気に入らないところがあると指摘ばかりする人、というレッテルを勝手に貼り付けてしまっていた。
 
こんな状況で研究がうまくいくわけがなかった。
ある1つのタスクを片付けようとする。作業中に少し分からないところが出てきた。先生に連絡を取って確認すればすぐに解決するが、嫌味を言われると思い込んでいるため連絡したくない。なんとか自分だけで解決して報告する。もちろん以前打ち合わせた内容と違ってくるので、先生はその点を指摘してくる。「また指摘された」と負の感情を抱く。こんなことを繰り返し続けて、どんどん精神的にすり減っていった。
徐々に修正されることに恐怖を覚えている自分がいた。その歪みはどんどん大きくなってき、自分の芯になっている部分すら否定されているような感覚に陥る。それならいっそ自分を隠して生きたほうがマシだと思うようになった。
 
そうして先生との関係はさらに悪化した。僕は言われたことを忠実に再現して自分の意見を言わない、機械のようになってしまっていた。研究者としては、自分で考えることを放棄した時点で、その楽しみを90%以上奪われていると言っても過言ではない。それくらい日々の研究に楽しさを見いだせずにふさぎ込んでいた。自分を閉ざせば閉ざすほど、作業ペースがどんどん遅れていく。自分の意見を言わない僕に対して、先生は不満を募らせていった。
 
ある日、張り詰めていた糸がぷつんと切れたように先生の怒りが僕へ向かってきた。
些細な情報伝達のミスが原因ではあったが、日々の鬱積があった分、怒涛の勢いで感情をぶつけられた。
心の芯がポキっと折れた。僕は完全に打ち負かされてしまった。あまりの出来事に何も言えなくなってしまった。
家に帰ると僕の不満が爆発した。両手で頭をかきむしりながら、なんとか怒りを収めようと努力するが上手く行かない。ただ時間が経つのを待った。深く深呼吸をして、少し落ち着いてきたところで考えた。
 
「どうしてこんなことになってしまったのだろう?」
 
その答えを教えてくれたのがこのライティングゼミだった。
僕は先生が修正した文章に対して、先生という人物そのものを映し出してしまっていた。文章からその人の性格を判断してしまうという恐ろしいことをしてしまっていた。このライティングゼミを通じて、僕は自分が書いた文章や他の方々が書いた文章を冷静に見る機会が増えた。毎週1回記事を投稿して掲載の可否を問われるこの環境で、強く感じた。
「書き出された文章は一度手元から離れた時点で、自分の一部ではなくなる」
苦心して書いた文章はまぎれもなく自分が産んだ子供のようなものであることは間違いない。けれど子供と生み出した当人の性格が違うのは当たり前の話だ。
 
毎週文章を書くことを通じて「子供は可愛がって育ててあげないといけないな」と思えるようになってからは、心がどこか楽になった。
先生は僕が頑張って生み出した子供を、必死になって育てる手伝いをしてくれていたのだ。子供は一人で育てるものじゃなくて周囲の人が協力して育ててくれるものだとよく言うけれど、論文のための文章も一緒だなと今なら思える。
 
さあ、今日も頑張って論文を書こう。
いつの日か立派な姿になって皆に認めてもらえる日が来るその日まで。
 
 
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2017-10-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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