メディアグランプリ

天国に逝った天ぷら屋のおじさんが教えてくれたこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:松尾えりこ(ライティング・ゼミ 平日コース)
 
 
先週Facebookで、学生時代に通った天ぷら屋「いもや」が閉店することを知りました。
「いもや」は無口で仏頂面のおじさんと江戸っ子で明るいおばさんのご夫婦二人だけで切り盛りしているお店でした。先月、おじさんがなくなったので閉店せざるを得なくなった、と言う事実を知ってすごく気分が沈みました。通ったと言っても、もう30年前の話なのに、なぜこんなに悲しい気分が続くのだろうと不思議な気持ちになりながら。
お店のおじさんとおばさんのやりとり。一緒に通った先輩や仲間との会話。おばさんに叱られて、そそくさと店を出て行く学生たち。全てが鮮明に記憶に残っていて、走馬灯のようにその光景が流れ続け止まりませんでした。その日は仕事に身が入りませんでした。
今から30年前に通っていた大学から歩いて数分のところにあった「いもや」はカウンターのみの小さいお店で、おじさんが注文後に揚げてくれるあつあつの天ぷら、そしておばさんが作る美味しいお味噌汁と炊きたてごはんが最高の天ぷら屋さんでした。600円の天ぷら定食は、学生には贅沢な値段ではありましたが、それでも「いもや」の天ぷらが食べたくて、在学中の4年間、月1回は通っていたと思います。
「いもや」に初めて来店した学生が、揚がった天ぷらをすぐに食べない時、食べ終わった後もしばらくお店を出ずにしゃべっている時、ああ、そろそろおばさんの雷が落ちる!と思った瞬間、案の定、雷が落ちたものでした。
マナー違反の学生達をビシッと叱ってくれるおばさんは格好良く、見ていて爽快でした。
でも、おばさんは基本的には楽しく明るくお茶目な女性でした。私が最初にお店に行ったのは大学1年生の時。所属していたクラブの先輩が連れて行ってくれたのですが、おばさんはその先輩と行くといつも満面の笑顔で迎えてくれました。今思うと、おばさんはイケメン好きだったのですね。そんなことを思い出して、また寂しさがこみ上げてきました。一人でも食べに行くようになった時、箸やお茶碗の持ち方が違うよ、と注意してくれたことも思い出しました。おばさんは私に、大人として恥ずかしくない食事のマナーを教えたかったのでしょう。
「今日も美味しかったです。ご馳走様でした」とお会計の時に伝えると、普段は天ぷらを揚げることに集中して背をむけたままのおじさんが振り返ってくれることがありました。おじさんはいつも仏頂面でしたが、たまに見せる、奇跡に近い笑顔を見た時はすごくうれしい気分になったものです。私はおじさんから、御礼の気持ちを伝えることの心地よさを教えてもらったのかもしれません。
「いもや」の閉店とおじさんの死を知り、次から次へと頭に浮かぶ思い出の数々。そして私は、やっと気付いたのです。おじさんとおばさんは私達学生にとって、時には叱り、時には笑顔で迎え、いつも愛情たっぷりに見守ってくれていた貴重な存在だったのです。
大学を卒業して25年が経ち、家庭では思春期の子供を持ち、職場では一回り、下手すると二回り以上歳の離れた若いメンバーを持つ年代になりました。叱るより、叱らないほうがよっぽど楽であることもわかってきました。
今の世の中、叱ることも叱られることも少なくなり、自分の子供すら叱れなくなっている時代とも言えます。会社で部下や後輩を叱ると、パワハラだと言われてしまうから怖くて叱れない、と嘆く管理職も増え、また小学校や中学校でも、いわゆるモンスターペアレントが怖くて先生が生徒を叱らなくなっています。
でも、ビシッと言われないとわからないこと、気づけないことが本当はたくさんあるのです。「いもや」のおじさんとおばさんは、私にこんな大切なことを学生時代に教えてくれていたことに気づきました。そう思ったら感謝で泣けてきました。
最近の私は「叱るのは面倒くさいから褒めて育てよう」と怒ることから逃げていた気がします。でも、もしかするとそれは愛情が足りない証拠だったのかもしれません。
思いがけず気づかせてもらえたことを無駄にしない。それがおじさんとおばさんに恩返しする唯一の方法。私は決めました。若者達には煙たがられるかもしれないけど、きっと彼らもいつか感謝してくれる日が来るはずと信じて、明日から勇気を持って必要な時はちゃんと叱ることにしよう。でもおばさんと同じく、いつも笑顔を絶やさない、場を明るくするお茶目なオバサンを目指していこう。
おじさん、本当にありがとう。天国でも美味しい天ぷらを作り続けてください。そして奇跡の笑顔で下界の私たちを見守っていてくださいね。
 
 
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2017-10-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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