メディアグランプリ

何もないあの場所で、僕はプロポーズをしてみたい


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:永井聖司(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
あんな所で、プロポーズが出来たら最高だろうな。なんて、瀬戸内海を行く小型船の中で、僕は考えていた。
ベタに、ポケットから指輪の入った小箱を取り出して、相手に向けてパカッと開く。あの空間では、その音すら随分響くだろう。
基本的に声を出してはいけないので、一緒にプロポーズの言葉を伝えることは出来ないけれど、そんなやり方は、どうだろう。
 
生まれて初めて、でも大真面目に、僕はそんな妄想をした。
相手もいないのに。
男の一人旅中にこんなことを考えるなんて、随分イタイやつだ。その自覚はあったけれど、浮かんできてしまったものは仕方がない。
 
振り返れば、先程までいた島はもう随分と遠くなって、雨のせいで、姿も随分とぼやけてしまった。
豊島。
岡山駅から宇野港まで、バスで1時間弱。そこからまた船に乗って約40分、更に電動のレンタサイクルで疾走して山を越えた約30分。決して楽な旅ではなかった。それでも、本当に来てよかったと思えた。
 
 
「館内は土足厳禁となっておりますので、靴を脱いでお入りください。また、お静かにお願いします」
「それと、足元に小さな作品がございますので、気をつけてお進みください」
美術館の男性スタッフが優しい声で案内してくれる先には、小さな入口があった。かがまないとぶつかってしまうのではないかと思うぐらいで、少しドキドキしながら、中へと入る。
白い壁に、白い床。横倒しになった卵の内側に入ってしまったような、そんな空間だった。湾曲する天井は、最初は少し違和感を覚えるのだけれど、不思議とその内に、落ち着いてくる。その卵の内側には、僕以外に、10人に満たない人がいた。男性、女性、カップル、ご夫婦、外国の方。しかし皆が、入り口で言われたとおりに靴を脱いでいるので、音はしない。誰も居ないように感じるのだけれど、確かにいる。照明もなく、左右に二箇所、大きくくり抜かれた天井部分から差し込む光が、白い壁や床を反射し、優しく、この空間を照らし出す。
 
そこには、何もなかった。
『美術館』と名前がついているのに、壁に作品が展示されているわけでもなく、白い空間と、くり抜かれた天井部分から見える曇り空と空気、そして静寂だけが、そこにはあった。
建築物を見る、ということなんだろうか?
床を見たり天井を見てみたり、何を持って『美術館』というのか考えながら、僕は奥へと進んでいく。
すると足元に、小さな水たまりを発見した。
雨漏り? 大きく開いた天井部分から吹き込んだ雨だろうか? 
そんなはずはない。水たまりのある位置と、大きく開いた天井部分の位置関係からして、こんな所に水たまりが出来るはずがない。
不思議に思いながら白い床を歩いていくと、所々に水滴があることに気づく。そしてその近くに、釘か何かで穴を開けたのかと思えるぐらい、小さな穴が開いている。
そこから、水が、湧いている。
小さく、本当に少しずつ水が溢れ出てきて、水滴を作る。
一定の大きさになると、ほんの僅かな傾斜に沿って、水滴が滑る。
音もなく、流れる。
最初は勢いが良かったのに、途中で勢いがなくなって、停滞する。
そのすぐ近くには、先に出てきた水滴の先輩たちの集まりだろう、小さな水たまりがある。後輩の水滴くんは、極めてゆっくりと、ジリジリジリジリ、コチラがじれったくなるぐらいゆっくりした速度で先輩たちに近づいて、そして、スルンとくっついて、同化してしまう。
すると小さな水たまりは、今まではその場に止まっていたのに、わずかな体重の変化のせいで力を得て、滑り出す。
丸かった水たまりが徐々に崩れて、楕円形になったり、川のように縦長になったり、ときに分かれて、でもまたくっついたりして、そして、もっともっと大きな水たまりにぶつかって、吸収されて、同化してしまう。
それは、友達や、職場の人間関係のような、人間世界の縮図のようにも見えた。ただの、水の動きだと言うのに。
 
それでも、不思議と目が離せなくなる。
水が湧き出て、流れて固まって、また流れて。
今度はそれが、地球環境の循環を表しているように思えた。
 
そんな動きをする場所が、この空間にはいくつもあった。
微妙に大きさの違う水たまり。流れる早さや流れ方、大きさの違う水の塊があって、不思議と全部、見てみたくなる。しかも、じっくりと。
その時々によって、ほんの少しだけ変わる水滴の動きを見つけて、楽しみたい。この大きさなら流れるかな? と思ってみていた水の塊が流れなかったり、時に予想を裏切って流れたり。
それは今度は、親子や、家族のようにも見えてくる。
 
水滴の動きを見て、楽しむ。
水滴の動き以外、何も考えない。
まるで子どもに戻ったようで、とてもとても、贅沢な時間だと感じる。
そして不思議と、顔に笑みが浮かぶ。水滴の動きを、見ているだけだっていうのに。
 
しかも幸運だったことは、その日が小雨だったことだ。
吹き込む雨が、美術家が計算しただろう水滴の動きと混じり合って、また違った動きを見せる。
 
美しく晴れた日に来たら、丸くくり抜かれた部分から見える青空は、それはきっとキレイだろう。
そしてきっと、見ることの出来る水滴の動きも、今日とは違うのだろう。
 
また、来てみたい。その時は是非、誰かと一緒に。
 
ここは、どんなに夜景のきれいなレストランよりも、高級ホテルよりも美しくて、素晴らしい。
 
***

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2017-10-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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