メディアグランプリ

瞬間シャッキリとスッキリとするお薬の話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:たかはしにこ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 その薬を軽く鼻から吸えば、たちまち頭がシャッキリして、気分がすっきりして、集中力が湧いてくる。
まるで、ぐっすりと眠った後にスカッと目覚めた朝のように、体は気持ち良く伸びやかに軽やかになる。
そればかりか、テンションが上がり、不可能なことなんて存在しないという強い自信も出る。
だが、日本国内で使用する際には人目を忍んでコソコソとする必要がある。
そんなヤバい薬の話を書こうと思う。
 
私がこのお薬を知ったのは、2年前。
アメリカ人ボスの世界講演に帯同して訪れたタイのバンコクでのことだ。
その日私は、ホテルの中にある300人程が収容できる大きなセミナー会場にいた。
微笑みの国タイのお客さんは、静かににこやかに参加してくださっていた。
セミナーでは、2時間を目安に全員一斉の休み時間が設けられる。
休み時間の過ごし方は人それぞれで、お手洗いに行く人もいれば、コーヒー紅茶を飲む人もいる、世間話に盛り上がる人もいる。
各人自由なスタイルで、セミナー中の緊張をほぐすのだが、タイには他の国にはない独自のリラックス方法が存在した。
 
 
その日初めての休憩時間が始まった。
私は、ボスのコーヒーを取りに行こうと廊下に出た時だった。
5〜6人の20代と思われるオシャレな女性たちが廊下のベンチに座りながら、楽しそうに話に花を咲かせている。
私は、彼女たちを2度見ならぬ3度見、いや5度見くらいしてしまった。
おかげで手に持っていたコーヒーを滑り落としそうになったくらいだ。
なんと、彼女たちの鼻には、白いリップスティック状のものが刺さっていたのだ。
しかも全員。
そのスティック状のものを鼻の穴からプラプラさせて、普通に話をしている。
周りを見渡すと、同じように鼻に何かを突っ込んでいる人たちがたくさんいる。
グループで話している人たちの中にも、1人でスマホをいじくる男性の鼻の穴にも同じようなものが突っ込まれているのだ。
さらに驚いたことに、両方の鼻の穴にそれぞれ1本ずつ突っ込んでいるツワモノまでいるではないか。
私は、あれが何なのか、たまらなく知りたくなった。
食べ物なのか、飲み物なのか、いい匂いのするものなのか、なんの作用があるのか、タイではメジャーなものなのか、お値段はいくらなのか、どこで買えるのか。
 
鼻の穴に突っ込んで機能する身近なものは、あまりないと思う。
唯一、浮かぶものは内視鏡の検査のチューブくらいだ。
 
私は、急いでボスにコーヒーを渡しにいき、他の用事を頼まれる前に素早くもう1度廊下に出た。
1人で立っている優しそうで英語を話せそうなキレイな女性を選んで話しかけてみた。
「みんなが鼻に刺している、あれは、なんですか?」
女性は、にっこりと笑って少し低い声で優雅に答えてくれた。
「あれは、タイに昔からある嗅ぎ薬よ。<ヤードム>っていうのよ。スティックの下の方に中に液体が入っているの。鼻に入れてスーハーって息をするとねっ、メンソールでね、気持ちがいいのよぉ。みんな使っているわっ。」
喉仏が出っ張り気味のキレイなお姉さんは、解りやすい英語でハキハキと腰をくねらせながら続ける。
「薬局に、いろんな種類が売ってるわよ。天然成分でできているから安全性はバッチリなの。1つ20バーツ(日本円で60円くらい)くらいかなっ。あたし、今1個持ってるわよ。使ってイイわよ〜、はい!」
と言って、大量の化粧道具が入ったポーチから、そのスティックを差し出してくれた。
タイ人は、おおらか、という言葉がぴったりだ。
その心遣いは嬉しかったのだが、私は衛生を気にしすぎる日本人なのだ。
今すぐにでも、使用して効果を試してみたいところではあったが、丁重にお断りした。
 
 
その日のセミナーが終わると同時に<ヤードム>を求めて薬局に走った。
薬局には、予想以上にたくさんの種類が売られていた。その数15種類はあっただろうか。
スタンダードな、ミント。
フレッシュなオレンジ。
清涼感のあるソーダ。
薬局の店員さんが、特に売れ筋だというこの3種類を1本ずつ買うことにした。
どれも日本では売られていないだそうだ。
形も大きさも、リップクリームと同じくらい。底の方には液体が入っていて、軸の空洞部分から空気と一緒に気体を吸うようになっている。
 
タクシーに乗り込んで、一番メジャーだというメンソールを早速鼻に突っ込む。
「おお!」 思わず声がでてしまった。
想像以上に、気持ちがイイ! 今までに経験したことがない刺激を感じた。
まずは、香りが良い。いつまでも嗅いでいられる嫌みのない香りだ。
呼吸するたびに、鼻の器官が広がって詰まりが解消される。
そこにメンソールが効いて、頭がスッキリとして、視界が広くクリアになったように感じる。同時に、眠気も飛ばしてくれる。
簡単お手軽な素晴らしい気分転換法だ。
タイでは、日本でおなじみのフリスクやミンティアのようなミントタブレットはあまり売られていない。嗅ぎ薬ヤードムが、その役割を担っているのだろう。
 
3種類をかわるがわる鼻に突っ込んでいると、タクシードライバーさんが「俺も愛用しているぜ!」と言わんばかりに、スティックを鼻に突っ込んで笑顔で振り向いてくれた。
街を歩いている人をよく見ると、あちこちでこのスティックを突っ込んだまま歩いている。
タイでは、当たり前の光景のようで、白い目で見られたりすることはないようだ。
ちなみに鼻の穴に入れずに手で持って呼吸するという手も試してみたが、効力がだいぶ落ちてしまう。鼻の穴に入れるのが、使用のコツだ。
このお薬に一瞬ですっかりとはまってしまった。
 
今日もこっそりと物陰に隠れて、小一時間ごとに鼻に突っ込んだスティックからお薬を仕込んでいる。
その姿は、あらぬ誤解を生まないためにも、女子の品格を守るという意味でも絶対に人に見せられない。
 
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2017-11-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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