メディアグランプリ

電話の向こう側


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事: かわはらちえこ(ライティングゼミ平日コース)
 
イマドキの子供たちは、誰が出るかわからない固定電話に抵抗があるようだ。うちの娘も携帯を持つ年齢になってからは、友達とのやり取りはすべて携帯になった。その携帯ですら通話機能はまず使わない。用件はメッセージですませるのが基本形だ。
 
だから、知らない人に電話をかけるときは大騒ぎだった。高校生のころヘアカットの予約を私にしてくれというので「自分でやりなさい」と言うと、「相手が出たら、なんて言ったらいいの?」と心配する。
「まず自分の名前を名乗って、予約をお願いしますと言うんだよ。そしたら向こうの人が日にちとかメニューを聞いてくれるから」そんなことまで教えなければならなかった。
娘が大学生になるころにはそのヘアサロンも携帯でWEB予約ができるようになった。
 
だが娘に聞くと、今の子たちが電話を苦手としているのは、やり取りに慣れていないという理由だけではないようだ。電話だと相手の状況がわからない。忙しいかも、とかメンタルに落ちていて電話をしてほしくないかも、とか考えてしまうらしい。
 
その気持ちはわからないではない。
実は私も、昔から電話をかけるのが嫌いだったからだ。
どうしても電話が必要な用件があっても、これ以上延ばせない限界まで待ってかけていた。予約のキャンセルなどのネガティブな用事ならなおさら。レストランにかけるのに、「開店準備中にかけたら悪いよね」、開店時間になったら「ランチの時間で忙しいよね」、ランチの時間が過ぎたら「お昼休み中に悪いかな」などと一日中モヤモヤしたあげく、閉店ギリギリになってようやく電話する。冷静に考えれば、さっさとかけて早く知らせたほうが先方は助かるに決まっているのに、だ。
 
子供の小学校の電話連絡網なんて、悪夢のようだった。
苗字が「か」で始まるので、かなりの確率で列の先頭に配置される。学校から「明日の運動会は……」などのメッセージが入り、次の人に電話をすると、いつも留守だった。仕方ないのでその次の人にかけると、子供が出る。子供に伝えるのはNGなので、3番目の人にかける。やっと出てくれたらメッセージを伝え「列の最後の人まで到達したら、確認のために先頭(私)に戻してください」と頼む。その後もさっき繋がらなかった人たちに、連絡が取れるまでかけ続けなければならない。挙句の果てには、夜遅くなっても最後の人からメッセージが戻ってこず、確認したほうがいいかと悩む。ただでさえ電話が嫌いなのに、そんなことを繰り返していると、神経がズタボロになった。
 
子供が成長して、もうその種の集団に所属しなくなったのでわからないけれど、きっと最近ではグループメールやLINEのグループに流して返事をもらえば、誰が読んだか読んでいないかまで、すぐに把握できるのだろう。
 
今や職場で隣の席の人ともメールでやり取りをする時代だ。家族や友人ともLINEやメッセージですませれば、時間も節約できるし気も遣わなくてすむ。
お店の予約もキャンセルもWEBで一瞬だ。
なんて便利な世の中なんだろう! 
私にとっても、格段に生きやすい時代になった。
だけど……
心の片隅で、かすかな違和感を覚える。
 
言いにくいことや面倒なことは画面上ですませ、親しい人、一緒にいて楽な人とだけリアルに関わればいい世界。そんな世界を作るために、私たちはこころを砕く。
まな板やスポンジはもちろん、体も空気も衣服も除菌にいそしみ、家も配偶者も無臭を目指す私たちは、今度は関係性の世界からも不都合な菌を締め出そうとしている。
 
けれど、みんな本当はどこかで知っている。不都合なことはなくならない。なぜなら、それも世界の一部だからだ。
人間にとって不都合な菌も好都合な菌も、すべてバランスをとって自然界に存在しているように。
 
セキュリティがどんどん強化されていく、病院の無菌室のような私たちの世界。
清潔で快適で平和な生活。それを楽しむために、私たちが目をつぶって見ないようにしているもの。

その中にはきっと、かつての私が電話連絡網の繋がらない番号の向こうに、うんざりしながら見ていた景色があるはずだ。私が最初にかけた人は、病気で起きられなかったのかもしれない。電話に出てくれた子供は一人ぼっちで、心細い思いで留守番していたのかもしれない。電話を戻さなかった最後の人は、夜の仕事で明け方に帰ってきたのかもしれない。そこには想像の余地があり、アイコンと文字だけではない、生きた人間の息遣いがあった。

時間を巻き戻すことはできないし、たぶんPCやスマホなしでは(それに代わる新しいものは出てくるかもしれないけれど)、私たちはもう生きていけないだろう。かといって、自分にとって不都合なことから目をそらすだけの臆病な生き方では、遠からず無菌室のなかで窒息してしまうだろう。
電話はたぶん一生好きになれないけれど、今度カットを予約するときには、WEB経由でなく電話にしてみよう。まず名前を名乗って「予約をお願いします」と言えばいいんだから。
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2017-11-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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