メディアグランプリ

なんだ、よく見りゃ柳じゃないか:お化けが恐いのはよく見てないからだよ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:津山隆平(ライティングゼミ平日コース)

 
「今、なんか変な音が聞こえなかった?」

「声みたいな感じだったぞ」

「なんだか、不気味な声だ」

 

その日、ボクは友達二人と小学校で決められた範囲を超えて自転車で遊びに行った。

やんちゃを気取っていた三人だったので、学校の規則を少しばかり破ることが自分たちなりの格好良さだった。

 

集合場所でもありいつもの遊び場でもある橘公園を出発したボクたちは、目的を決めずに走り出した。

なるべく遠くに行ってみんなの知らないところを見つけるんだ。

そして、明日の学校で「秘密の話」を自慢して人気者になるんだ。

 

夏の暑い日に自転車で走ると、風が汗をぬぐってくれて気持ちがいい。

少しルールを破るのだというワクワクした気持ち手伝って、いつもよりスピードを出してこいだ。

 

見慣れない町並みになってきたので、ボクたちは自転車のスピードを落とし、話をしながらスピードを落として走っていた。

 

しばらくすると、初めて見る公園が現れた。

明日の学校での自慢のネタになりそうだと思ったボクたちは、公園の入り口に自転車を置いて公園の中に向かって歩き出した。

 

 

土のグランドのような場所では、少し年上の少年たちが野球をしている。

少し離れたところでは、サッカーボールを蹴って遊んでいる少年たちもいた。

遊ぶ場所に規則があるわけではない。

子どもたちなりのルールとモラルのもとに、グランドを分かち合って遊んでいるのだ。

 

 

グランドの奥の方には少年の背丈ぐらいの石垣があり、その先はなだらかに傾斜した上りの斜面になっている。

斜面にはうっそうと木が茂っている。

 

グローブやサッカーボールを持っていないボクたちは、グランドの端を通り過ぎ、その斜面に向かって歩いていった。

 

学校の誰もが知らないこの公園の林を探検すれば、明日には学校のヒーローになるぐらいの話ができる。

ボクたちは、そんな風に思っていたのだ。

 

石垣を上って、木の茂みを奥に向かって進んだ。

木は背が高く、ボクたちまで夏の日差しは届かなかった。

木が音まで遮ってしまったのだろうか、ボクたちはグランドからの声も聞こえなかった。

 

ボクたちは、グランドとは全く別の世界にいて、三人だけの世界を歩いている気分だった。

 

その時だった。

 

声とも音とも判然としない、薄気味の悪い音を聞いたのは。

 

テレビの恐いシーンに出てくるような感じの音が、何重にも混じり合ったものだった。しかもどの方向から聞こえてくるのか良くわからない。後ろの方から聞こえたと思って振り向くと、その瞬間にまた後ろから聞こえてくる。

 

首の後ろ側から背筋にかけて、ゾワゾワするような嫌な気持ちがする。

 

最初は、空耳なのかと思ったが、友達二人の様子も変だったので聞いてみた。

 

「今、なんか変な声、聞こえなかった?」

 

友達二人も、その音を聞いていたようだ。

「薄気味悪い音がしたよな」

「お化けじゃないのか」

「お化けにつかまえられるんじゃないの」

 

もしかしたら、このままお化けにつかまえられて、食べられてしまうかもしれない。

途中から道なき道を歩いていたので、迷ったのかもしれない。

迷ったのではなくて、お化けに迷わされてしまったに違いない。

 

明日、学校で秘密の話をして人気者になる予定で勇ましく林に入ったのに、このまま帰れなくなってしまうのだ。

 

お父さんやお母さんにも、二度と会えない。

 

小さな不安が大きな恐怖に変化して、三人の心に居座った。

 

逃げよう。

 

とにかく帰ろう。

 

ボクたちは、みんなで一緒に帰ることを決めた。

一人が取り残されてもダメだ。

明日の自慢話のネタの心配をしている場合ではない。

 

来たと思われる道をユックリ戻った。上ってきた斜面を下るだけだから、そんなには苦ではない。

 

恐い時には、一目散に逃げるものだと思っていたが違う。

ユックリと慎重に逃げるのだ。

誰も取り残されてはいけないし、急ぎすぎて転んだらそれこそ終わりだ。幸いお化けも追いかけてきてないように思える。

 

とにかくユックリ逃げた。

 

公園のグランドに飛び出ると、ボクたちに音と色が戻った。

助かった。

三人とも無事だ。

 

家にたどり着くまで、ボクたちは無言だった。

話をすると思い出されて、思い出すと近くにお化けがやってきそうだったからだ。

 

家でお風呂に入って頭を洗っている時も、どうしても後ろが気になる。

声は聞こえなかったけれど、何か見られているようなのだ。

 

テレビを見ていても、トイレに居ても、後ろが気になるのだ。

 

お母さんに話をするときっと怒られる。場合によっては、お化けより恐いことになる。

 

ボクはお父さんに相談してみた。

 

ははーん。

それは昔から、あの地域にいる小さな妖怪だろうね。

でも、悪さはしないので心配ない。

お前たちの勇気を試していたのかもしれないよ。

 

昔から、幽霊だと思ってよく見たら柳だった、という話があるだろう。

 

もし、お前たちがもうちょっと勇気を持って見ていたら、小さな妖怪と遊べたかもしれないね。お父さんも声だけは聞いたことがあるよ。

でも、危ない場合もあるから、気をつけなさい。

 

お父さんは言った。ほとんど冗談だとは思ったけれども、ボクにはお父さんに相談することで安心できた。

 

 

ボクは、コンサルティング会社に勤務してから、時々思い出す。

未知の仕事や人との関わりは恐い時がある。

特にプロジェクトでトラブルが発生している時は恐怖だ。

しかし、立場上、関わらないことはできない。

 

トラブルの原因は何か?

トラブルをお化けだと言って、しっかり事象を把握していないだけではないか。

事実と原因を追求することで、トラブルはお化けではなくなるはずだ。

 

未知を恐れるな。

知るために探検すれば良いのだ。

 

もしかしたら、小さな妖怪が遊んでくれるかもしれない。

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2017-11-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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