メディアグランプリ

親友の顔をした、最強の敵


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記事:こっき(ライティングゼミ平日コース)
 

「相変わらず貧乏ゆすりしていたけど……いいかげん治した方がいいよ」

 

さっきまで一緒に飲んでいた姉から、別れたあとに送られてきたSNSのメッセージだった。

「今やっている努力が完全にムダになるくらいの負のパワーがあって超もったいないからさ。Good Luck」

 

これを電車の中で読むなり、僕は冷や水をかけられる思いがした。

恥ずかしかったのだ。わざわざメッセージを送ってくるくらいだから余程ゆすっていたのだろう。

 

僕と姉は、会社こそ違えども業界も仕事の内容も近しいことから、ときどき情報交換がてら飲むことにしている。

この日も、僕は意気揚々と最近の順調な仕事ぶりを話し、姉もしきりに感心してくれていたようだった。ほどよいお酒の酔いも手伝って、気分よく家路についたところだった。だからこそ、なおさら惨めな気持ちがした。

 

貧乏ゆすりは、説明するまでもなく座っているときなどに足をカタカタと揺らすクセのことだ。一般的にはみっともない行為だとされていて、マナー違反だと言われている。

 

そんな貧乏ゆすりを、僕は物心ついた時からずっとし続けてきた。もうかれこれ30年以上の付き合いになるから、幼馴染の親友みたいなものだ。

 

もちろん見栄えが悪い行為であることはわかっていた。でもやめられなかった。

足をゆすっていると不思議と気持ちが落ち着いて、集中して目の前のことに取り組むことができたし、気のせいか、ゆすっている間は普段より良いアイデアが浮かぶような気がしていた。

 

勉強中や仕事中にも貧乏ゆすりには、ずいぶん助けられてきた。

水鳥が優雅に見えて水面下では水かきを動かしているように、僕も涼しい顔で参考書の難問を解き、仕事上の課題解決を進めている間にも、机の下では貧乏ゆすりがそのパワーをくれていた。

 

暇さえあれば足をゆすっているものだから、相当な運動量だ。

たいして体を動かすこともしていないうえに、好きなものを好きなだけ食べる生活をしていても太らないのは、貧乏ゆすりのおかげではないかと思っている。

 

実際、調べてみると貧乏ゆすりは健康にいいという説もある。

カロリー消費に加えて、関節症予防、むくみの防止、冷え性の改善と、なかなか優秀なエクササイズだ。
正直、「貧乏ゆすり」という名前が印象を悪くしているだけで、実は良いことずくめじゃないかと思っていた。いっそ名前も「健康ゆすり」とか、英語で「knee shaking」と呼んでもいいじゃないか。

 

そんなことを思っているくらいだから、周囲の人に「足、揺れているね~」とからかわれても「これはビートを刻んでいるんだよ」なんて、ネタ的に笑いに変えて、ごまかしてきた歴史があった。

 

まるでお笑いコンビの素行の悪い相方みたいだった。

「それでもコイツのこと憎めなくてね」なんて言いながら、ずっと一緒にやっていくしかないんだろう。いや、一緒にいけるんじゃないか。

 

そんな風に思い始めていた矢先の、冒頭の姉からの一言だった。

 

あの日以来、貧乏ゆすりを笑いに変えることができなくなっていた。

今までネタで済ませてきたけれど、周囲の人は本気で眉をひそめていたのかも知れない。なんだかんだ言い訳しながら貧乏ゆすりを続ける僕に心からの嫌悪感を抱いていたのかも知れない。そんなことを考えるようになっていた。

 

若い頃はネタにしても許されたけど、僕ももう40代のいいオジサンだ。ただただみっともないだけの貧乏ゆすりとはいい加減、決別しなければ。

 

その日から、僕と貧乏ゆすりとの戦いが始まった。

 

貧乏ゆすりをしたくなった時の対処法その1。「立つ」。

さすがの僕も立っている状態では貧乏ゆすりすることはできない。家にいる時はもちろん、仕事中でも可能なタイミングでは立つことで乗り切ることを始めてみた。

 

対処法その2。「歩く」。

立っているままだと不自然な場合には、歩き回るようにした。これはこれでウォーキングと言う別のエクササイズが始まっているので、健康にも良い気がした。

 

その3。「手でもむ、たたく」。

立ったり、歩いたりできないときには、手で刺激を与えてごまかすようにしてみた。これもまたそれなりに効果があった。

 

それでも常に誘惑と戦っている状態だ。

貧乏ゆすりしたくなる欲望は寝ている時間以外、いつでも僕を襲ってくる。何しろすごい魅力的な時間だったのだ。共に過ごした30年間の記憶が僕に揺さぶりをかけてくる。

 

そして、これはとても孤独な戦いだ。

僕がこんなことに努力していることなど、誰にもわからない。わかったところで、誰の共感も得ない。何しろ貧乏ゆすりなんてしない方が普通なのだ。

 

この戦いに勝ったとて、誰も褒めてくれない。ただ、負けたらみっともないオジサンであり続けるだけ。進むも、引くも茨の道。でも進むしかない。

 

もしかしたらコイツは今まで相対してきた中でも、最強の敵なのかもしれない。

それも親友の顔をした、最強の敵。

 

でも必ず勝つ。僕が勝つさ。そうさ、僕が勝つんだー!!

 

……と集中して文章を書いていたら、やっぱり貧乏ゆすりをしていた。
そりゃそうだ。30年以上やり続けたクセがそんなにすぐ治るわけない。どうやらコイツと本当にサヨナラするにはもう少し時間がかかりそうだ。これは本当に強敵だ。

 

でも漫画の世界でも「『強敵』と書いてと『とも』と読む」なんて言うし、もしかしたら僕はコイツと戦い続けることで、さらに強い男になっていけるのかも知れない!

 

……なわけないか。

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2017-11-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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