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メディアグランプリ

かおりとの再会


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:御手洗智美(ライティングゼミ平日コース)

 

 

「これ!! なんの匂い?!?!」

車に乗り込んだ瞬間、友人の匂いを嗅いだ。

久しぶりの再会で、しかも遠くからわざわざ車で迎えに来てくれたのに、お礼も言わず、挨拶もせず、いきなり匂いを嗅いだ。

 

尋常ではない。

今思い返すと、申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになる。

相手が心優しい友人だったからよかったものの、一歩間違えればただの変質者。通報されてもおかしくない。でもあの時は、とても尋常ではいられなかった。

それほどずっと探し求めていた香りに、やっと再会できたのだ。

 

 

その香りには、ハタチの記念で行ったインドで出会った。

 

 

 

ハタチという節目。記念になる特別なことがしたいと、少し前から考えを巡らせていた。そんなとき、ふと大学の掲示板に貼ってあったチラシが目に入った。

 

大学主催のインド研修のお知らせ。

 

これだ! と思った。

しかし、よくよく読み返すと研修には私のバイト代を丸々2ヶ月分費やしても足りないくらい旅行代金がかかるとある。まずい。しかも研修の内容は、私の大学が仏教大学だったので、インドにある仏教関係の遺跡やお釈迦様ゆかりの地を巡るというもの。あまり興味がない。さらに言えば、参加表明の締め切りは、昨日で終わっていた。

……終わった。

 

一瞬あきらめかけたが、ハタチの記念はこれだ! と直感が言っていた。ハードルは高かったが、なんとしてもインドに行きたかったので、奨学金をやりくりし、親にも頼み、どうにかこうにかお金を調達した。学生課の先生にも交渉し、いろいろとギリギリで、なんとか研修メンバーに追加してもらった。

 

念願のインドでは、今まで触れたことのないような文化、人種の人たちに出会い、五感の全てを使って楽しんだ。

研修の引率の先生たちも良かった。

全員インドに留学経験があり、なんと全員が先生兼お坊さんをしている人たちだった。そんなメンバーでの研修だったので、仏教の授業の熱心な生徒とは言えない私でさえ、うっかりお釈迦様に思いを馳せ、なんだか切ない気持ちになったり、慎ましい気持ちになったりした。

コルカタから入り、デリーまで横断する旅は本当に毎日が刺激的だった。数々のドラマもあったのだが、今回は割愛。

物語は、楽しかった旅も残りわずかとなったところへ飛ばすことにする。

 

デリーに着いた我々は、旅の終盤で疲れを取るという大学側の配慮からか、五つ星ホテルに泊まった。見るからに富裕層しかいないその高級ホテルのロビーに、薄汚れた普段着に、しかも足元はクロックスで入る背徳感。しかし、仏教研修をこなし、インドで過ごしてきた私は、今までの私とは違う。格好は関係ない、大切なのは心の豊かさなんだ! と熱い気持ちで、できる限り凛としてチェックインを待った。ようやく部屋に上がろうと、エレベーターが開いたときだった。

中から、見目麗しいインド人夫婦が出てきた。女優かと思うような綺麗な奥様が私の横を通り過ぎたとき、びっくりするほどいい香りが心地よく鼻を抜けた。爽やかだけどエスニックな感じもある、不思議な香り。元々香水に興味があるタイプではなかったのに、一瞬で虜になった。なんの香りか気になりながらも、しぶしぶ部屋へ向かった。

 

生まれて初めて泊まった五つ星ホテルは、想像を超えていた。広い部屋の中には、大きくてありえないほどフカフカなベッド。テレビの前には無料のお菓子や飲み物がたっぷり。さらに、映画でしか見たことがないようなガラス張りの広いバスルーム。アメニティもときめくほど充実していた。お釈迦様が富裕層生活を捨てて出家をしたなんて、本当に信じられない。と、一瞬で世俗にまみれた思考に戻った。

 

その日の夜、ゆっくりとバスタブに浸かりながら、いろいろとアメニティを試していた。ボディークリームを開けた瞬間、あの香りがした。

 

急いでお風呂をあがり、買って帰れないのかすぐにホテルにも聞いてみたが、

残念ながら販売はしていなかった。

 

結局、なんの香りかわかったは良いが、私に残されたのはアメニティサイズのボディークリーム一つ分。この先の人生で訪れるであろう、あの香りを嗅ぎたくなる瞬間を考えると、あまりに少なすぎた。

相当なショックを受けている私に、友人が気の毒がって自分の分を譲ってくれた。

 

 

 

二つのボディークリームを日本に持ち帰り、大切に使っていたが、限界は間近だった。

ボディークリーム売り場や香水売り場にいく度に似た香りを探すものの、なかなかあの感動には出会えなかった。

 

そうこうしているうちに、二つあったボディークリームは両方とも空になってしまった。

 

あの香りをもう一度満喫するためには、再びインドへ行き、大奮発して五つ星ホテルに泊まるしかないのか。でも、アメニティのために五つ星に泊まるのに、ホテルの趣向が変わって、もしも香りが変わっていたら……。

 

香りへの想いは、募るばかりだった。

 

そんなとき、久しぶりに会った友人が、まさに、私が探し求めていた香りをつけていた。ふと香るだけで、インドの情景がフラッシュバックした。

 

やっと、再会できた。

 

特別だった香りが、日々を彩る香りに変わった。

私の日常に、インドの情景が見え隠れするようになった。

 

***

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2017-11-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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