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メディアグランプリ

里山トロッコで魔法の国へ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:相澤綾子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 JR内房線下り列車を五井駅で降り、小湊鉄道のホームへの階段を下りると、2両編成の車両が見えてきた。クリーム色と朱色のツートンカラー。10時26分発なので、発車までまだ5分程度ある。乗客はまばらだったけれど、半数の行先は多分「いちはらアート×ミックス2017」だ。ガイドブックを見ているか、首から公式のチケットホルダーをかけているかのどちらかだった。ヴォーという低い音とともに車両が微かに振動して、深緑色のシートから伝わってきている。
 
 ドアが閉まると列車がゆっくりと動き出した。駅前の地方都市らしい賑わいはすぐに住宅街になり、5分もしないうちに田園風景が見え始める。「がたん、ごとん」と繰り返しながら、列車は進んでいった。
 最初の駅は上総村上。駅の案内板は白いペンキを塗られた木製で、懐かしい雰囲気が漂っている。駅舎はとても小さい。降りる客は誰もいない。また列車は動き出した。
 私は「いちはらアート×ミックス2017」ガイドブックを開き、今日訪れる場所を確認した。せっかく里山トロッコ号に乗るのだから養老渓谷までは行きたい。昼食をとり「あそうばらの谷」の展示をみる。14時12分発の上りでかずさ大久保まで戻り、旧白鳥小学校などと見て回る。16時37分の上りで五井駅まで行く。びっくりするくらい列車の本数が少ないので、行きたい場所が決まると、行程の選択肢は少ない。
 
 上総牛久に着いた。アート×ミックス組は私を含め3人が降りた。ここでいよいよ里山トロッコ号に乗り換える。11時33分発だからあと40分弱。
 既にトロッコ号は停車していた。クリーンディーゼルエンジンを搭載した「現代版機関車」ということだ。客車は小湊鉄道と同じクリームと朱のツートンだ。既に数人がカメラを構えて撮影している。私もその背後から、黒光りする機関車をスマホで撮った。
駅周辺を少し歩いた後、発車5分前に駅に戻り、里山トロッコ号の木製のベンチ風の座席に座った。向かいは五井駅から同じ電車に乗っていた女性二人組だった。後続の列車で来た人たちも乗り込んできて、車両はほぼ満席となった。
 
トロッコ号が動き出した。窓のついていない方の車両を選んだので、風が入ってきて気持ちがよい。しばらく田園風景が続き、市原市を南北に流れる養老川と並行したり、鉄橋で川を渡ったりした。
高滝駅の手前で「ようこそ加茂公民館」と書かれた建物があった。体育館のようだ。列車が近づくと10人ほどの女性たちが慌ただしく駆け出してきて、黄色いポンポンを持って振り始めた。乗客からわーっという声が自然に上がり、笑い声になった。トロッコ列車が来る度にこんな演出をしているのだろうか。
里見駅に着いた。ここでしばらく停車する。ホームでは地元の団体がテーブルを並べ、コーヒーや焼き芋、お弁当などを販売していた。乗客の半数くらいが列車を下り、テーブルの前にはすぐに人だかりができた。私はカイロ代わりに焼き芋を購入した。最初は気持ちよかった風も、まだ4月、徐々に寒く感じていた。
10分ほどの停車で出発した。景色は少しずつ山が増えてきた。山間を通り抜けると急に視界が開け、切り開いた田んぼが見えてきた。あぜ道で手を振っている男性がいる。満面の笑みだ。一生懸命手を振っていて、なんだかおかしくなって私も手を振り返した。他の乗客たちも笑いながら手を振っている。
 今度は反対側で、並走する道路を運転している女性がチラチラこちらを見ながら手を振ろうとしている。乗客たちは「危ない、危ない」と笑いながらも手を振っている。向かいの女性の一人と目が合い、私の隣に座る若い女性も含め、4人で一緒に笑い合った。
 手を振っているだけなのに、こんなに楽しくて、笑ってしまうのは何故だろう。小学生の時の修学旅行で、バスから他の乗用車に手を振っていたあの時の感じだ。誰かを見かけると、ついこちらから手を振ってしまう。振られた方もトロッコ号の音に気付いて、笑いながら振り返してくれる。
上総大久保を過ぎると、列車は菜の花畑の真ん中を通った。四方どこを見ても菜の花畑。明るい日差しに照らされて、黄色い花がまぶしく見える。高台でカメラを構えている人たちの列が並んでいた。私たちはまた思い切り手を振った。より楽しい雰囲気の写真になっただろう。
 
終点の養老渓谷に着いた。改札を過ぎると男性が、
「ポン菓子の試食でーす、両手を出してくださーい」
と声をかけながら、ポン菓子をふるまっていた。列の進みがゆっくりになったのはこのためだったのか。私も両手を差し出し、山盛りのポン菓子をもらった。
「ありがとうございます」
口をつけると優しい甘さが口いっぱいに広がる。懐かしい。ポン菓子の他にもおこわやジェラートなども売っていた。
「あとでジェラート買いますね」
「待ってるよ」
 青いもみじのトンネルの道を抜け、10分ほど歩いてあそうばらの谷に向かった。展示室の隣には、「おもいでの家」という農家のお母さんたちがやっている期間限定のレストランがある。「養老渓谷カレー」をいただいた。
「どう、おいしいでしょ」とお母さんが言った。
「はい、すごくおいしいです。しめじが入ってるのもいいですね」
「そうよ、ありがとう。ゆっくりしていってね」
何だろう、この感じ。いつの間にか見えない心の垣根がなくなっている。初めて会う人にもどんどん思ったことを口に出して話しかけてしまう。何だか楽しい。その後の「あそうばらの谷」や、「旧白鳥小学校」でも、気になったことをスタッフに尋ねたりしていた。
 
 翌日には魔法は解けてしまって、いつもの自分に戻っていた。正確には少し垣根が低くなった気もする。そして、楽しかった感覚はしっかりと覚えている。
 
また期間限定のレストラン「おもいでの家」がオープンするらしい。養老渓谷のもみじも色づいてくる時期だ。また里山トロッコ号を予約しようかな。今度は誰かと一緒に行ってみたい。
 
***

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2017-11-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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