メディアグランプリ

17歳の中山さんが教えてくれた、プロとして大切なたった一つのこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

 
記事:桑波田卓(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
「拝見します!」
今週も来てしまった。この地獄のような時間が。
天狼院書店メディアグランプリへの掲載が決まるかどうかの審判の時間だ。
 
この時間は無限のように長い。
気持ちを落ち付けようと本を読んだり、ネットの動画を見たりするけどちっとも内容が頭に入ってこない。
なんだか喉が乾いてくるし、お腹も痛くなってくる。
「あ、ここはわかりにくかったですよね。書かない方が良かったですよねえ。いや、そこはそういう意図じゃないんですよ…」
誰に向かってかわからない言い訳が頭の中をぐるぐると回っている。
ああ、どうして毎週こんな苦しい時間を過ごさなければいけないのだろう。
 
もともと人に文章を見てもらうということが苦手だった。
「お疲れ様です。パンフレットの原稿を作成いたしました。お忙しいところ申し訳ございませんがお目通しいただけませんでしょうか。よろしくお願い申し上げます」
先日も上司へのメールを書き上げ、送信ボタンを押したところで突然不安になって来た。
上司はこんな文章を見せられて怒り出しはしないだろうか。
こんなことすら出来ない自分を見て軽蔑するのではないだろうか。
平静を装いながら頭の中ではそんなネガティブな思いが溢れ出て来る。そのうちにトイレに行きたくなってくる。そして喉が渇きお茶を飲みに行く。そのお茶のせいでまたトイレに行きたくなってくる。ああいったい僕は何をやっているのだろう…?
「クワハタさん、さっきのだけど…」
来た。審判の時間だ。
上司は真っ赤になった原稿を前に、丁寧に優しく僕の文の問題点を説明してくれた。
フィードバックをしてくれることは本当にありがたいことである。
文章の問題点を指摘されても、書いた人の人間性まで否定されているわけではない。
分かっている。それは重々分かっている。理性では理解できている。
しかしその一方で、なにかどっと疲れた感じがするし、喉の奥に何か詰まったような感じがするのも事実である。
頭ではわかっているのに、心が反抗している。
そんなことは間違っているはずなのに。
なによりもそんな弱い自分が嫌になってくる。
そして書くことにネガティブな感情が増えていく。
 
プロとして書く人は来る日も来る日もこれ以上のプレッシャーと戦っているのだろう。
プロの人は書くのが不安ではないのだろうか?
こんなことが続いて書くことが嫌になったりしないのだろうか?
僕はいつも不思議に思っていた。
 
そんなある日、僕はライブハウスにいた。
中山莉子さんというアイドルのバースデーライブだ。
中山さんは17歳になる今日のために用意してきたという可愛らしい衣装を着て、いつも通りステージ上で輝いていた。
中山さんは不思議な人だ。
アイドルらしくルックスは可愛らしいしスタイルも抜群に良い。しかし歌はあまり得意ではないし、トークも噛み倒す。それどころか時折何を言っているのかよくわからないこともある。だがそれが何故か笑って許されてしまう。そんなところがあるのだ。
ライブも中盤にさしかかったところ、
中山さんがファンからの質問に答えるというコーナーがあった。
「莉子ちゃんが最近恥ずかしかったことは何ですか?」
「えっ? 私恥ずかしくない!」
いつも通り少しピントの外れた答えに客席は大爆笑で包まれていた。
しかしそこでハッとした。
そういえば中山さんは恥ずかしがらない。
普通歌詞を間違えてしまったり、セリフを噛んでしまったりしたときには照れ笑いの一つも浮かべてしまうものだ。
しかし中山さんは決してそんなことをしない。
多少音程を外したって、変なことを口走ったって、いつもそれがどうしたというような顔をしている。
「飾らない自分でいたいんです」
昨年のバースデーライブの時、中山さんはそう言っていた。
そうか。中山さんはパフォーマンスの時に
決して自分を良く見せようと思っていないんだ。
いつも自分の100%を見せることで必死なのだ。
いつも可愛らしい顔をわざわざくしゃくしゃにさせながら歌っているのも
手足が取れてしまうのではないかと思うくらい大きな振り付けをしているのもきっとそういう理由からなのではないだろうか。
だから彼女はいつも輝いているし、プロフェッショナルでいられるのだ。
そして僕らはそれに魅了されているのだ。
 
ステージが終わり、客席に手を振る彼女と一瞬目が合ったような気がした。
「ちょっとはわかったかな?」
彼女のいたずらっぽい目つきが何かそう語っているような気がした。
 
僕はあんなふうに自分の文章を恥ずかしくないと言い切れる日は来るのだろうか。
それはわからないけれども、今できることは、中山さんのように自分の精一杯の思いをひとことずつ丁寧に言葉にしていくことではないだろうか。そして何回も何回も書き続けて行くことだ。拙くても、カッコ悪くとも、飾らずに。
 
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2017-11-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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