メディアグランプリ

非日常と冒険は突然に


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:橋本真美(ライティングゼミ平日コース)

 

 

イタタタタ……!

 

夜中の2時に突然その痛みは訪れた。

ふと目が覚めて用を足し、ベッドに戻った瞬間に差し込むような腹痛に襲われ、動けなくなってしまったのだ。

これまでの人生で味わったことのない類の痛みだった。

 

病院嫌いなため、ちょっとの痛みは我慢して過ごしてきた。

その上夜中とくれば、ひとまず朝まで様子をみて……と思ったのだが、脳内でエマージェンシーの警告灯がクルクル回り、「これはアカンやつや!」と告げている。

震える手で携帯電話を取り、生まれて初めて119番を押した。

 

事情を説明すると、すぐに救急車が来てくれることになった。

電話口で尋ねられたのは、部屋まで救急隊員に来てもらうか、建物の外まで自力で出るかの2択。

夜中にマンションの階段や廊下を騒がしくしてはご近所迷惑だと思い、自力で出ますと答えたが、上着を着て、3階から下に降りるだけでもとんでもなく辛い。脂汗を大量に噴き出しながら階段を下りきったところで救急隊員に迎えられた。

 

救急車がたどり着いた先は、自宅から歩いても10分とかからない病院で、救急搬送口から担架で運ばれる。帰りやすい場所でよかったと考えられる程度には、この時には気持ちも痛みも随分マシにはなってきていた。

そこで、夜勤の医師による問診が始まる。

痛みの原因は、予想がついていた。

 

「鯖のきずしを食べたんで……アニサキスだと思います」

 

そう、食中毒だ。

 

その夜、友人が釣って調理したという鯖のきずしをいただいた。

足の早い魚の代名詞、鯖。落語の「地獄八景亡者戯」ではいきなり冒頭で登場人物たちが鯖で当たって地獄へ行く。昔はあの世への切符にもなりえた魚だ。

だが、釣りたてで作っているわけだし、第一酢で締めているのだからと疑うことはなかった。実際、同じものを食べた友人はなんともなかったというから、運が悪かったとしか言いようがない。

 

真っ青な顔で必要な情報を伝えると、後は医師に身を委ねるのみ。

麻酔もそこそこに、内視鏡で胃の中を診ることになった。

……なんていうと、簡単に聞こえるが、この内視鏡ってやつを侮ってはいけない。

意識がある状態で喉の奥に異物を入れようとするわけなので、身体が拒否反応を示す。

これがとにかく苦しい! ほんとに麻酔した!? と激昂したくなるほどに。

腹痛で運ばれたはずなのに、別の痛みを与えられるなんて想定外だった。

 

苦しさのあまり産卵する亀のように涙を流しながら、異物を受け入れる。

しばらくすると、落ち着いてモニターに映る胃の中を見られるようになった。

医師や看護師と共に眺めている画面は自分の胃という実感がまるでなく、健康番組でも見ているかのように感じた。

ふと、いくつもの白いニョロニョロとした物体が映る。

これがアニサキスか!

いわゆるミミズ的な寄生虫を勝手に想像していたため、そのボリュームにやや感心した。

「これが虫ですか……?」

ほろりとこぼれた質問に対しての医師の答えは「ノー」。

結論をいうと、その正体は未消化のエノキダケ。

そういえば夕飯に鍋も食べたのだった。

 

そんな紆余曲折を経て、想定よりずっと小さかったアニサキスを発見し、除去。

既に時間は早朝の5時近くなっていた。

実は、この日は朝から軽い山歩きを計画していた。

人数が少ないと聞いていたのでドタキャンするのは忍びないけれど、これはやむを得ない非常事態。正直、これだけ睡眠が削られたのだから内心ではゆっくり寝ていたいと考えていた。ドクターストップなら仕方がないだろうという悪知恵で医師に確認してみたのだが、答えは「ああ、行ってもらって大丈夫ですよ」だった。

 

事実、虫を取り除いたお腹の痛みは、まるでこの一夜が嘘だったかのように治まった。結局山歩きの間も痛んだのはお腹ではなく内視鏡で傷ついた喉だけ。まさに、喉元過ぎればなんとやら、である。

苦しみから解放されたせいか、むしろ爽快感さえあった。

映画の「千と千尋の神隠し」や「ハリーポッター」のように、どこかの異世界にでも行って、困難に立ち向かった後のような妙な清々しさといえばわかってもらえるだろうか。

痛みを伴ったからこその日常の心地よさよ! まあこの場合立ち向かったのは自分ではなく勇者当直医なのだが。ともあれ、夜間の診療費もなかなか痛かったが、思いがけず滅多にできない体験ができたのは確かである。

お母さんたちは、出産時どれだけの痛みを体験しても、それがトラウマになることはなく、また次の出産に臨むことができているのだから、痛みや苦しみの後には時としてギフトがあるものだ。

 

 

この日、山歩きの後メンバーの家で打ち上げと称した飲み会を催すこととなった。喉の痛みが引かないため、泣く泣く飲酒は諦め、もっぱら準備や給仕に専念することにした。

キッチンで他のメンバーが買い出してきた袋を開けて、ドキッとした。

打ち上げの献立はどうやら「鍋」。

鯖でなかったのは幸いだったが、エノキダケを見た瞬間、苦笑いが浮かんだのは言うまでもない。

 

***

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2017-11-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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