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本当に怖い怪奇現象レポ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

 
記事:秋田あおい(ライティング・ゼミ書塾)
 

「え? なに? 
なんで? ちょっと、やだ、怖い……」
 
慌てて家の中に入る。
のんきにゲームで遊ぶ次女を大声で呼ぶ。
 
「ケイちゃん、ちょっと! ちょっと来て! 早く! 怖いから早く……」
 
まるで子供のように騒ぎ立てているのは
大人になって久しいこの私である。
 
ケイちゃんは面倒くさそうに
「え、なに?」と言いながらも、こちらに来てくれた。
文字通り、手が届く距離にケイちゃんが来てくれると、
私はふーっと一息ついたあと、口を開いた。
 
「ちょっとちょっと、明かりがついてるの! 離れの二階、見て見て!
ほら! なんで明かりがついてるの? 超怖いんだけど!!」
 
大きな声、しかも早口で、私はケイちゃんにそう伝えた。
 
 
我が家には母屋とは別に、鉄骨コンクリートで頑丈に作られた
築50年くらいの離れの家がある。
離れの家は、その当時には珍しい洋風のレンガ造りっぽい外観で、
ヨーロッパに憧れた夫の祖父が建てたものであった。
 
その家の主である祖父は、とうの昔に他界した。
一緒に暮らしていた祖母も、祖父の後を追うようにすぐに天国へ旅立った。
 
その後は、お義母さんが離れを引き継いでいた。
 
レンガ造りっぽい離れの家は、
きちきちっと四角くて、まっすぐ東を向いている。
眼前を邪魔するものは何もなく、
いつも、お日様を正面から迎えるところが律儀である。
 
この離れの二階には部屋が二つある。
八畳の和室がくっついている形で、
部屋の前には、縁側を思わせるような幅広の廊下がある。
 
その縁側風の廊下と屋外とを隔てる壁には大きな窓が二つ。
その大きな掃き出しの窓ガラスの向こう側に
小さな子供が走り回れるほどの広さのバルコニーがある。
 
縁側風の廊下もバルコニーも絶好の日当たりで
眩しいくらいに明るく、母親の懐のように暖かい。
 
私は、嫁いで以来、毎朝、お義母さんのいる離れに顔を出した。
日の光がまるでスポットライトのようにまっすぐ差し込む玄関で
お日様に負けないくらいキラキラ輝いた笑顔のお義母さんと
話をするのが好きだった。
 
玄関を開けると、上がりかまちの先にいきなり、
豪華な調度品やシャンデリアで装飾された、
まさに「サロン」と呼ぶにふさわしい応接間が広がっている。
お義母さんは、しょっちゅう友達を招いては
そこで小さなパーティのようなことをやっていた。
とても賑やかで、楽しそうなのが、母屋に居る私にも伝わってきた。
 
そんなお義母さんも、数年前に病に倒れ、
離れの家はとうとう主を失ってしまったのだった。
 
お義母さんが倒れたばかりの頃には、
離れにも多少の出入りをしていたが、
徐々に用もなくなり、足が遠のき、
今では寄り付くことさえなくなってしまった。
 
かつて栄華を誇った賑やかな我が家の洋館は、
ときに、背後に迫る裏山に飲み込まれそうな気さえする。
その生活感を失った建物は、化け物屋敷のように見えなくもなかった。
 
 
陽が落ちて、薄暗く、肌寒いある夕方のこと。
キッチンのお米を切らしたため
私は庭の倉庫へお米を取りに行った。
 
倉庫から取り出した10キロほどのお米の袋を抱えると、
母屋に戻る際に、視界の一部に違和感を覚えた。
 
ふと、そちらに目を向けてみると、
誰もいないはずの離れの二階の一室に
煌々と灯りがともっているではないか。
 
「え? なに? 
なんで? ちょっと、やだ、怖い……」
 
鳥肌が立った。
恐怖でお米の重さなど気にもならず、
私は逃げこむように慌てて母屋の中に入り、
すでに帰宅していた次女に事の次第を
興奮気味に話して聞かせたのだった。
 
実はこういう現象は過去にも数回あったのだが、
それは原因がはっきりしていた。
離れの二階の電灯は、停電があると、
復旧したときには「灯りがつく」という仕組みになっている。
その条件での点灯は数回経験して知っていた。
 
しかし今回は、停電などはなかったはずだ。
電気工事も落雷もなかったし、
ブレーカーが落ちたなどということもないはずである。
 
なぜ、誰もいないはずの離れに灯りがついているのだ?
 
「泥棒がいるの? 心霊現象? なんだろう?
ねぇ、ケイちゃん、怖い。怖いね……」
 
私は恐怖心を紛らすかのように、
あれこれ一通り思い付くことを口走ったあと、
恐る恐るもう一度、離れの方を見た。
 
その瞬間、ゾッとした。
うめきに似た小さな奇声を漏らすと同時に足がすくんだ。
はじめに見たときは、一部屋だけが明るかったのが、
隣のもう一つの部屋にまで灯りがともっていたのだ。
恐ろしさのあまり、すぐにそこから逃げ出したかった。
しかし、そうもいかない事情もあって
ブルブルと震え、怯えながら、次女と一緒に
生きた心地のしない時間を過ごすことになった。
 
2時間ほどして夫が帰宅すると、安堵から全身の力が抜けていった。
夫には予め話を通してあったため、帰宅後すぐに対処してくれた。
 
「じゃ、行ってくるよ」
 
恐怖に怯える私とは対照的に
ちょっと用事してくるね、というような
拍子抜けするくらい軽いノリで、夫は離れに向かって行った。
何も持たずに。
泥棒がいたらどうするんだろう。
山から降りてきた獣が入り込んでたいたら……?
 
不安でいっぱいの私は気を揉みながら
夫が戻ってくるのをじっと待った。
 
10分ほど経った頃、夫が戻ってきた。
しかし、夫の様子が少しおかしい。
夫の姿を見た私は、全く事態が飲み込めず、混乱した。
恐怖や不安を通り越していた。
 
夫はずぶ濡れの姿で私の前に現れたのだ。
 
外へは出たけれど、雨など降る気配すらない天気。
しかも夫が今しがた行ってきた場所は屋根の下、屋内なのである。
 
なぜ夫は全身ずぶ濡れになっているのだ?
夫の身にいったい何が起こったというのだ?
 
私にはまったく考えが及ばなかったのだが、
夫は体を張って、今回の身の毛もよだつ怪奇現象の原因を
突き止めてくれたのだった。
 
夫の話によれば、
部屋の電灯を取り付けてある辺りの天井から
雨漏りをしているのだという。
 
天井から漏れ出た雨水が電灯に伝い、なんらかの形でそれが作用し、
二つの部屋の灯りがついたのだろうということだった。
 
雨漏りは夫の想像以上にひどかったようだ。
電灯のカバーの内側に相当の雨水がたまっており、
電灯を調べるためにそれを外したとき、
夫はその水を頭から浴びてしまったということだった。
 
雨漏りの心配をしなくてはならなくなったが、
夫のおかげで、今回の怪奇現象の原因が解明し、
私は胸をなでおろし、深い呼吸をひとつした。
 
しかし、その一方で私は、
「出来ない嫁だ!」 と、
離れの主であり、ともに厳しい教育者であった
祖父と祖母が私に怒っているのではないか? 
なんて、ありもしないそんな考えが拭いきれず、
なにか戒められた感じがしている。
 
背すじが凍ったり、背すじが伸びたり、
幾分、私の姿勢は矯正されたにちがいない。
 
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2017-11-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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