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ズボラな私が「その髪形いいね!」と誉められる理由


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

 
記事:べるる(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
「毎朝ブロウして、ワックスでセットしてくださいね」
美容室でこう言われると「はい、分かりました」と答えるものの、心のシャッターがガラガラと音を立てて閉まっていく。だって、ズボラだからそんなん出来ないし。髪の毛にそんなに手間をかけられない。この美容師さんとは、きっと通じ合えない。この美容室ももう通うのやめよう、となってしまう。
そもそも、美容師さんというのは美意識が高い人がなる訳で、私のような美意識なんて持ち合わせていない人とはきっと合わない人なのだ。かと言って私は恐ろしい程不器用で、セルフカットをすると大爆笑されるので、自分で切ることは出来ないし、1,000円カットに行く程割り切れない。
 
なので、関西に引っ越してきて、とりあえず駅前の美容室に行ってみた。そこで担当してくれたのが、西口さんだった。
 
レスリングの浜口京子ちゃんに似ていて、笑顔がかわいくふんわりした人だった。
「ブロウしてね」も「ワックスつけてね」も「夜ドライヤーしてね」も言わず、ズボラな私の髪の毛を「スタイリングしなくても、今っぽく見える髪形」にしてくれた。
 
西口さんは、カリスマ美容師みたいに、髪を持ち上げて派手にカットするなど、繊細で大胆! みたいな、はさみの使い方はしない。じょきじょきじょき、と切る。……本当だ。本当に、じょきじょきじょきと切る。
左右のもみ上げを何度も伸ばして、左右差がないように、緻密にカットするなんてこともしない。一度長さを比べて、じょきっと切って「よし」ってうなづいている。
 
決断だって早い。髪が腰まであるお客さんが
「ショートにしようと思うんだけど……。でも、もったいないかな。いや、やっぱりショートにしてください!」
と言ったら「はーい。分かりました」と言って、髪を1つにまとめ「じょきっ」と切った。
いやいやいやいや、西口さん。普通の美容師さんは、何度も止めますよ? 本当に切っていいんです? 切りますよ? いいんですか? って。
「いや、いいんですよ。本人はもう決めてるんだから。髪はまた伸びるし」
と、あっけらかんという。
西口さんにとって髪の毛は、緻密な計算で作り上げる芸術作品ではなくて、お客さんが自分を楽しむための一つのアイテムだと思っているのかなと思う。
失敗しても髪はまた伸びるし、一日一日状態も違う。だから、それを楽しめばいいのだよと。
 
私はもちろん西口さんが気に入り、ずっと、西口さんにカットしにもらいに美容室に通った。
 
西口さんの元に通って数年が過ぎたある日、
「べるるさん、私、韓国に行くんでお店やめるんです」
と、突然西口さんは言った。
一年間、韓国に美容の勉強をしに行き、帰国しても今のお店には戻れないのだという。
えええええー、そんなぁ。西口さんがいなくなる。
西口さんがいなくなったら、私はどこで髪の毛を切ったらいいのだ? 誰に切ってもらったらいいのだ?
 
そこから二年半。私は美容室難民だった。
 
どのお店もなんか違う。いまやコンビニの数より多いと言われている美容室。私が住んでいる田舎でさえ、情報誌には幾つも美容室が掲載されているし、街を車で走れば至るところに美容室がある。でも、行きたい美容室がない。ない。ない。
髪を切るだけなのに、行きたいお店がないのだ。
 
もう、髪の毛を切ることをあきらめようかな、とすら思い始めた時、西口さんが帰国し、お店を出店したという話を聞いた。
私はすぐにお店へ向かった。
 
古い町屋を改修したその美容室を、私は一目見て気に入った。
ガラガラガラと引き戸を引くと、そこにはお客さんと話す西口さんの姿があった。
「えー! 何でこのお店分かってくれたんですか~?」
と、笑顔で私を出迎えてくれた。
「西口さん帰ってくるのを待ってたんですよ! また切ってくださいね!」
店内は、西口さんのセンスが溢れる心地よい空間だった。親戚の大工さんと何度も打ち合わせをして、町屋という魅力を生かしながら、自分の好みの内装になるように、工夫を重ねたという。
「えぇ、切りますよ」と笑顔で答えてくれた西口さんに、カットの予約をしてその日は帰り、後日改めてカットしてもらった。
 
西口さんは、相変わらず西口さんだった。ズボラでも今風の髪型にしてくれるし、じょきじょきじょきとハサミを操り、にこにこと話を聞いてくれる。
町屋を改修したお店は、私の友達も絶対に気に入る! と思って、会う人会う人に薦めた。
おしゃれできゃぴきゃぴした友達が2回も、「べるるのその髪型いいなー」と言うので、西口さんのお店を紹介した。友達と西口さんのセンスはきっと合う。
 
西口さんのお店には、シャンプーも置いてあるけど、西口さんは決して薦めない。
「置いてますか? って聞かれたら、ここにありますって言うんだけど、買ってくれると悪いなって思っちゃうんだよね」という。
でも、私は西口さんからシャンプーを買っている。ネットやドラックストアで買ったほうが安いかもしれない。でも、私の髪を一番知っているのは西口さんだ。だから西口さんから、私はシャンプーを買うのだ。
もはや、私の髪の毛はすべて西口さんにお任せしている。私のスタイリストである。
 
「友達がもう白髪染めしてるっていうんですよ。でも私ズボラだから、染め続けるっていうのが出来ないと思うんですよ」
と、相談すれば
「大丈夫です。べるるさんみたいな人向けの染め方があって、それだと3ヶ月に1回ぐらい染めたら大丈夫なので、問題ないです」とにっこり。
 
「産後、おでこが広くなった気がする。はげてきたらどうしよう。髪も少なくなった気がするし」と言えば、
「大丈夫です。べるるさんは髪の毛が元々多いんです。あとウィッグも取り扱っているので、問題ないですよ」と、またにっこり。
 
ほら、西口さんは何でも解決してくれるのだ。
 
「じゃあ、西口さん、脱毛ってどこかお勧めのお店ありませんか?」
と、髪の毛と関係ないけど美容関係の質問をしてみた。
「うーん。私自身は毛が薄いので詳しくないんですけど、友達は○○とか言ってましたね。でも、毛っていうのは、生えていることに意味があるんだと思うんですよね」
西口さんのその言葉に私はハッとして、
「あ、ごめんなさい……」
と反射的に言ってしまった。
西口さんはにこにこしながら、「あ、でももう昔のことですから。もう今はそんな事あったなぁって感じですから」と言ってくれた。
 
西口さんは、韓国に行く前に癌が見つかり、一年間闘病していた。
 
私が知ったのは、町屋を改装したお店で初めて髪を切った時だった。
韓国に行く前の人間ドッグで癌が見つかり、1年間闘病してから、韓国に向かったこと。
好きなことをして生きよう! と思ったので、帰国して町屋で美容室をオープンさせたこと。髪の毛が抜けてしまう人でもこれる美容室にしたいこと。美容室に来れない人の為に訪問して髪を切る仕事もしたいこと……。
 
西口さんみたいな人が何で病気に……と、すごく驚いた。ほんわかして、きびきび仕事をこなし、病気になる要素なんてひとつもないような人が……。しかもまだその時西口さんは、34歳ぐらいだった。若かった。
 
「韓国行きを決めたから、早期に病気が見つかったんでラッキーでした。店なんてオープンさせちゃって、不安しかないんですけど、ま、どうにかなると思ってます」
と、ふんわりした笑顔で西口さんは言う。しなやかさの中に強さがある柳のような人とは、まさに西口さんのことだと思う。
 
西口さんは夢を着実に叶えている。
最初に願ったことは全て叶え、お店の空きスペースでネイルやフリマやアクセサリーの販売、野菜の青空市もしていて、もはやここは何屋か分からないぐらい、色々なことをしている。素敵な彼と結婚もし、旅行も楽しんでいる。
お客さんもどんどん増え、私のようなズボラだけでなく、女子力の高い中学生から、60過ぎのおばちゃんまで幅広い層が通っている。
西口さんの魅力をもってすれば、叶わない夢なんてないだろうな、と思う。
 
私は、これからもずっと西口さんに髪の毛をきってもらいたい。ずっと、ずっと。
娘にもう少し髪の毛が生えてきたら一緒に通いたいし、私がおばあちゃんになるまで、ずっと通いつづけたい。
 
西口さんのお店は、駅からだと歩いて1時間ぐらいかかるところに、ひっそりとある。
なんでそんなところに……と思うが、それも西口さんらしいな、と思うのだ。
 
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2017-11-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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