プロフェッショナル・ゼミ

見栄っ張りな彼は、籠城戦を繰り返す《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:高浜裕太郎(プロフェッショナル・ゼミ)
※このお話はフィクションです。
 これは、私がまだ、小学生だった頃の話だ。
 とても憎たらしい奴がいた。けれども、そいつは、私の親友だった。名前はシンジという。
 私は、シンジとは長い付き合いだった。幼稚園の頃から一緒に遊んでいるから、もう5年くらい一緒に遊んでいることになるのだろうか。小学生の私が感じた5年は、とても長い時間だった。時間という川の流れが、大人になった今よりも、ゆるやかだったような気がする。だから、とても長い時間を、私はシンジと一緒に過ごしていた。
 
 
 けれども、シンジは憎たらしい奴だった。その傾向が表れ始めたのは、小学校3年生くらいだっただろうか。
 はっきりとした時期は覚えていないが、気付いたら、彼は凄く物知りになっていたのだ。
 例えば、私を含めた、友人同士の会話で、あるテレビ番組の話が出たとする。私は、両親がニュースばかり見る人だった為、同じ時間帯でやっているバラエティ番組は、ほとんど見たことが無かった。けれども、私の友人は、バラエティ番組の話をする。ある芸人が、どんな面白い事を言ったということを、嬉しそうに話すのだ。
 しかも、ただ話すだけではなく、まるでその番組を、自分だけが見つけた宝物を見せびらかすかのように、語るのだ。「ねぇ、昨日のあの番組みた?」という言葉は、「ねぇ、こんな宝石見たことある?」という言葉にも似ていた。小学生というのは、何かと、「自分しか知らないもの」を見つけたがる時期なのかもしれない。私の周りの友人は皆、テレビという洞窟へ潜っては、自分だけの話のネタ、つまり宝物を見つけるのだ。
 
 
 けれども、シンジは彼らと違っていた。もっと言うと、彼らよりもタチが悪かった。彼らと同じように、テレビのバラエティ番組のネタを言いふらしたりもした。そこまでは、他の友人たちと変わらなかった。彼が、他の友人たちと異なっていたのは、人の話を聞く姿勢だった。
 
 「ねぇ、昨日のあの番組みた?」
 「みたみた!」
 「あの芸人のネタ、面白かったねぇ!」
 「あのへんな顔をするやつだろ?」
 
 ここだけ聞くと、何ら変な会話には聞こえないかもしれない。けれども、シンジは、いつも、誰にでも、どんな話題でもこんな態度を取るのだ。もっと言えば、彼には「知らないこと」というのが、無かった。
 
 私の周りの友人が、どんな選りすぐりのネタを持ってきても、シンジは既にそれを知っていた。シンジは、周りの友人が、洞窟の中を必死に探し回って、やっと見つけた宝石を見せられても、「それ、俺も持っているよ」なんて平気で言う奴だった。ずっと彼と一緒にいるけれども、彼が「知らない」とか「へぇ、なにそれ!」なんて言った事は、ほとんど無い。大抵の場合は、「それ知ってる」と言うか、話そのものに興味を示さないかのどちらかだった。
 
 私は、彼のこういう態度が、どうにも苦手だった。彼には知らないことが無いのだろうかとも思った。けれども、例え知らないことが無かったとしても、「へぇ、それは知らなかった!」なんて言って、「負け」を認めれば、宝物を見せた友人も、少しは喜ぶのにと、小学生の私は思っていた。
 
 一度、本気でシンジとの友人関係を断ち切ってしまおうかと考えたこともあった。彼の態度は、時間が経っても少しも変わらなかった。周りの友人も、彼の態度に、だんだんイライラしてきているようだった。自然、彼に話しかける人も減っていった。
 私は、結局彼との友人関係を断ち切れなかった。何だか、彼のことが可哀そうに思えてきたのだ。彼に話しかける友人が減ってしまったことも、可哀そうに思った。それとは別に、私は、彼が何か大きな悲しみを抱いているように感じたのだ。彼に友人が減ってしまった事への同情と、彼の中の悲しみへの同情。この2つの感情が、彼と私を繋いでいた糸を、繋ぎとめたのだ。
 
 
 私が小学校4年生になって、数か月経った。
4年生のはじめ辺りから、シンジを嫌いだす人が増えて、シンジは友達が少なくなっていた。私は今でも、彼との友人関係は続けていたが、人間関係のシビアな小学校という空間である。私がシンジと仲良くしていたら、私まで嫌われてしまうかもしれない。そんなことを、私は考えていた。けれども、彼と縁を切ってしまうのは、何となくはばかられたのだ。まるで、誰かに「それは、やっちゃいけないこと」と教えられたかのような、罪悪感があった。おそらく、彼への同情からきたものだろう。だから私は、彼と友人関係を続けていた。
 
 そんなある日、私は驚くべき光景を目にした。
 それは、昼休みだったと思う。給食の時間を終え、私は教室で、友人たちと話をしていた。昨日見たテレビ番組の話とか、クラスの男子の誰かが、女子の誰かのことが好きらしいとか、そんな話をしていた。
私たちは、未だに、宝物を見せるかのように、話をしていた。特に、クラス内の恋愛沙汰に関しては、宝物のランクも高かった。より多くの秘密を持っている人のところに、人だかりが出来たものだ。私も、そんな秘密に興味があった。だから、秘密を聞く為に、友人のところへ集まっていた。
 
そして、私はふとクラスの外へでた。お手洗いにでも向かっていたのだろう。その途中に、妙な人影を目にした。その姿は、非常階段の方へと消えていった。
私は後を追った。おそらく、私には確信があったのだと思う。今、非常階段の方へ消えていったのが、シンジだということに。
ただ、あの時なぜ、私はシンジを追ったのか、分からない。正直、放っておけば良かったと、今でも思う。あんな光景を、目にするくらいだったら。
 非常口と書いてある扉を開けると、そこは外に繋がっていた。螺旋階段になっていて、1階まで降りられるようになっている。外は曇りで、秋の冷たい風がビュウと吹いていた。そんな風と一緒に、誰かの声も聞こえてきた。
「うっ……うっ……」
 
 私は、螺旋階段を少し降りた。なるべく、足音を立てないように、そろそろと降りた。すると、男の子が、階段に座って泣いているのを見つけた。シンジだった。
 俯いていたので、どんな顔をしていたのか分からない。泣き顔を見たのかと言われれば、そうではない。けれども、あれは泣いたと思う。嗚咽を漏らしながら、泣いていた。
 
 私は驚いた。彼が泣いているのなんて、初めて見たからだ。いつも、何でも知っていたシンジ。他の友人との知恵比べでは負けなかったシンジ。どんなに綺麗な宝石を見せられても、目もくれなかったシンジ。1年前まで、私が憎たらしいと感じていたシンジが、今目の前で泣いているのだ。
 私は、彼が泣いている理由を探りはしなかった。いや、そんなことにまで、頭が回らなかったのだろう。ただ、彼が泣いているという事実だけが、衝撃的だった。
 
 
 そんな彼の光景を目にした数日後、もっと衝撃的な出来事があった。
 それは、たぶん国語の時間だったと思う。私の学校の国語の時間は、その日の日直の人が、教科書に書いてある文を読むことになっていた。その日は、シンジが日直だった。
 「はい、じゃあシンジ君。次のページから読んでね」
 シンジはむくっと立ち上がり、教科書を高く持って、いかにも自信たっぷりという感じで、読み始めた。数日前に、非常階段のところで泣いていた人と同一人物だとは、思えない程だった。そんな彼の態度が、敵を作ったりしているのだけど。
 
 ふと、彼の声が止んだ。ページが終わったわけではない。まだ残っている。「群衆は、口々にこう言いました」の文で、彼の声はピタッと止んでしまった。
 異変に気付いたのは、周りも同じだった。少し、周りがざわざわし始めたのだ。それは、そよ風が吹くくらい小さな反応だったけれども、シンジは、気になってしょうがなかっただろう。
「シンジ君、どうしました?」
 
 先生も異変に気付いた。けれども、そこは先生だ。シンジがなぜ、次の一文を読まないか、分かっている。
 
「ぐんしゅうは、くちぐちにこういいました」と先生が言うと、シンジもそれに次いで読み始めた。なんてことは無い。「群衆」という漢字が読めなかっただけだ。もちろん、彼以外にも、この漢字を読めない人はいるだろうし、日直が国語の音読をして、詰まることなんて、そう珍しいことではない。
 
 けれども、私はシンジの変化に気付いた。シンジは一通り読み終えた後、着席した。その顔は、真っ赤になっていた。普段、シンジのことをよく思わない連中も、シンジの悪口を、ひそひそと言っているようだった。それは、私にとってみれば、近くで蚊が飛んでいるかのような、さほど気になる問題ではなかったのだが、シンジには、私が聞こえたよりも、何倍も大きな声で、聞こえたことだろう。
 
 授業が終わると、シンジは廊下へと走りだした。私は、彼の行先を知っていたので、そうっと、彼の後をついていった。
 非常口と書いてある扉を開ける。あの日、シンジを見つけて、この扉を開けた時よりも、なぜか重さが増したように思えた。
 秋の冷たい風がビュウと吹きこんでくる。あの日と同じだった。そして、螺旋階段を少し降りたところに、あの日と同じ場所に、シンジはいた。
 
 「うっ……うっ……」
 
 彼はまた俯いて、泣いていた。もっとも、私は泣き顔を見てはいない。彼が、あの日のような嗚咽を漏らしたから、泣いていると思ったのだ。
 私は、その様子をしばらく見ていた。そして、少し考えてみた。なぜ、彼は泣いているのか。
 友達が出来ないから。そうかもしれない。音読でミスをしてしまったから。そうかもしれない。色々と心当たりはある。彼が泣いてもいい理由なんて、いくつもある。けれども、一体何が本当の理由なのだろうか。私は、ゴミで溢れた山から、1つの宝石を探すような、まるで宝探しをしているような感覚を覚えた。本当の理由というものを、考えていた。
 
 結局彼が泣いたわけは、分からなかった。当時の私は、「色々と辛いことが重なったのだろうな」くらいに考えていた。確かに、それもあるだろう。けれども、大人になった私が、当時のことを振り返って考えた時に、「彼は籠城戦をしていたのかもしれない」という1つの結論を出すことが出来たのだ。
 
 籠城戦というのは、城に籠って戦う戦法だ。城にある食料や資源などを、あるだけ使い、出来る限りの戦いをする。そんな戦法だ。
 そして籠城戦は、城の外から見えない問題を、城の内側に抱えていることもある。例えば、城の外では、何一つ問題など抱えていないように見えるが、城の外では、食料の不足や、武器の不足など、様々な問題を抱えている場合もある。要は、外側は綺麗でも、内側は崩壊している場合があるのだ。
 
 シンジのとった姿勢は、籠城戦の姿勢のようでもあった。シンジは、私を含めた周りの友人に、決して弱みを見せなかった。自分が知らないことなど無いように振る舞った。仮に知らないことがあっても、すぐにその話題から興味を失くした。その態度、つまり相手に自分を強く見せる態度は、多くの人からの反感を買った。けれども、彼はその見栄っ張りな姿勢を続けていたのだ。
 
 しかし、彼の見栄っ張りは、おそらくシンジ自身も気付かない間に、彼の心を壊していたのだ。例えば、自分だけが知っている秘密を、持つことが出来なくなったこと。他の人が読めるような漢字を、自分が読めなかったこと。この事実が、彼の心を苦しめたのだと思う。
 本当は、彼は「何でも出来る人」になりたかったのだと思う。実際、「何でも出来る人」の仮面を被って、生活をしていた。けれども、ある日を境に、彼の理想と、自分の置かれている現実とのギャップに、耐えられなくなったのではないだろうか。自分が思い描いている理想と、今の自分が、あまりにもかけ離れている。だから、彼は泣いていたのではないだろうか。
 
 思えば、私が彼に感じた、大きな悲しみ。あの時、彼自身の心が、壊れてしまっていることに、私は気付いていたのかもしれない。だから、私は彼を可哀そうだと思ったのだ。まるで兄が弟を気遣うように、こいつを私が守ってやらなければいけないと、思ったのかもしれない。
 
 
 螺旋階段で泣いたあの日以降、彼の態度は、少し柔和になった。彼の中でも、何か気付きがあったのだろうか。自分の中で葛藤を繰り返した末に、何か答えを見つけたのかもしれない。その日から、彼の周りには、少しずつ人が寄り付き始めた。完全に、彼の態度が改まったわけではないけれども。
 
 
 最近、彼と会う機会があった。その時、彼の口からは、「いやー俺さ、今度大きな仕事を任されることになっちゃって……困ったなぁー」なんて言葉が聞こえてきた。
 小学生の時ほど、明らかではないけれども、彼は未だに、私や誰かと「勝負」をしているのかもしれない。別に、明らかに火花を散らしているわけではない。けれども、彼の中に潜む本能が、「俺は凄いやつだから、もっと俺を見てくれ」と未だに叫んでいるのかもしれない。だから、あんな自慢話をするのだろう。
 
 その話を、私は、「そんな見栄を張るの、止めればいいのに」と思いながら、聞いていた。
 
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