メディアグランプリ

自分の子を育てて、生きづらさのルーツに気付く


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記事:Kaori(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 まるまると太り、日焼けした手足、二重顎、小さくて低い鼻、薄く太いまゆげ、私が短く切り過ぎた前髪。細い目が三日月のように細くなり、ほっぺがむっくりと膨らんで、私に笑いかける。可愛い。すごく可愛い。私も思わず微笑む。けれども、幸せな気持ちになりかけると、緩んだ心の隙間からひたひたと悲しい記憶が入り込んできて、泣きたくなる。
 
「私の子なのに、どうしてそんなにブスなの?」
 
 母の怒りが爆発して、私が泣き始めると、いつもその言葉が出た。
 私だって好きでそうなったわけではない。誰からも美人だと言われる母親からなぜ私が生まれたのか。結婚前はたくさんのラブレターをもらい、縁談も多かった。大きな旅館のおかみさんが学校の前で待ち伏せしていて「跡継ぎの嫁に来てくれないか」と持ち掛けてきたこともあったという。
 そうした言葉が出るのは怒っている時だけではなかった。私は生まれてすぐから顔が大きく、病院でも「お母さんより大きい」と笑われたという。体重も4キロ近く、ジャンボちゃんというあだながついたそうだ。少しも面白くなかったけれど、母があまりに嬉々として話すので、私はおとなしく聞いていた。少し大きくなってからは、「自分の失敗作でしょ」とか、「パパが悪かったんじゃないの?」と返し、笑い話として片付けようとした。私はどちらかといえば勉強ができる方だったので、見た目については気にしていないつもりだった。
 やがて結婚し、自分の子どもが生まれた。二人とも男の子だったけれど、不細工でも可愛いということに気付いた。誰になんと言われようと、隣に器量良しの子が微笑んでいようと、自分の子に目を奪われ、美しくさえ思えるのだ。
 やはり母は少しどこかおかしかったのではないか?
 母の名誉のために言っておくが、それ以外は問題がなかった。むしろ熱心な母親だった。過保護なところはあったけれど、一生懸命育ててくれた。実は料理嫌いだったということは感じさせないくらい、いつもおいしいものを作ってくれた。勉強もよく見てくれた。貧しい中ピアノも習わせてくれた。少しでも可愛く見せようとして洋服もたくさん作ってくれた。よく怒られたけれど、当時としてはしつけの範疇には収まっていたと思う。自分はそれほど熱心な母親ではないからこそ、本当によくしてくれたと感じている。
 でもいろいろしてくれたなと思い起こそうとすると、あの言葉が塗り消してしまう。積み重ねられたカードの一番上が黒ければ、その下が仮に白かったとしても、全て黒だろうと感じる。大人になり怒られることも減り、赤ちゃんの時の笑い話も聞く機会は減っていて、一番上のカードは白かった。だからそっとしておけば良かったのだ。でも私は心の奥底でくすぶっていた火を消したくてたまらなくなっていた。
 そして私は思い切って、母にその話を持ち出した。「若かったからね、パパも給料少なくて毎日大変でイライラしていたからね、ごめんね」と言ってもらえるのではないかと考えていた。そうすれば心が晴れる気がした。けれども、母親からはどうしようもない答えが返ってきた。
「だって本当に不細工だったんだから、仕方がないじゃない」
私はどうしても謝ってもらいたかったので付け加えた。
「でもそれは子どもに言うべきことじゃなかったんじゃないかな」
母は黙った。
「それはそうだね」
そこまでは認めてくれたけれど、結局「ごめんね」の一言はもらえなかった。淡い期待が見事に砕かれた。
 母と私の間に積みあがったカードの一番上に、再び黒いカードが乗せられた。
 
 三人目が女の子だと分かった時、周りにはちょうど良かったねと言われた。でも実は怖かった。二人の男の子を可愛いと感じるのは異性だからなのかもしれない。母も弟のことは可愛いとよく言っていた。私が同性だったからうまくいかなかったのではないか。赤ちゃんから女の子に変わるにつれ、可愛くないと思うようになってしまうのではないか。
 けれど育ててみると、私の女の子はとびきり可愛かった。
 まるまると太り、日焼けした手足、二重顎、小さくて低い鼻、薄く太いまゆげ、私が短く切り過ぎた前髪。細い目が三日月のように細くなり、ほっぺがむっくりと膨らんで、私に笑いかける。可愛い。すごく可愛い。私も思わず微笑む。
 母のあの言葉がよみがえって、ぽろぽろっと涙がこぼれる。止まらなくなって、声が出てしまう。40過ぎたおばさんが、全く、何をしているんだろう。母が見たら、醜い顔して気持ち悪いっていうのかな……。
 二歳の娘が私の首に手を回して「ママ泣かないで、怖くないよ、大丈夫だよ」と言ってくれる。片手で私の背中をとんとんしてくれる。ユーチューブを見ていた次男が他の部屋から走ってくる。
「ママどうしたの? 大丈夫?」
いつになく真面目な顔で覗き込む。
「うん、悲しいこと思い出しちゃって……」
「どうしたの? 何があったの?」
少し迷ってから、私は言ってみる。
「ママ、可愛くないって言われちゃったの」
「誰がそんなことを言ったの?」
ばあばだよ、とは言うわけにはいかない。
「ひみつ。ママ可愛い?」
「可愛いよ」
「ホントに? ありがとう」
長男も様子を見に来た。私は三人の子どもたちをぎゅーっと腕の中に閉じ込めた。母も私がこんなに気にしているとは思っていないのだろう。私自身でさえ生きづらさのルーツが分からなかったくらいだから。
 私はこれから先、大丈夫だろうか? 子どもたちに、こういう思いをさせたりはしないだろうか? 同じような言葉で傷つけることはないにしても、何か他のことで生きづらくしてしまうことはないだろうか。
 ただひたすら、毎日を丁寧に過ごしていくしかない。この子たちなら、ひどいことを言ったら、すぐに教えてくれる気がする。そうしたら、せめて「ごめんね」をちゃんと言おう。
 
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2017-11-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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