メディアグランプリ

ノーベル文学賞で、書店人は眠れない


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記事:山田拓也(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
「カズオ・イシグロ!?」
世界中の書店員が叫んだに違いない。
そして日本の書店で働く僕も、売場にいた皆と一緒に叫んだ。
 
2017年10月5日の夜、それは今年のノーベル文学賞が発表される日である。時差の関係で夜になってしまうが、テレビ取材もお店に入り、「今年こそは村上春樹!」という雰囲気で、スタンバイをしていた、そんな中での受賞者発表のニュースだった。
 
ノーベル文学賞、それは数ある作家に対する賞の中でも、もっとも権威ある賞の一つで、文学界や出版業界の外まで、一般ニュースに取り上げられるほどの巨大な文学賞である。川端康成や大江健三郎の例を見るまでもなく、日本人の文学作品が翻訳されて受賞したケースもあるが、ここ最近は海外の作家ばかりが続く。
 
受賞の影響が大きすぎてある程度政治的な配慮が働くせいか、作品だけではなく、そろそろ非英語圏の出版といった具合に、作家そのものの人物も含めて選考されているらしい。選考基準が公表されていないため、確認はできないけれど、そういった根拠も含めて、毎年「今年はXXに違いない」という会話が世界中の出版業界でささやかれる。
 
普通の文学賞に興味がない人でも、NHKなどのニュースで受賞者が取り上げられると「どれ、読んでみるか」となるもので、毎年書店にとっては売上が期待される、大きなイベントである。皆で事前の噂に右往左往しつつ、受賞者予想に基づいて商品を揃えて、発表をじっと待つ。
 
僕が勤務するような便利な場所にある書店だと、マスコミの取材も来るので、「祝・村上春樹ノーベル文学賞受賞」なんていう巨大ポスターを、事前に何枚も作成したりと、その日は仕事にならない。それだけに昨年のように、ボブ・ディランが受賞だったりすると、販売する書籍がないので、業界をあげてがっかりする。
 
2017年度の受賞者が発表されると、今年こそは村上春樹だろう、と踏んでやってきたマスコミ取材陣は「カズオ・イシグロ? 日本人ですか? 本はどんなのがあるんですか?」という質問を店員に投げかける。「早川文庫で出ていますね。彼は5歳から英国に在住しており云々」と代表スタッフが答えるスキに、文庫担当スタッフが猛烈なダッシュで文庫棚へ走り、著作を持ってくる。テレビに売場の後継と一緒に、映してもらうためだ。
 
夜遅くなのに、仕入担当者は出版社営業さんにホットラインをかけ、在庫を全部明朝持ってこいと、無理難題を吹っ掛ける。在庫だけでは全然数が足りないので、すぐに緊急決定されるであろう、重版分からの確保交渉が、店の片隅で延々と続く。店内ポスターは全て新しいものを翌朝までに作成することになり、店内の陳列全体もやり直し。夜を徹して作業は続き、そして翌朝は早朝からの店頭キャンペーンと新聞の取材が確定しており、準備のためにその夜は寝る間もなく騒ぎが続く。
 
久しぶりに日本に縁のある作家の受賞ということもあって、翌日は朝のテレビニュースや新聞で大きく「カズオ・イシグロ」という作家が報道された。開店時間と同時に、受賞祝いの騒ぎにはお客様も加わり、もはや狂宴という状況が店頭で繰り広げられた。お店では飛ぶように本が売れ、同時に「どれが一番おもしろい?」といった答えにくい質問も増え、予約を希望する電話は鳴りやまない。
 
嬉しい悲鳴を上げつつも、在庫確保に四苦八苦する文庫担当者はプレッシャーを受けて、「目の奥と後頭部が痛くて、全然眠れません」という発言をしているし、売り切れという状況にご立腹されるお客様に毎回対応する僕も、痛む胃をなだめつつ眠れぬ夜を過ごす。
 
原著は英語だが、フランス語、ドイツ語といったヨーロッパ圏はもちろんのこと、中国語やタイ語といったアジアの言語にも翻訳されている。世界中で同様のお祭り騒ぎが繰り広げられたことだろう。その風景を想像するのは、少し楽しい。
 
そして書店勤務なので、騒ぎが少し収まってからの入荷本は、もちろん自分で購入する。
 
カズオ・イシグロは何作品も書いており、どれもが世界中で高い評価を受けている。「日の名残り」「わたしを離さないで」、最新作の「忘れられた巨人」、どれもしっかりとしたページ数があり、ライトなノベルとは対極に位置する、濃厚な文学作品だ。
 
手にした本を括り始めると、その作品の力に圧倒される。翻訳本なので作家の言葉そのままではなく、一段階のフィルターがかかっているはずなのに、作家の個性が感じられ、登場人物の描写、行動、そして物語の行く末が意識を大きく占めてしまい、時間の経過を忘れてしまう、そんな読書経験を久しぶりにした。さすが、ノーベル文学賞。そんな陳腐な感想が口から洩れる。
 
かくして寝る間も惜しんでの読書は続き、さらに書店人の眠れない夜は続いていく。
そんな幸せな眠気が続くのが、ノーベル文学賞前後の書店人生活である。
 
来年は誰が受賞するのかな?
今から、楽しみだ。
 
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2017-11-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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