メディアグランプリ

ひと夏の恋を永遠に


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:Ruca(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
「お久しぶり。これからのレースに向けて、乾杯」
元同僚と久しぶりに顔を合わせた。
彼とは仕事での付き合いはもちろんだが、ランニング関連のイベントの方がたくさんの思い出がある。
お互いに職場が変わってからは、定期的に近況報告を兼ねて仲間の店で食事をするようになった。そこは最高に美味しいお造りを食べさせてくれる。
その日は、私たちのためによく見かける魚の他にサンマや白魚の稚魚、今シーズン最後のカツオや貝柱が美味しそうに盛り付けられていた。
 
「この夏はずいぶん忙しそうやったけど、一体何をしていたの?」
彼との約束を何度も先延ばしにしていたのだから、答える義務はある。
それも丁寧に答えなければならない。
だけど、どれから食べようかと目の前のお皿が気になり、彼との話どころではなかった。
 
「ちょっとね。挑戦がしたくてさ」へへっと微笑んでみた。
あまり自分のことを話すのは好きじゃない。
だけど不思議なことに、彼には素直に話せてしまうのだ。
 
サンマのお造りを頬張ってから、
「あのね、ランニングの勉強をしたの。それから、ライティングゼミっていうクラスに参加してみたの。そしたらね、もう想像ついていると思うけれど、楽しくてセロトニン大放出状態なの」と答えた。
当たり障りのない導入部分の返事だった。
彼の興味具合を探りながら続けた。
「そのね、指導者がちょっと個性的で素敵なのよ」
 
 
話しながら、私は恋をしている気分だった。
目の前にいる元同僚にではない。
 
夏の日のトピックスといえば他にもある。
もっとキラキラした思い出もある。
だけど、2人の指導者との出逢いは夏を象徴する衝撃的なものだった。
 
何かを学びたいと思った時、自分の指導者となる人を選ぶことに関しては結構厳しい。
情報をかたっぱしから調べる。
その人が醸し出す雰囲気や生活感が好きか嫌いかで大概は決める。
 
そうして選び抜いて出逢った2人は、どちらもが三浦という名前だった。
三浦という名前に私好みの人が多いのかとも思ったが、他に思い当たる人はいなかった。
2人の三浦は、性別や年齢など私が知る個人情報の他に、多くの共通点があった。
 
とにかく自信に溢れている。
経験から得た手応えだけでコンテンツを作り出すのではなく、センスが大きく関係している。
素直に話を聞かせてしまう説得力が隠されている。
時流が読めるのだろう。
そして、いつも楽しそうなのだ。
一人の三浦はナルシストかもしれないと思うような写真が多くアップされているが、無駄を省いた鍛えられた筋肉を垣間見せる写真は、胸がキュンとするほどカッコよかったりする。
もう一人の三浦は、少しはにかんだような笑顔の写真が多い。
被写体に向けてカメラをのぞいている時の方が数倍カッコいいなと思う。
2人とも絶対に努力の人である。
突き放すような冷ややかな時もあるが、まるっと受け止める暖かさで消されてしまう。
そして、とにかくお茶目なのだ。
 
彼らの話す内容で好きなトピックスがある。
名付けて「質と量理論」
 
物書きの三浦は「量が勝負だ」と折に触れて話す。
走る三浦は「質が大切」と話す。
 
「PCに大量の文章を打ち込んでも指を骨折したりしないよな。量をこなしても害はないよね」物書きの三浦がゼミの中で話していた。
枯渇するまでアウトプットする。
呼吸と同じだ。吐ききれば嫌でも空気は肺に入る。
この繰り返しによって肺活量が多くなるように、スキルも上がるのだろうか。
無意識に書けるのだろうか。
いやきっと、無意識にできるようになるまで量を積めということなのだろう。
まずは努力。
努力にセンスが備われば三浦の域に近づけるのかもしれない。
 
速く走るためのトレーニング方法はたくさんある。
しかし、私は速く走ることをメインには捉えてはいない。
身体に故障を作らない走り方を身につけ、走ることを存分に楽しみ、その結果として速く走れていれば最高だ。
無理のあるトレーニングで量をこなしても、身体を壊しかねない。
質の高いトレーニングを取り入れて身体の状態を最善にすることが大切なのだ。
しかし、身体の状態が最高ならばメダルが取れるわけでもない。
「いい状態で量をこなせば結果が出る」ということを、走る三浦は言わないのだ。
それは物書きの三浦が「量が全てだ」と言いながら、「その結果、質が上がり、さらにまた量にチャレンジするのだ」と言わないのと同じだ。
 
取り組みやすい部分だけを提示し、さあやってごらんと手を差し伸べてくれるプロの優しさなのかもしれない。
これも三浦流なのだ。
 
「量が全てだ」という三浦も「質が大切」という三浦も、両方が揃って初めて彼らがいるその世界に足を踏み入れられると気づかせたいのだろう。
 
私は気づいた。
 
私がするべきことは、質と量の取り組みを切り替える時期が早く来ることを心待ちにしながら、コツコツと継続し続けることなんだろう。
このウキウキする片思いのような出逢いを、ひと夏の恋にはしないと心に誓った。
 
***

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2017-11-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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