メディアグランプリ

感情のストック


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記事:蒼山明記子(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
今でも覚えている。
みよこちゃんの優しさを。
たった5歳で、私をかばってくれたその優しさを。
 
みよこちゃんは、家に遊びに行くといつも快く私を迎え入れてくれた。
その日は、みよこちゃんの部屋に、すでにみよこちゃんの友達が2人来ていた。
2人は私を見るなり、嫌な顔をした。
みよこちゃんは私に笑いかけ、中に入るよう促す。
みよこちゃんの友達の1人が、みよこちゃんを呼び寄せ、何か耳打ちをした。
たぶん、私を仲間外れにする策略だったのだろう。
5歳くらいの年齢は、正直にできている分、時に残酷なことを平気でできる。
 
でも、みよこちゃんは違った。
彼女は言ったのだ。
「そんなのかわいそうだよ」と。
 
みよこちゃんはいつも優しかった。
5歳とは思えない、ちょっとおしゃまな女の子だった。
同い年で家が近所ということもあり、よく遊んだ。
 
みよこちゃんは私にとって、たぶんはじめて友達の優しさを見せてくれた子だった。
 
でも、別れは突然やってきた。
ほどなくして私たち家族は別の区に引っ越しをすることになったのだ。
それ以来、みよこちゃんと会うことはなくなった。
 
それから4~5年経ったある日、私は母に連れられ街中に買物に行った。
そのデパートの中で、母が突然「あら! 奥さん!」と誰かに声をかけられた。
母も「あら!」と驚き、笑顔で話しはじめた。
その様子を私は横でぽかんと見ていた。
 
すると、母に声をかけてきたおばさんが、その後ろに隠れるようにしていた女の子に、
「ほら、あきこちゃんよ! 覚えてるでしょう?」と話しかけた。
母も私に、
「みよこちゃんだよ、覚えてるよね?」と声をかけてきた。
……みよこちゃんだ!
私はもちろん覚えていた。
あの優しかったみよこちゃん。
でも、私が「覚えてる!」と答える前に、彼女は首を横に振った。
おばさんは困ったように、
「小さかったからねぇ」と言った。
私は、覚えてるとも覚えていないとも、首を上下左右に振ることもなく、黙っていた。
 
2人と別れた後、母は私を気遣ってか、
「覚えてないなんてねぇ、仲が良かったのに」と言った。
私は、黙っていた。
 
実はあの時、不思議なほど傷つきもしなければ、悲しくもなかった。
今思い出しても、あの時の私の心の中は真っ白だ。
たぶん、私の中に“傷つく”という感情がなかったんじゃないだろうか。
 
“傷つく”というのは、複雑な感情だと思う。
相手にどう思われようとかまわなければ傷つかないし、何をされようと意識しなければ傷つかない。
でも、世の中は人間関係でできている。
それは年を重ねるにつれて複雑になっていく。
そんな中で、嫌われたくない、好かれたい、うまくやらなければなど、対人間への気持ちが芽生えてくると、“傷つく”ようになってくるんじゃないだろうか。
 
少なくともその時までの私には、そんな気持ちがなく、意地悪されたとしても“嫌い”や“嫌だ”という単純な感情しか持ち合わせてなかった。
その反対に “好き”や“嬉しい”や“楽しい”があり、大体をこれら5つの感情のみで処理できていた。
 
なので、みよこちゃんが私を覚えていないと知った時、優しくて大好きだった分、嫌いという感情がわくわけもなく、ほかに自分が持ち合わせている感情で処理できるものがないため、傷つくことも悲しむこともなく、何も感じなかったんじゃないだろうか。
 
じゃああの時、みよこちゃんは何を感じていたんだろう。
本当に覚えていなかったのだろうか。
私は、あの賢いみよこちゃんが覚えていないとは思えなかった。
みよこちゃんは大人びた子だったから、会わなかった4~5年の間に、私よりもずっとずっと、さまざまな感情が成長していて、いろんなことを感じ、複雑な思いがあったのかもしれない。
 
そんなふうに理解をしたのは、私自身もその後、成長とともに順調に人間関係にのまれ、感情が複雑になっていったからだろう。
私自身もどう扱っていいのか分からない感情のストックが急速に増えていった。
 
傷つくことを知った。
心の痛みを知り、他人への憎悪も覚え、無意識に人を傷つけることがあるのも知った。
気を使うことを知り、不安を知り、嫉妬を知り、人を好きになることも知った。
疲弊するほどに。
感情のストックが増えることは、良いことよりキツいことのほうが多かった。
 
そうして今、人生の中盤を超えて、私の頭の中は一周まわって単純化が起きている。
年齢とともに、自然とこれまでの傷も痛みも整理がつき、心も耐性がついて、“嫌い”や“嫌だ”、そして“好き”“嬉しい”“楽しい”のみで生きるのもいいじゃないと思うようになった。
 
だったらあの時のまま、何も考えていなくて単純な感情しか持ち合わせていなかった子供時代のままでいられたら幸せだったんだろうか。
 
そうは思えない。
 
単純な感情しか持ち合わせていなかったら気づけなかったことが今、痛みや傷としてストックされている。
どんなに過去を受け入れ、整理がついても、忘れることはない。
それは私の知恵となり、日常に生かすことができるのだ。
例えば、こうして書くことにも。
 
一度覚えた感情は、また発動する。
だからこれから先、また“傷つく”こともあるんだろうと思う。
その傷は、また私の中にストックされ、日常の景色や人の見方が多様に広がっていくんだろう。
 
だから今こそ感謝する。
私を傷つけたすべてに。
未だ感情の発動にハラハラしながらも受けて立つ自分に。
 
そして、私にはじめて友達の優しさを見せてくれた、みよこちゃんに。
 
 
***

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2017-11-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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