メディアグランプリ

沖縄の花嫁、あるいは着ぐるみの中の人になる覚悟はあるか


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記事:木佐美乃里(ライティング・ゼミ平日コース)
 
「やっぱり、結婚式は沖縄でやってほしい」
義父からそう言われたとき、やっぱりそうだよな、という気持ちと、嗚呼さようなら、わたしの理想の結婚式、というガックリした気持ちの両方が浮かんだ。
 
夫は沖縄出身だ。
福岡生まれのわたしが、彼と付き合い始めて驚いたことは数えきれない。
家で味噌汁を飲んだことがない、お雑煮を食べたことがない、靴下は真冬でもくるぶし丈のスニーカーソックス、台風がきても全然へっちゃら、でも学校が振り替えになって、冬休みや春休みがそのぶん短くなるからつらい、とか。
 
その中でもいちばん驚いたのは、結婚式に関することだ。
沖縄の結婚式は、招待客は300人くらいが一般的。500人くらいになることもあるという。
兄弟の人数が多い場合が多いし、従兄弟はもちろん、はとこや父親の友人なども呼ぶらしい。一人っ子で、従兄弟との交流もないわたしからすると、そこまでか……! と驚いてしまう。
そのぶんなのか、ご祝儀も安くて、だいたい1万円。料理はフレンチのコース料理などではなくて、中華などの大皿料理が各テーブルにきて、みんな各自でとって食べる。
それから、これは想像の範囲内ともいえるが、乾杯の前から、もうみんな飲み始めていて、最後はみんなで踊って終わる。
 
結婚式には、なにかしら憧れをもっている女性が多いのではないかと思う。わたしもその一人だ。
ささやかな結婚式でいい。むしろ、ささやかすぎるくらいの結婚式がいい。
近い親戚やごく親しい友人たちを招いて、顔の見える距離で、おしゃべりを楽しみながら過ごしたい。野原に咲いていたのを摘んできたような、小さいブーケを持って、ストンと落ちるようなシンプルなドレスを着て。音楽は昔から好きなあの曲をかけて……などと、妄想をふくらませていた。
夫も目立つことが苦手なため、結婚式も、しなくていいならしたくない、するなら少人数の結婚式で、というのが本音だった。
 
それでも、義父の言うように、沖縄流の結婚式を行うことに決めた。
郷に入っては郷に従え。
わたしたちは来年春から沖縄に移住する予定だ。
沖縄に生まれ育った彼は、わたしの気持ちも知っていながらも、沖縄の親戚同士の濃いつながりの大切さも身に染みてわかっているのだろう。
 
盛大な結婚式を、というのは、きっと義父にとって、最大級のお祝いの気持ちなのだ。
その気持ちはもちろんうれしい。結婚式をさせてもらえるだけでもありがたいことだ。
それでも、わたしの夢は打ち砕かれたような気がして、憂うつになってしまったのだった。
 
 
そんな気分のまま、職場の同期と、千葉にある人気のテーマパークに出かけた。みんなが夢の国だというあの場所だ。
わたしは訪れるのが10年以上ぶりで、ただ同期につれられるがまま、夢心地で園内を回った。
そのなかに、人気のネズミのキャラクターである「彼」と写真を撮ってもらえるブースがあるという。
へええ。まあ記念にとってもらうかと、並んだ。1時間並んだ。同期の3人は、終始キャッキャとはしゃいでいたけれど、なんと、写真を撮るだけなのに、1時間も並ぶとは! と内心あきれていた。
果たして、「彼」と対面した。
そこにいたのは、まぎれもなく「彼」だった。
かぶりものをしているから当たり前なのだけれど、そこにいたのは、仕草から何から、まぎれもない「彼」なのだった。ハグをしてくれたり、わたしたちの仕草を真似して笑いを誘ったりする。ああ! とわたしは思った。
あくまで、仮に、だけれど。仮に、「彼」に中の人がいるとして。
中の人があまりにも「彼」になりきっているのに、わたしは感動したのだ。
きっと中の人にだって、ああしたいとか、こうしたいとかあるだろう。もっとキレのある動きをして、思っていることをしゃべりたいとか、本当は「彼」じゃなくて、赤い水玉のワンピースを着た「彼女」になりたかったとか。自分の個性を認めてほしいとか、そういうこと。
でも、中の人は、いま、ひたすらに「彼」なのだった。
1時間、自分との写真を1枚撮るだけに並んできたゲストが、いま何を望んでいるか。どうしたら喜んでくれるのか。
全力で「彼」であり続ける姿に、たった数分、同じ場所にいただけのわたしは、不思議に涙さえにじみそうだった。
 
 
そしてわたしは、自分が憂うつな気持ちになっていたことを思い出した。
そうだ、自分があんな結婚式がしたいとか、こんな結婚式がしたいとか考えていたことは、全部、自分自身のためだった。やっている自分が、うれしいことばかりだった。
 
何のための結婚式だったんだろう。誰のための結婚式だったんだろう。
遠くから、祝いに来てくれるゲストのための結婚式だ。
わたしは、沖縄のひとになるのだ。夫と一緒に、ここに住む人たちと生きていくんだ。
 
わたしはせいいっぱい、沖縄の花嫁をやることに決めた。
あの夢の国で、日々訪れるたくさんの人々を笑顔にする「彼」のように。
 
300人? どんと来い! だ。ドレスなんて白ければいい。
「きっと、楽しい結婚式になるよ! ハハッ!」
という声が、どこからか聞こえる気がした。
 
***

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2017-11-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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