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女子を落とすなら高級店に行ってはいけない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:加藤梨里(ライティング・ゼミ平日コース)
 
「全く理解できないよ。せっかく奮発してCタワーホテルの最上階でシャンパン空けたのに振られるなんて」
 
彼はぼやいた。酔いが回って上気した頬は、納得いかない結末への怒りも相まって一層赤らんだ。
 
36歳独身、身長175センチの彼は、ルックスもそこそこ。5年前にコンサルティング業で独立開業して以来、順調に業績を伸ばし、今では正社員5人を雇う経営者だ。ただ、世間でイメージされるベンチャー起業家と違って、彼は恋愛にめっぽう弱い。美女をはべらせて六本木で毎晩飲み明かすなどもってのほか、私と知り合って以来5年間、彼女がいたことすらない。
 
「結婚したい」「彼女がほしい」が口癖だ。知り合いに頼み込んでセットしてもらった合コンは100回以上、婚活パーティーへの参加は30回を数えるが、いまだ鳴かず飛ばずの状態が続いている。
 
そんな彼は今、ある女の子に振られたと言って居酒屋でハイボールを傾けながら愚痴っている。初デートの感触は良かったはずなのに、直後に振られたそうだ。
 
「最初にレストランで食事をして、それから渋谷のCタワーホテルに行ったんです。最上階のラウンジバーです。あそこ、めちゃくちゃ夜景がきれいなんですよ。で、思い切って乾杯にシャンパンもあけて。1本3万円くらいするやつ。僕にしてはかなりがんばって投資したんですよ。いい雰囲気だったんですけど。何がいけなかったんですかね?」
 
すると、一緒に飲んでいた40代既婚男性が聞いた。
 
「何と言って断られたの?」
 
「初デートの翌日に、お礼がてら次のデートの約束をしようと思ってLINEしたんです。そしたら、『ホテルの最上階のバーで毎回デートするような方に、私はついていけません』って」
 
「あぁ、なるほどね」
 
既婚男性はその回答に大きくうなずいた。
 
「それは当然のことだよ。初デートでホテルのバーはまずかったね」
 
「え? なんでですか? 僕は彼女のために思いっきりおもてなししたし、お金だってかけたのに、そんなのあんまりですよ」
 
「いや、それが大きな勘違いなんだよ」
 
1本3万円するというシャンパンを、渋谷の一等地にあるタワーホテルの最上階のバーラウンジで開けるのは、彼にとってかなり思いきったことだったはずだ。今ではビジネスに成功しているとはいえ、たったひとりで独立開業して会社を成長させるまで、彼は相当な苦労をしてきた。開業から半年は売り上げがなく、赤字続きの経営にひやひやしていた。成功した今でも、彼はあまり贅沢を好まない。一人暮らしの夕食はコンビニ弁当がメインだし、部屋も家賃7万円の1ルームと、都心の独身住まいにしてはごく普通の暮らしをしている。そんな彼にとって、3万円のシャンパンは清水の舞台から飛び降りるような大投資だっただろう。
 
にもかかわらず、その3万円の投資ゆえに振られたとは、何とも皮肉なことだ。
 
不服そうな彼に、私は聞いた。
 
「その子は、お嬢さまっぽい人だったの? もしくは、バリバリ稼いでいるような人とか」
 
「いや、ごく普通の事務職のOLさんです。26歳です。」
 
「なら、やっぱり初デートでホテルのバーはナシだね」
 
「なんでですか?」
 
「だって、そこじゃあなたの良さが彼女に全然伝わらないでしょ?」
 
えっ? と彼は面食らった。
 
「でも、その日はおろしたてのスーツを着てたし、髪もしっかりセットして行ったし、ブランドの腕時計も着けていたし、オヤジ臭がしないように全身に消臭スプレーもかけて行ったんですよ。ホテルのバーに行っても大丈夫な格好だったと思うんですけど」
 
あぁ、彼は完全に空回っているな、と私は思った。彼女いない歴が長くなるにつれ、彼のデートに対する入念さは年々増している。だがしかし、それに反比例するように彼から「彼女」という存在が遠ざかっているようだ。
 
「あのねぇ、そういうのは最初のデートでやるもんじゃないんだよ」
 
と、既婚男性が諭し始めた。
 
「2人の関係が深まってからなら、最上階のバーで夜景を見ながらシャンパン傾ければ、そりゃロマンティックなムードになるかもしれないよ。でも、まだまだお互いのことを全く知らない段階でそれをやられちゃ、女の子だって警戒するでしょう。」
 
「はぁ」
 
「この後どこに連れていかれるんだろうか? まさかこのホテルの部屋に連れ込まれるんじゃないか? とか思うかもしれない。そういう恐れを抱かせてしまったら、彼女はデートになんて集中できないだろう? そうなったら、君のことなんかどうでもよくなってしまうんだよ」
 
「そんなことこれっぽっちも思ってませんよ!」
 
「君はそんなつもりなかっただろう。ただ、カッコつけたかっただけだと思う。だとしても、そのカッコつけが良くないんだよ。しかもその手段にホテルのバーを使っては」
 
「どういうことですか?」
 
「君はまじめで、仕事ができる。愛嬌があって、教養もある。趣味も広い。おいしいお店だってたくさん知っている。無理にカッコつけなくたって、君の良さはいくらでもある。なのに、高級ホテルのバーに行ったら、そのイメージが強烈すぎて、君自身の良さがかき消されてしまうんだよ」
 
確かに、と私は思った。20代後半ともなれば、女性だって慎重だ。表面的なことだけで男性を見ようとはしない。まして、30代半ば、しかも遊び人のキャラではない、むしろ嫁探しに躍起になっている男性が相手となれば、ほとんどの女性は結婚を意識せずに付き合うことはまずありえない。したがって、この人と結婚したら、一緒に生活したらどうなるのか? を少なからず想像する。デートの際には、その想像の材料になる相手の人柄や生活感、金銭感覚、価値観の片りんを事細かく探ろうとするものだ。
 
にもかかわらず、それらを一切臭わせないような場所に行ってしまえば、それを垣間見る隙がない。相手の人となりは全く見えてこない。しかも、デートで行った「場所」に強いブランドイメージがあると、そのイメージのほうが染み付いてしまう。
 
きっと彼女に残ったのは、「Cタワーのシャンパン男」という記憶だけだったのだろう。「毎回ホテルのバーに行くような人についていけません」という彼女の言葉は、「パートナーにそんなことは求めていません」という意味なのだ。
 
じゃあ、彼はどこに行けば良かったのか? 既婚女性の私から言うならば、何の変哲もないレストランで良かったと思う。高級なんかじゃなくてよい。喉から手が出るほど彼女がほしい独身男性にはそう簡単ではないかもしれないが、大事なのは、彼が背伸びをせずいつも通りに振舞える場所だ。たとえば、行きつけの居酒屋とか、蕎麦屋とかで十分なんじゃないか。間違っても、本当は自分にとってアウェイな場所に、あたかもホームのようなふりをして行かないことだ。女性は、そういう違和感には男性の100倍くらい敏感だ。
 
「でも、カッコつけないと自分のことを気に入ってもらえない気がするんですが」
 
と彼は言った。いや、そんなことはない。カッコつけた彼を気に入るのは、遊びを求めている女性だけ。本気でパートナーを射止めたいなら、次のデートはカッコつけずに思いっきり素の自分で振舞えばよい。それが、悩める婚活男子への一番の処方箋じゃないか。
 
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2017-11-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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