メディアグランプリ

うんとダメな子に、育てよう。


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記事:さつき(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
子供が3年間不登校でした、なんていうと、荒れ果てた家庭を想像されるかもしれないが、実のところ我が家はとてものほほんとしたうちだ。専門学校を出てカジテツちゃんで社交ダンスに夢中な21歳長女、不登校から復活してただいま大学生活満喫中の20歳次女、風景写真家の夫、士業の妻がかなり仲良く、ぬくぬくと暮らしている。
それでも次女が原因不明のまま高校に通えなくなったときは、それなりに修羅場ではあった。人にも会える、外出もできる、しかし学校にだけ、どうしても行けない。本人は学校も勉強も大好きなのに。自律神経のバランスが崩れ、胃腸障害、喘息、めまいなど様々な症状に見舞われ、本当に親子ともどもつらい日々であった。かかる病院、かかる病院、みな違うことを言い、そして症状はちっとも改善しない。最終的に伝手をたどって不登校の名医といわれる医師にかかり、そこで初めて正確な病名がついて胸をなでおろしたのだが、それからが長かった。
「これは効くはず」と言われた薬がどれもちっとも効かず、合う薬が見つかるまでに途方もない時間がかかった。しかもその途中で「効くけど副作用が強い薬」を使わざるを得ず、胃の弱い次女は全く固形の食事がとれないほど食が細くなってしまった。最終的に7キロ痩せた時点で私が泣いて抗議し、ようやく胃に影響が少ない薬に変えてもらったという経緯もある。
しかしそれ以上につらかったのが、親なりに最善を尽くしてきたつもりの、子育ての方針を変えざるを得なかったことだ。夫婦とも子供を持つことを切望し、心から望んで二人の子供を持った。子供ができて幸せでうれしくて仕方がなかった。こういうことをしてやりたい、こんな風に育てたいね、夢がたくさんあった。それを全部捨てて、医師の指示に従うように言われたのだ。
しかもそれは、いわゆる不登校の治療で行われている方法とは全く逆であった。個室を持たせてパソコンでもゲームでも欲しがれば欲しいだけ買い与えてください。夜中までゲームやネットをしていても、制限しないでください。朝、決して起こしてはいけません。
不登校になっている状態で、その指示にすんなり従える親がどれだけいるだろうか。
 
しかし、歯を食いしばってでも従うしかなかった。現状を正しく診断し、改善してくれたのはこの人だけだったのだから。
 
それでも3年の時間が必要だった。ちょっとしたきっかけから次女は劇的に回復し、今ではレポートが遅れて叱られたり、寝坊して単位が危うくなったりする、ごく普通の大学生になった。国文学が専攻で、20歳のバースディプレゼントの希望を聞けば「宮沢賢治の初版本」と答える。そこは振袖とか田崎真珠のネックレスとか買わせてほしいところだが、かあちゃんは古本屋のサイト巡りを余儀なくされたのであった。
 
彼女の不登校の原因はあくまで病気であり、決して親の育て方が悪かったわけではない、それは主治医にも何度も言われた。むしろ「よいご家族」「愛情たっぷりな家庭」と何度も言ってもらった。
しかし現実として不都合があった以上、自分たちの子育てを見直さざるを得なかった。
もともと、子供ができただけでとてもうれしかった。力いっぱいかわいがって育てるつもりだった。とりわけ次女は妊娠中にたくさんのトラブルがあり、重い障害を持って生まれる可能性も50回ぐらいは聞かされた。それでもいい、受け入れますと答えた。早産で生まれ、やっと無事に育ってくれた子であった。生きていてくれるだけで、幸せだった。
いつからアンナコトもソンナコトもさせなくちゃ、ってなったんだろう。
そりゃあ時代背景もある、競争の厳しい今の時代を生き抜くには、何かを勉強し続けるしか生き残る道はない。だけどそれを親が言っちゃったら、いろいろせっぱ詰まることも、思春期にはもしかしたらあったのかもしれない。
ほしいものを全部与えれば子供はダメになる。そういわれてきたけれど、実際のところ分に過ぎたものを娘たちがほしがることはなかった。今振りかえれば、買ってやればよかったじゃんと思う。元気でいてくれるだけで十分だったはずなのに、いつのまにか「良い子」に育てたくなっちゃってた。
生きていてくれるだけでいい。笑ってくれれば、もっと嬉しい。そう思ってきたはずだったのに。
親は全力で甘やかすのが仕事だったんだなぁ。
やっとわかったよ。
いい子じゃなくていい、うんとダメな子におなり。チチとハハは君たちが笑っていれば全然平気だよ。
 
 
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2017-11-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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