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「書店は舞台である」


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:山田拓也(ライティング・ゼミ日曜コース)

 

 

ある書店を「シルク・ドゥ・ソレイユ」と表現された方を知っている。でも、これは僕が上司に言われた言葉である。それも20年くらい昔。

今でこそ便利な場所にある書店に勤める僕であるが、社会に出てしばらくは、東京から遠いところで働いていた。本社の人が年に一度来るか来ないか、という遠隔地で、同じ年代の仲間数人と、「書店とはどうあるべきか?」という話を毎日しながら、試行錯誤をしていた。

 

良い書店を作って、売上を作って、利益を作る。もちろん商いとして、最低限の理解はしていたつもり。でも、そもそも良い書店って何?

 

時は20世紀末、パソコンがWindow 95から97になり、パソコンが普及しつつも、アマゾンなどのEコマースはまだ生まれていなかった。でも大都市ではジュンク堂をはじめとした超大型店が競って開店し、1,000坪を超える面積に100万冊の蔵書といった、気の遠くなるような数字を高らかに喧伝しながら、新しい書店像を創っている。そんな中で、僕らが働く書店は100坪に満たなかった。

 

こんな規模の店で良い店なんか作れるのか?

いや、在庫数がいくら多くても、お客様が欲しいものがなければ、意味がない。

でも選択肢が多いのは、良いサービスに間違いないよね?

 

こんなことを閉店後の夜遅く、ずっと話していた。

 

そんな時、本社から上司がやってきた。食事をしながらの会話は、自然と業務から逸れはじめ、さまざまな僕たちの思いを伝える流れとなる。また同時に、普段は業務指示しか来ないけれど、上司の視点や考え方といった、普段聞けないような話を聞く機会にもなった。

 

そこで言われた言葉が、「書店は舞台である」。

 

来店客はとうぜん観客。本が役者で舞台にあがり、書店員は監督として、本がどのように演じるのかを創作していく、という。映画と違って、演じる役者の調子や観客によって、同じお芝居でも毎回出来が違う。粗筋が分かっていても、突然のハプニングなどもあって緊張感は常にある。華々しく目立つ主役がいても、脇を固める役者もとても大切だ。舞台道具も手を抜けない。そして観客との一体感が欠かせない。

 

監督は役者とちがって、観客の目に直接触れることはない。しかし舞台の上だけではなく、観客の反応も含めて、隅々までをしっかり見て、その空間を特別なものに仕上げていく。同じ粗筋で同じ役者でも、監督が異なればそれは全く異なるお芝居になる。そういう存在が監督であり、それが書店員の仕事。その先に良い書店が出来上がる。

そんなたとえ話は、僕たち書店員見習いの頭に、染み込むように入っていった。

勿論、粗筋を考えるのも監督なので、適切なキャラクター、登場人物数、イベントも含めた各種演出のタイミング、必要に応じての飛び入り、役者同士の相乗効果、顧客との一体感と、監督=書店員の考えることは多岐にわたる。そして、観客=来店客が再来店をしたくなるような、書店を作れ。絶対値としての劇場の大きさや役者の数は、舞台の出来の良し悪しとは関係ない。そんな話であった。

 

マネジメント的に言うと、部分最適化ではなく、全体最適化を図れ、という話だったのかもしれない。もしくは目先のことだけではなく、継続性を持った運営を考えろという事だったかもしれない。

しかし数十店の書店を各地で開店してきた上司の、経験に基づくいわば書店哲学だ。説得力は満点。僕らは、それ以降広さや蔵書数にこだわらず、自分なりの方法で書店の方向性を模索することになった。

 

20年以上前に言われた言葉を思い出しながら、日々の仕事の中で僕は反省をする。僕の職場はいまだに、監督が様々な要素を盛り込みながら作り上げる本屋になっていないな、と。

 

毎日たくさんの本を仕入れて、販売して、時に返品をしているけれど、各々の本の動きはきちんと見ることができていたか?

目立たない本でも、演出次第では大きく活躍することができる。そんな本を最近発掘しているのか?

出版社と組んで企画した催事の反応が芳しくなかった時、観客の反応をしっかり見ていたのか?

大型イベントの連続投下は目立つけれど、本当にうちに来てくれるようなお客様を喜ばすことができていたのか?

 

理想的な舞台を毎日演出し続けることは、極めて難しい。

しかし閉店後に売り場を歩き、幕が降りた後の余韻を楽しむことは心地よい。今日一日の観客の反応、役者の動き、舞台小道具の効果を頭に入れながら、明日からの改善点を考えていく。 毎日続く舞台。映画上映のように正確に再現しなくて、予期せぬ何かが毎日起こる。そんな書店で働くことは楽しい。そして全国にいる書店員という人たちも、その楽しさを知っている。書店という舞台を日々演出している人たちだ。一観客として、そんな舞台を見て、時に一体感を感じることが好きなので、書店巡りはやめられない。

 

次はどの書店に行こう?

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2017-11-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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