メディアグランプリ

私は、私になっている途中なんですよ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:山田あゆみ(ライティング・ゼミ日曜コース)

 

 

大きな大きなキャンバスの前に、私はじっと立っていた。

ここは美術館で、今日は、ライブペインティングというイベントを観に来たのだ。

音楽に合わせて、画家の方が即興で絵を描かれるのを目の前で眺めることが出来るという。

私には初めての経験だった。

 

真っ白いキャンバスの大きさに少し驚いた。

横4.5メートル、縦1.8メートルもある巨大なパネルに、筆は使わずに、手を使って絵を描かれる。

画家の方は、初め、白く大きなパネルの上に黒でいくつかの絵を描かれた。

でもそれは山のような記号のようなもので、何であるのかは、全くわからない。

次々と色々な形の記号のようなものが、どんどんと並べられていく。

そして今度はあちらへ、こちらへちょこまかと、動きながら色を置いていく。

ほとんどの時間、キャンバスの隙間を埋めるように、色を置いているような感じだった。

 

ただ、全くもって何かが浮かび上がってくる感じはしない。

これが何の絵になるのか、さっぱり見当もつかない時間がほぼ終了間際まで続いた。

綺麗な落書きのような、デザインのようなものが、そこにはあった。

 

でも、最後の方になって、どんどんとさらにパネルには色が載せられていき、ますます深みが出てきた。

徐々に徐々に、形が見えてきた。

1時間と少しがたった頃、真っ白だったパネルには、生き生きとした動物がいた。

大きくて、存在感があった。

色使いも素敵で、迫力もあって、それはそれは美しい絵になっていた。

 

まさか、こんな絵になるとは、さっきまで全然思いもしなかった。

つい少し前までは、単にダイナミックな抽象画だった。

びっくりした。

 

普段、美術館には完成された絵が並んでいる。

絵を見る時、そこにどんな思いを込めたのかと想像することはあっても、どうやって描いたのだろうと考えたことも、思いを馳せたこともなかった。

絵はいつも完成され、完結したものとして私の前にあった。

だから、絵が完成に至る過程を目の前で見るのは、とても新鮮で興味深い経験だった。

当たり前だが最初から完成している絵なんて存在しないのだ。

必ず描き始める前には真っ白な画用紙やキャンバスがある。

そして制作「途中」がある。

 

考えてみると、私たちの毎日も常に「途中」でいっぱいだ。

美術館の絵のような完成品に触れることの方が実は少ない。

 

例えば、人間関係。

日々変わっていく。

家族との関係であっても、穏やかな関係を築けている時もあれば、意見が合わずに対立する時もある。友人関係も恋人関係も、色々な段階や、状況がある。完成した関係というものはあり得ない。

常に築いたり、壊したりするものだ。

離れたり、くっついたり、わかった気になったり、全然わからなくなったりしながら。

 

人生そのものが、そもそも途中を生きている状態だ。

私は、私であり続けるけれど、その私は変わり続ける。

1年前の私と今の私は違う。

そして1年後の私もたぶん全然違う。

それは、経験を積むからだ。

自分にとって重要なものが歳を取ることで変わっていくからだ。

10代の頃に一番欲しかったものと、今欲しいものは違う。

今の理想と、5年前の理想も全然違う。

 

嫌いだったものが好きになる。

ビールは苦くて飲めなかったのに、今では一番好きなドリンクになってしまった。

苦手だったものがそうでなくなる。

昔はパソコンを使うのはそれはそれは嫌だったけれど、今では事務の仕事なんてしている。

得たものはいっぱいある。

同時に失ったものもいっぱいある。

純粋な気持ち。

とがった感受性。

もっとプライドだって高かったような気がする。

何かを得ては、何かを失い、常に変化しながら、やがては訪れる人生の終わりに向かって歩いている。

 

私はずっと私だけど、いつも同じ私ではない。

これまでがあって、これからがある。

その途中にいつもいる。

 

でも、「途中」にいるということを、ついつい忘れてしまいがちになる。

 

こんな私では駄目だと責める。

ひとつ上手くいかないことがあると何もかも上手くいかないような気がして悩む。

人生、終わりだと気が付くと心の中で叫んでいる。

もういい大人なのに、と悲しくなる。

 

ただ幸運なことに、私にはこれからの時間がまだまだありそうなのだ。

人生は続いていく。

そうであるなら、私は、まだまだこれから完成していけるはずなのだ。

 

自分の弱点を責めすぎなくていい。だってまだ途中だから。

何か上手くいかないからといって、そのせいでずっと何をやっても成功しないわけではないのだ。

いい大人では確かにあるけれど、まだまだこれから、もっとさらなる大人になっていくのだ。

だから、途中の今を嘆き悲しまなくてもいい。

 

人生がライブペインティングだと考えてみたら、きっとまだ序盤の方に違いない。

だから、今私が描いている絵が何の絵になるのかなんて誰にもわからなくていい。

自分だけが、こんな風になるんだと完成図を頭の中に持てていたらいい。

 

描きたい絵さえ決まっていたなら、それでいいのだ。

そして、それすら描きながら変えていっても問題ないのだ。

むしろ変えていったらいい。

やってみることでしかわからないことが、この世には沢山あるのだから。

恐れずに、とりあえず色を重ねてみたらいい。

 

今は、まだ途中なのだから。

 

最後の最後に、これが私だと言えるような自分になったらいいのだ。

こんな人生でしたと振り返るのは、終わりを迎えるその時でいい。

 

その時が来たら、その絵を美術館に飾ろう。

タイトルは何にしよう。

最後に決めよう。

まだ、途中だからどうなるかわからないから。

 

どんな絵になるのか、これから楽しみだ。

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2017-11-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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