メディアグランプリ

みんなで作った、みんなのTシャツ


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記事:廣瀬敦子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
「引っ越し完了しました」
 
そんなコメントともにアップロードされた、一枚の写真には、
先輩の自室の写真が写っていた。
その壁には一枚のTシャツが飾られていた。
私はあの時、一人で抱え込まなくて良かったな、と思いながらそれを眺めた。
 
「お揃いのTシャツを作ってみたらどうだろう」
 
大学時代のことだ。
音楽サークルに所属していた私は、5日後のライブに備えて
衣装の相談をしていた。
先輩のアイデアで、バンドのオリジナルTシャツを作ることになった。
メンバーは7人。7枚作らねばならない。
 
元々服を作るのは好きだ。家に帰ると、私は一枚だけ作ってみた。
デザインはパソコンで作る。出来たデザインをTシャツのサイズに合うように
少しずつ大きさを調整して印刷する。これが型紙になる。
型紙が出来たら、デザイン用のカッターで切っていく。
切った型紙をアイロンで接着できるシートの上にテープで動かないように貼る。
固定できたら、型紙に沿ってシートをカッターで切り抜いて行く。
切ったシートをTシャツの上にバランスを考えて配置する。
ずれないように注意深くアイロンをかけ、アイロンの熱でシートを接着すれば完成だ。
 
デザインにこだわってしまったせいで、1枚作るのに結構な時間がかかってしまった。
型紙の線が細かく、切り抜くのに時間がかかるのだ。
しかも、肩と胸元のデザインはみんな同じだが、
背中のデザインは各人の名前にあわせて異なるデザインにしたかった。
 
次の日、出来上がったTシャツを大学に持って行った。
 
「あの、バンドのTシャツ、一枚試しに作ってみたんですが」
 
先輩はTシャツを手にして広げると、すぐに言った。
 
「いいね、これ、人数分作ろうよ」
「でも、これ、たぶん1日1枚ぐらいしか作れないんです。
ちょっと間に合わないかもしれません。もっとデザインを簡単にすれば出来るかもしれませんが」
 
先輩はそれを聞いて、思いも寄らないことを言い出した。
 
「じゃあさ、手分けしようよ」
 
それは、私にとって意外な一言だった。服を作るのは小さなころから大好きだ。
ライブ用の衣装や卒業式用のワンピースを作ったこともある。
しかし、それは、家で一人で細々とやることだった。
自分で考えたことを、他の人に手伝ってもらって形にすることをしたことがなかった。
もちろん、バンドのメンバーとも、こういう事をしたことがない。
でも、先輩も、他のメンバーも手伝うと言う。
 
「ひとまず必要な材料を買ってきて」
 
先輩にそう言われた私は、残り6枚分の材料を買いに出かけた。色違いの無地のTシャツ6枚も買ってきた。カッターも、もう1本買ってきた。
そうして、Tシャツ作りは始まった。
 
細かい作業は私がやり、分担できそうな簡単な作業は他のメンバーに任せた。
みんな、慣れない作業ながらも、面白がってやってくれた。
昼間、大学の食堂が開いている時は食堂の隅でみんなで作業した。
大学の食堂は夜になると閉まってしまう。
夜は、先輩が在籍している研究室の休憩スペースを貸してくれた。
ここなら、電源もパソコンもプリンターも使える。
アイロンとアイロン台も私が家から持ってきた。先輩がもう一台ずつを持ってきてくれて、これなら、一気に2枚アイロンがけができる。
バンドのメンバーやサークルの仲間が、入れ替わり立ち替わり、出来そうなことを手伝ってくれた。雑談をしたり、差し入れを食べながら作業した。
 
普段、一人で服を作っていた私には、新鮮な体験だった。
一人で作っているときは、途中で失敗しても、一人で悔しがって、一人で立ち直るしかない。
でも、今は違う。失敗しても、みんなが居る。
 
「あーっ、やばい、ごめん、失敗したかも」
「落ち着け」
「一回手離せ、お茶でも飲んで」
 
そんなふうに声をかけあえる。そうすると、不思議と落ち着いて、失敗に冷静に対応できるのだ。
わいわいと作業していると、研究室の教授や学生がどれどれとのぞきに来るぐらいだった。
 
「一度、バンドのTシャツ、作ってみたかったんだよね」
 
夜も遅くになり、黙々と作業していると、
慣れない手つきでカッターを使いながら、先輩がぽつりと言った。
私は分担してみて良かったな、と思った。
 
そうして、残り6枚のTシャツは、ライブの当日までにすべて出来上がった。
好評だったので、協力してくれた人たちのために、追加で数枚を作成してプレゼントした。
 
先輩が大学を卒業し、バンドが解散する日、そのTシャツに、みんなで寄せ書きをした。
私は寄せ書きをするメンバーを見ながら、とても嬉しかった。
私一人でも無理して作れば、期限までにすべて作れたかもしれない。
しかし、私が作っただけでは、ただのお揃いのTシャツが出来ただけだった。
ここまで愛されることはなかっただろう。
チームで作ることには、早く出来るだけがメリットではない。
みんなで作ったからこそ、みんなのTシャツになったのだ。
 
先輩が卒業し、会社の社員寮で撮った机の写真を送ってくれた。
壁にはあの寄せ書きをしたTシャツが飾られていた。
 
***

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2017-12-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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